岩樹と中村さんと僕と
岩樹がぴくっと動いてA4の紙がある場所を見るが、そこには何もなかった。
中村さんがスカートをぱたぱたさせながら、詩を読んでいる。
「ちょ~意外!」
中村さんが歓声を上げる。
「で、相手誰なの?」
岩樹が顔を真っ赤にしてドモリながら言う。
「誰だっていいじゃねえか!」
「ま~ともかく……」
中村さんがこっちを見てにっこりした。
「藤やん、岩樹、私たちタッグを組んで一緒に物語の研究しようよ」
「藤やん?」
俺は自分を指さした。中村さんは
「そっ、豚眼鏡じゃ嫌でしょ!」
「ちょっと待て!」
岩樹が口をぱくぱくさせる。
「何よ、藤やんの事、豚眼鏡って言うつもり」
「そうじゃねえよ、何で勝手にお前が入って来るんだよ!」
中村さんはニシシと笑うと、
「紅一点って奴?」
岩樹が口を半開きにして目を開いてる。
「それにさ、あたしも興味あったのよね。私将来、アニメの仕事付きたいし」
中村さんが空中で絵を描いている。
「あんた達だってメリットあるはずよ」
岩樹が突っ込む
「メリットって何だよ?」
中村さんが岩樹の詩を親指と人差し指でもってひらひらさせている。
「まず、岩樹のメリットとしては、女子の心を知ることで詩にリアリティーが出てくる。それに私、アニメは結構みてるから色々紹介出来ると思うしね!」
中村さんが人差し指を唇に置く。少し色ぽかった。
「次に、藤やんのメリットとしては、あんた正直キモい。あんた全く、クラスのみんなとしゃべれてないじゃん!」
俺はうつむく。
「でもさ、さっきも岩樹が言ってたけど、コミュニケーションって場数だと思うんよ。だから私と岩樹を練習台に使いなさいよ。さらにそのコミュニケーションを小説に活かせばリアリティーのある作品が描けるんじゃないの?」
岩樹が「どうする」って俺に問いかける。
正直こんな無茶ぶりをと思った。
沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは中村さんだった。
「ああもう、あんた達、トロいね。藤やん、どうするの? 私嫌って言われても別にいいし。一人で夢を追っかけるし!」
中村さんがじっとこっちを見ている。
中村さんがとうとう切れた。
「はい、イエス、ノーどっち。ノーね! 分かりました」
その時、岩樹と俺が二人して「イエス」と叫んだ。その様子を見て、中村さんが笑った。
「じゃ決まりね!」
そう言うと、中村さんは駆けて教室に戻って行った。途中こっちを振り返ると、
「これからよろしくね!」
弾けるような笑顔と弾けるような高い声を響かせ去って行った。残された岩樹と俺は二人してずっと呆然としていた。岩樹がポツリと言った。
「藤やん、大変なことに気が付いた」
「どうしたの?」
「熱くなりすぎて、昼飯食うの忘れてた……」
俺もはっとなり呆然とする。岩樹が俺の様子を見てあっはっはと笑った。
「お前も俺も馬鹿だな」
岩樹が馬鹿万歳というと、地べたに寝っころがった。
いつまでも馬鹿万歳と叫んでいた。俺も張りつめていた糸が切れて空を眺める。雲がゆらゆらと浮いていた。
その日から俺と岩樹は一緒に行動するようになった。
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