波乱の幕開け

 午後1時僕は、秋葉原の電器量販店にいた。本当は、まっすぐにつくばエクスプレスに乗らなくてはならなかったが、ちょっとだけ……という気持ちから電器量販店にいた。


 電器量販店では、3Dのテレビや、なんと4万円の特価品のパソコンまで売っていた。ただし、マイクロソフトオフィス……つまり、ワードやエクセル、パワーポイントが入っていない。でも! でも! 4万円のパソコンは欲しかった。ほぼワードしか使わないので、そんな性能良くなくてもいいし、ワードは、2003年に出たものを持っているから、マイクロソフトオフィスが入ってなくても良かった。夢中になってあちこち見て歩いた。気がつくと4時40分になっていた……あわてて駅に向かう!


 やべっ! 怒られる!


 急いでつくばエクスプレスの改札口を通り、電車に乗り込んだ。電光板を見てみると、区間快速。ちょっとは早い……神様に祈る。どーか神様いるのでしたら間に合うよう取り計らってください。心の中で、手を合わせた。近くの席では、カップルがいちゃいちゃしている。いらいらがつのる! 僕は、席を立つとドアに寄りかかり、文庫本を取り出し読み始めた。


 その結果……


 午後6時を回っていた……約束は、5時……ぜつぼー的だ……


 地図の通りに行くと、そこは畑だった。だだぴっろい畑だった。最初間違いだと思い、近くを色々さ迷った。どうにも分らない。けーたい電話を取り出し家に電話しようと思った……が! バッテリーが無かった。踏んだり蹴ったりだ……その間にも少しずつ暗くなってくる。さすがに夏でも、6時7時になったらそろそろやばい。真っ暗になる。ましてや、ここは見知らぬ土地だ……ちょっと焦ってきた。必死になって付近を捜索する。しかし、人一人出ていない。どうしようか……


 気がつくともう8時だった。空には、月も出ていた。辺りは真っ暗でどこを歩いているのかも分らなくなった。もう一歩も歩けない……座り込む……すると急に眠気が襲ってきた。10分だけと思い目をつむる……


「こら……」


 何かが僕を呼んでいる。目をそっと開けようとする。まぶしい……また声が聞こえた。今度は、はっきりと聞き取れた。


「こら! 君! 起きなさい!」

 まぶしいのをこらえ目を開ける。いつの間にか寝てしまったらしい……お巡りさんだ。暗くてあまり分からないが、まだ若い。20代かな?

「君! 何してる! 家出か!」

「いや……その……」

 お巡りさんの目が怖かったので怯んでしまった。僕は、お袋にもらった地図を見せた。お巡りさんは、僕から地図を受取り、懐中電灯で照らしながら見た。

「こりゃ、真一さんの畑の地図じゃねえか!」

 お巡りさんが鋭い眼光をしながら聞く。

「何の用事があったんだ!」

「いや……その……お手伝いに行けって言われて……僕のおじさんです」

 お巡りさんが、僕をにらむ。

「本当か! うそじゃないだろうな!」

 僕は、焦ってしまって言葉がうまく出てこなかった。お巡りさんが僕の手を取って言う。

「家出かどうかはっきりさせる! これから真一さんの家に連れていく! うそだったら、一日署に泊まってもらうからな! 親御さんにも連絡する。」


 10分後、お巡りさんと一緒に道を歩いた。いや……ある意味連行だ。しょーじき不安だった。もしも、お袋が地図を間違って書いていたら……そう思うと不安が風船のように膨らんできた。お巡りさんは、無言だった。僕も話す気にはなれなかった。


 そうこうしているうちに、アパートについた。お巡りさんの後に付いていく。やがて、ドアの前に着いた。お巡りさんが、チャイムを鳴らす。どたどたと音がしてドアが開く。山之内のおばさんだ。

「健一郎君! 今までどこいたの!」

 僕は、「すみません」と言う……

「あれっ! 本当だったんだ!」

 お巡りさんが頭をかく。山之内のおばさんは、お巡りさんを見て……

「あれっ! 純ちゃん! どうして!」

 お巡りさんは、表情を崩していった。

「どうしてもこうしても無いですよ~ この子草むらで寝てたから家出少年かと思ちゃいまして……」

 山之内のおばさんが、ご迷惑かけてすみませんと何度も謝った。お巡りさんは、笑いながら「いいですよ~事件じゃなかったんだし~」と、もうまったり~モードに入っていた。そうしながら、お巡りさんは、おばさんは30分談笑すると「どうも~」と言いながら帰って行った。


 おばさんは、僕の頭をげんこつで殴った。

「心配させといて! 連絡の一本でもよこしなさい。こっちは大騒ぎだったんだから!」

 けーたい電話のバッテリーが切れていたことを伝えると、もういっちょ、げんこつが落ちてきた。

「言い訳無用! 謝りなさい」

「すみません」と小声で言う……どうも圧迫されると駄目だ……つくづく根性無しだと思う……

「入りなさい!」

「おじゃまします」と入っていくと、部屋を案内された。おじさんが座って新聞を読んでいた。

 僕は座ると、小声で

「ご迷惑かけてすみませんでした」

と深深とおじぎした。おじさんは、新聞から目をそらさず、つっけんどんに言った。

「明日、早いから風呂入ってもう寝ろ」

 おばさんが、立ち上がって僕を別の部屋に案内する。

 僕は、案内された部屋に引き下がった。もう布団がしいてある。

「それじゃあ、後で風呂ね~」と言って、おばさんは、ドアを閉めた。時計を見ると、もう11時だった。

 布団に倒れこむ。なんちゅう1日の始まりだ……もう泣きたくなった。

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