誓い
「菊池先生、DVDレコーダー貸してください」
とっつあんは伏目がちにこちらを見ると、
「何に使うんだ?」
岩樹が職員室に響くような通る野太い声で答えた。
「映画鑑賞です。映画をたくさん見て、物語のパターンを知りたいんです」
とっつあんは耳をほじり、ほじり出した耳くそをしばらく眺め、ふっと吹いた。
「話が見えんな。もっと順序立てて話してくれないか?」
「だから、映画を一杯見て、研究して、詩や小説を書く勉強をしたいんです」
菊池先生は遠い目でこちらをじっと見ていた。
「よく話は分からんが、駄目だ」
「どうしてです」
「いちいち生徒の言うことを聞いてたら学校の風紀が乱れちまうだろうが!」
岩樹が「でも」と言う。
「でもじゃない。駄目なものは駄目だ。以上」
菊池先生は立ち上がると、職員室を出て行ってしまった。
その話に憤慨したのは、意外なことに中村さんだった。教室に戻ると、中村さんが「どうだった」と聞いてきたので、俺がありのまま答える。中村さんは机の上に座って聞いていたが、
「ちくしょー。菊池の野郎。先公だからって調子に乗りやがって!」
中村さんが歯を食いしばって本気で悔しがっていた。
中村さんも単身で乗り込んで行ったが結果は同じだった。
帰って来て、机の上であぐらを組んで何やら考え始めた。しばらくして、
「ねえ、藤やん、あんたの文章力使いたいんだけど……いい?」
「どうやるの?」
「校長先生に手紙を送るの! どういう想いで文章や絵に賭けているか、どういう想いで映画を見たいかなどの想いを文章に込めて先生に渡すの」
岩樹が「そこまではやっぱ」と初めて尻込みした。
「岩樹も藤やんも私も大輪の花を咲かせるんじゃないの。これぐらいのことなんて屁の河童でしょ!」
岩樹は腕を組んでうなった。中村さんはキラキラした目で俺と岩樹を交互に見つめた。
「ねえやろうよ。二人とも。夢の一歩と思えばだよ!」
岩樹が呆然とこちらを見つめている。
ふと岩樹が明るい声で
「今から焼肉食いに行くぞ」
中村さんが「お金は?」と一言。
「藤やんと中村さん、いくらもってる?」
俺は2000円ちょっと、中村さんは4000円ちょっとだった。
「池袋に3000円で焼肉食べ放題の店あるから行かねえか? 足りねえ分は俺が出しちゃるから」
中村さんも「行こう行こう」と言う。
その日、夕食は焼肉だった。ジュースを片手に乾杯という。
「よおし、準備はいいか。俺たちの誓いだ」
中村さんが「誓い」と呟く。
岩樹がすうっと息を吸い込むと、岩樹は俺と中村さんのコップに軽くコップでタッチした。ジュースが軽くこぼれる。
中村さんも思い切り俺と岩樹のコップに自分のコップをぶつけた。
俺はと言うと、無言で全ての想いを込めて、岩樹と中村さんのコップに自分のコップをぶつけた。岩樹は、はっと言うと、大笑いした。つられて中村さんが笑った。俺もつられて笑った。いつまでも三人で笑っていた。
次の日手紙を校長先生に渡した。校長先生は事情を話すと困った顔をして手紙を受け取ってくれた。
そしてさらに3日後。
俺達3人は教頭先生ととっつあんに呼び出された。教頭先生にめちゃくちゃ雷を落とされた。
「何やってんの。校長先生に手紙を渡すなんて。立場分かってんの」
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