文学研究会!
いつもの通り、この日も早く起こされる。……が……8時になっても畑に行かない。おじさんは、イスに座って朝刊をゆっくり見ているし、おばさんにいたっては、朝の連続ドラマを見始めた。おじさんに聞いてみる。
「おじさん?」
おじさんは、朝刊から目を外し、僕を見る。
「何だ?」
「今日は、畑はお休みですか?」
おじさんは、また朝刊に目を戻すと言った。
「いんや……今日はお客さんを待ってから行くんだ」
「お客さん?」
おばさんが時計を見ながら言った。
「もう8時だから、そろそろ来るんじゃない?」
その時だった!
「おはようございま~す!」
元気のいい男の人の声が響き渡る。おばさんが、玄関まで出て行く。おじさんも新聞を閉じて僕に言う。
「それじゃあ、行くぞ」
玄関まで行くと、一人の青年がタオルを首にかけて立っていた。どっかで見た顔……青年が僕を見ると、「よっ!」と言った。
「どなたですか?」
青年は、笑いをこらえ敬礼しながら言った。
「野宿&家出少年よ! 我を忘れたか?」
思い出した。僕をここまで連れてきたお巡りさんだ!
「お巡りさん……どうしてここに?」
青年は、僕の髪の毛をくしゃっと軽く握ると言った。
「あ~純さんでいいよ~ 畑の手伝いを兼ねてやってきました」
「畑の手伝いを兼ねてって今日なんかあるの?」
純さんは、自分の頭をぼりぼり掻いた。
「細かいやっちゃなあ~ 今日なあ……勉強……」
おじさんが口を挟んだ。
「も~雑談はすんだか? 早く畑行くぞ!」
そういうと、おじさんは、歩き始めた。いつの間にか靴を履いている。僕も急いで履いた。
歩きながらおじさんに聞いてみた。
「さっき、純さんに聞いたんですけど、今日何かあるんですか?」
おじさんは、わっはっはと笑いながら言った。
「健一郎! 健一郎は肝っ玉が大きいのか小さいのか分からんなあ」
「でも~」と言う。おじさんは、タバコを取り出すと吸い始めた。
「まっ! 楽しみは取っとけ! 夜から始まるからな! 今は目の前の事に全力投球しろ!」
そういうと、いつの間にか隣に来ていた純さんも「そうそう!」と言いながら肩を組んでくる。なんか逆に気になって仕事が出来なさそう……すんごい気になった。
今日の仕事は、さつまいもの苗を植える仕事!おじさんが畑にトラクターで土を掘り返すのを待ってから、純さんに作業の手順を聞いた。純さんは、僕にシャーペンと紙を渡すと、説明を始めた。そして、話終えると、純さんは、苗を取りに行ってしまった。僕はシャーペンと紙をポシェットに入れると、急いで付いて行った。そして、苗を受け取る……苗って言ってもひょろ長くて頼りなさそう……純さんに苗を見せてそっと聞いてみる。
「これ……大丈夫ですか?」
純さんは、早速苗を植え始めていた。苗を植えながら言った。
「真一さんは、20年野菜を作ってきたプロだぞ」
それもそーだなと思い、畑の反対側に行き植え始める。結局この日は、昼食を挟んでさつまいもの苗を植えるので終わった。
3人が、作業を終わり泥だらけの服を着替え始めると、もうたまらずおじさんに聞いた。
「今日本当に何があるんですか~? も~教えて下さいよ~」
おじさんが、きょとんとした。
「あれ! まだ教えてなかったっけ」
そーですよと言う。
「悪かった。悪かった。今日はな、1ヵ月に1度の勉強会があるんだ」
「勉強会?」
純さんが横やりを出す。
「そーそー! 勉強会! 文学を語りながら酒を飲むんだ」
楽しそう~さらにお酒まで飲めるなんて! も~最高! おじさんは、一言冷酷にも付け加えた。
「健一郎は、酒はダメだぞ! ちゃんと健一郎用に、ジュースも買ってあるからな!」
「そんなあ~」
自分でもびっくりする位情けない声を出した。純さんは、僕の肩に手をやると
「まあ~二十歳になりゃあ、飲めんだから……我慢だな」
この上なく残念だったが、文学について語り合うって何すんだろ~ちょっとわくわくした。
おじさんの家に戻ると、騒がしかった。おじさんは、うれしそうにつぶやく。
「みんな、来てるな~」
純さんも、うれしそうに言う。
「来てますね~」
おじさんの部屋に入る。すると……
「待ってたぞ!」
何人もの人たちが狭い部屋に円に座っていた。数えてみると、9人いた。おじさんと純さんは、その中に入っていく。
僕はというと、どうしたらいいのか分からないので立っていた。すると、おじさんが……
「この子は、俺の甥っ子の健一郎と言うんだ。皆よろしくな!」
そう言って、僕を皆に紹介した。皆が僕を一斉に見る。おじさんがとがめた。
「ほらっ! 健一郎! 自己紹介しろ!」
ごにょごにょと自己紹介する。そうしておじぎした。みんな大笑いした。一人が言った。
「緊張しなくていいんだよ。ここには悪い人はいないから~あえて言うなら純だけかな!」
純さんは、あわてて打ち消した。
「ちょっと待って下さいよ~宋さん! 俺は、清廉潔白ですよ~」
宋さんと呼ばれた人は、笑ってウソウソと言う。皆がまた大笑いする。皆がひと段落すると、おじさんが、「ここに座れ」と言った。おじさんの隣に座る。おじさんが、僕の座ったのを見ると、手をパンと叩いて声を高らかに言った。
「じゃあ、始めようか! 文学研究会! じゃあ純、今回の小説を皆に配れ」
純さんは、僕を入れて十一人に分厚い紙の束を配った。おじさんは、配っている途中に、言った。
「文学研究会というのは、皆がそれぞれ書いた作品を持ち込んで批評しながら、お互いに高めあっていこうという会なんだ。で……今回は純の作品なんだ。純は、すごいんだぞ! こん中でいっちゃん若いのに、一番文章が力強い」
その間に純さんは、配り終わったようだ。純さんは僕達をじっと見ていた。おじさんは、「悪いな」と言った。純さんは「いえいえ」と言う。そして、みんなを見渡し言った。
「今回の作品のタイトルは、『でっかいどう! は北海道!』これは、僕が、北海道を実際に旅行して着想しました。どうぞ、皆さん宜しくお願いします」
純さんは、深深とおじぎした。みんなは、小説を読み始めた。辺りはしんとなる。僕も読み始める。内容は卒業を控えた3人組が北海道に行き、哲学の木、夏雲と秋空の境目を見たりして、青春を楽しみながらそれぞれに夢を誓いあうという話だ。大体は、コメディに書いてあるのだが、所々に風景描写・心理描写などを巧みに入れてあるのだが、3人の友情に涙がこみ上げてきた。とても感動した。青春っていいな。そう思える小説だった。でも……ちょっと悔しかった……僕が読み終えると、まだみんな読んでいたので、僕はあわてて原稿に目を落とした。それから、20分後、みんなが読み終わったようで、もう顔を上げていた。宋さんが口火を切った。
「どっかの賞に応募したのか?」
純さんはためらっていたが……言った。
「はい……小さな賞ですが……」
宋さんは、「ふうん」と言った。もしかしたら、賞に入賞するかも……心によぎった。とにかくそれから批評会が始まった。やっぱり焦点は、夏雲と秋空を見て、季節の変わり目を見たという表現だった。みんな、最初は神妙にしていたが、段々議論が激突してきた。途中からビールも運ばれてきた事もあって、とても騒がしくなった。僕は、コカコーラの1リットルのボトルをちびちび飲みながら聞いていた。そうこうするうちに皆の意見も固まってきた。皆の意見は、もしかしたらこれは入賞するかも知れないぞ! だった。みんながほめたたえるのを聞いて段々いらいらしてきた。おじさんが、赤くなった顔で僕に聞いてくる。
「健一郎はどう思った」
「もうちょっと校正した方がいいんじゃないんですか?」
心にもないことを言ってしまった。みんなが騒ぐのを止めて僕を見る。
純さんは、僕を見て言う。
「どこをどう直せばいいのか教えてくれないか? 勉強したいんだ!」
純さんの僕を見る目は、一点の曇りはない……もう一回純さんが僕に言う。
「怒らない。むしろうれしいんだ。教えてくれ。僕は、独学だ。穴は一杯あるはずだ。教えてくれ」
純さんは、まっすぐな目で僕を見ていた。僕は、心の中で叫んだ。そんな目で見ないでください。その時、過去のトラウマがよぎる。一瞬後輩の姿が映る。息は乱れる。ついに、「もう眠いから寝ます」と言っておじさんの部屋から逃げ出し、部屋に戻った。布団は敷かれていた。枕に顔をうずめた。いつしか眠りについた……
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