夏真っ盛り
次の日は、午後1時からおばさんの手伝いをした。畑は「もー今日はいいよ」と言われた。何故かと言うと、今日は今年一番の猛暑日で、僕が倒れてはいけないと家に帰されたのだ。そして、今現在、昼の3時……おじさんの小説を読んでいると、おばさんが僕を食堂まで呼んだ。
「健一郎~! ちょっと来てくれる?」
僕は、「は~い」と言いながら、食堂に入っていく。見るとおばさんが、スイカを皿に乗せてラップしていた。おばさんは僕にスイカを渡しながら言った。
「お父さんに持っていってくれる? 一緒に食べなさいな~」
おばさんの顔は満面の笑みを浮かべている。僕も、夏に入ってからスイカを食べていなかったからとてもうれしかった。
「いいよ~。今から持って行くよ~」
玄関に行くと悪いわねえと言いながらおばさんも見送ってくれた。
「行ってきま~す」
元気よく出て行った。
外は、とても暑かった。歩いているだけでも汗が噴き出てくる。蝉のミーンミーンというバックコーラスがさらに体感温度を上げる。(多分……)十分歩くだけで、もーTシャツが汗で濡れている。目にも汗がしたたり落ちて滲みるのでその度に目を拭う。
畑に着いて、おじさんを探すとどこにも見当たらなかった。どこかな~と探していると、なんとプレハブ小屋の日陰で座って休んでいる。大声で呼ぶのも何なので、近寄って行った。
おじさんは、氷を入れたビニール袋を頭に乗せて座禅を組んでいた。その姿は、何と言えば分らないが、気高さがあった。その気高さに見とれつつおじさんと小声で声をかけた。おじさんはゆっくり目を開けると、僕を見た。
「おお……健一郎か……どうした?」
おじさんは、元気が無かった。おじさんの目の下にはクマが出来ていた。とっさに聞いてしまった。
「おじさん! 大丈夫!」
おじさんは、力なく笑いながら、「まあな」と答える。おじさんは、持ってきたスイカを見ると言った。
「もしかして、健一郎、3時のおやつを持ってきてくれたのか?」
うなずく。おじさんは「よっこらせ」と立ち上がると、「こっち来い」と言ってプレハブ小屋の中に入って行った。見るとおじさんはふらふらだった。大丈夫かな~そんな不安がよぎった。
僕とおじさんは、イスに座ると、机にスイカを置いて一緒に食べ始めた。いつもは、おじさんは元気なので心配なかったが、今日は元気がないので見守っていた。すると、あることに気がついた。
おじさんの右手に縫った後があるのだ!
思わず聞く。
「おじさん! 右手どうしたの! 縫った後あんじゃん!」
おじさんは、食べるのを止めて右手を見ると笑った。
「ああ……これか! これは鎌で切って3針縫った後だ。俺も素人だからな」
必死だった。
「素人とか、そんなことじゃなくて……」
答えに詰まる。おじさんは、スイカを一切れ食べ終えると、もう一切れ取って食べ始めた。頭の中にはひとつの大きな大きな問題が浮かんできていた。
「おじさん! 何でそこまで農業にこだわっているのさ! こんな暑くても野菜の面倒みなくちゃいけないし、そんな大怪我してまでさ! おじさん文学部出ているんでしょ~ジャンルが違うじゃない!」
おじさんは食べるのを止め僕をじっと見る。そして、無言で出て行った。
10分後……まだ帰ってこない……なんか僕悪いことしたかな~とちょっと不安になる。その時だった。
「戻ったぞ~」
見ると、おじさんの手には、トウモロコシが2個握られていた。おじさんが一つ僕に渡す。
困った。このトウモロコシ……生なのだ……おじさんが僕に言う
「食べてみいや~」
食べてみいやって言ったって……このトウモロコシ生でしょ?食べれるの?おじさんは、もう一つのトウモロコシをがぶがぶ食べている。僕も勇気を出して食べてみる……甘い!
こんな甘いトウモロコシ初めて食べた! 自然に顔がほころぶ……おじさんがちょっと元気を取り戻したのかいつもの調子で話す。
「どうだ。うまいだろ!」
うなずく。おじさんは語り始めた。
「俺が求めているのはこの感動なんだよ! 俺の精魂込めて……そうだなあ……魂で作った野菜をおいしいって食べてくれる! これが、俺がうれしいって思える瞬間なんだ」
泥だらけの顔は神々しかった。かっけえ! これが、もしかして、職人魂ってやつ?なんか、カンドー。
自然に言葉が出た。
「手伝わしてください」
おじさんは、「今日は暑いぞ」と言う。僕は、平気ですと力こぶを出す。おじさんはそれを見て大声で笑った。でも、一つ疑問が残る。
「おじさん……文学部ですよね……作家の道とかには進みたくはないんですか?」
おじさんは、また大声で笑うと言った。
「話は長くなるからまた今度だ! いくぞ!」
そういうと、おじさんは、プレハブ小屋から出て行ってしまった。僕も追いかける。
その日の夜、勉強道具を久し振りに取り出す……古文の参考書……文を読み始める……すると、過去の過ちがフラッシュバックしてきた……気にしないようにしようとするのだが……段々心がもやもやしてくる……ダメだ……僕は、本を閉じると机の上に突っ伏した……
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