とっつあんの青春と僕たちの青春
菊池先生は黙って俺たちを見つめてる。
「君たちだけに特別扱いしていたら、この学校の規則が崩壊してしまうんだよ」
俺たちはただただだまってうつむいていた。
ただ岩樹はうつむきながら涙をためていた。ついに教頭先生が重い一言を発した。
「これは、停学も視野に入れなければならないね!」
中村さんが「そんな」と叫んだ。みんな黙り込む。その時、岩樹が口を開いた。
「俺が全ての原因です。こいつらは何もしていません」
岩樹がくもりなき眼で教頭先生を見据えていた。
「俺を停学にしてください」
その時、中村さんが泣き出した。俺もたまらなくなって、
「文章は僕が書きました。字体を確認して頂ければ絶対わかります。岩樹君だけじゃありません。僕も共犯です」
岩樹が「馬鹿っ」と叫んだ、中村さんも
「私が案を出しました。岩樹君や藤やんだけじゃありません。私も停学にしてください!」
岩樹が「違います、違います」と叫んで教頭先生に訴える。
俺と中村さんは岩樹を制する。3人で泣きながら「馬鹿馬鹿」叫んでいた。
とっつあんが「少し静かにしろ」と言う。そして、
「何で、そこまで映画にこだわるんだ」
とっつあんは優しい目をして静かに語りかけた。いつもの毒づいているとっつあんとは違う。目が澄みきっていた。余りに目が澄みきっていたので、俺はまた泣いてしまった。
「菊池先生、僕、いじめられてたのは知っています……よね」
とっつあんはゆっくりとうなずいた。
「そうだなあ、いつもいじめられてたなあ」
「何で助けてくれなかったんです」
「お前たちのことはいつも職員会議の議題に上ったよ。毎日残業だった。無理やりイジメを止めることは出来た。けどな、それをしなかったのは、藤山の為だ」
「僕の為?」
「そうだ。藤山が自分で考え強くならないといつか社会に出た時につぶされてしまう。だから自力でイジメを止めさせるのを待ってたんだ。事実、イジメは終わった」
「僕は小学生から高校生までずっとイジメられてきました。岩樹君と中村さんは初めてできた親友です。同じ夢を追い続ける……」
「どんな夢だ?」
「僕は小説家、岩樹君は作詞家、中村さんはアニメに携わる仕事です。だから……」
とっつあんは澄んだ目でじっと見つめてくれている。
「3人で映画やアニメを見て、小説や詩に活かして夢を追いかけたいんです。青春がしたいんです。僕はイジメられてきて青春がありませんでした。だから教頭先生、菊池先生、僕たちにチャンスを下さい」
教頭先生と菊池先生が真剣なまなざしでこちらを見る。
「今度こそ、今度こそ、岩樹君と中村さんと青春ってものを駆け抜けてみたいんです」
俺は必死に口をぱくぱくさせて訴えた。訴え終ると、下を向いて黙った。
とっつあんは、しばらく黙っていたが、天を仰ぎ始めた。目には涙をためている。教頭先生が慌てて菊池先生に話しかける。
「どうしたんですか、菊池先生!」
菊池先生は目頭を押さえながら答える。
「ちょっとこいつら馬鹿だと思いまして……」
教頭先生が黙り込む。それから俺たちの方を向いて、
「もう一回、職員会議に掛けるから、また後日来なさい。今日はもう帰りなさい」
そう言って俺たちを帰した。
帰る途中、中村さんはずっと泣いてた。俺も放心していた。夕日に照らされながら、岩樹がしみじみ言う。
「とっつあんのあんな澄んだ目初めて見た……」
中村さんも泣きながら、
「私、とっつあん、どんな青春送ったのか知りたくなっちゃった」
3人放心したまま帰路についた。
次の日、改めて菊池先生に呼び出された。とっつあんは渋い顔をしていた。
「視聴覚室にあるDVDレコーダーを使うことを許可する」
中村さんが手を万歳して「やったー」と叫ぶ。岩樹もガッツポーズする。
俺はというと何故かもじもじしていた。
「ただしだ! いくつか条件がある。大丈夫か?」
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