北の海の風に吹かれて-青春前夜の灯火-
夏も終わりの頃、男三人で北海道旅行に出かけた。主人公の三太郎と友の連と宗二朗の三人である。海産物をたらふく食べる為と、星を見る為だった。都会の夜空は星々が点々とあるだけで、写真で見るような圧倒的スケールの星々というものを見たことが無かった。昔は田舎で見たかも知れないが記憶の彼方へと飛んでいた。だからこの目で星降る夜というものを感じたかった。あと大なんとか洋、の番組で最初に出て来る坂も見たかったのもある。北海道へは飛行機で飛んで、北海道に着いたらそこからレンタカーを借りて、北海道の真ん中を突っ切る予定を立てていた。夏の終わり、秋に北海道に来たのも訳がある。安いからである。そして、最初の目的地。
「やっぱりレンガ凄いねえ」
そういうのは、連。連はイラストレータ志望の40歳。いつも家に行くと、マンガの絵を描いてばかりいる。今はPhotoshopの勉強をするため、カメラでパシャパシャと風景や動物を被写体にして画像に収めている。そして家に帰っては写真をパソコンに取り込んで、色々いじくっている夢追い人。最近、デザイン会社に就職したばかり。いささか仙人みたいなところがあって、人の目を気にしない。「我自由の道を行く」みたいな所があって、すごくマイペースである。時々、そのマイペースさにイライラするところがあるが、それを上回る芸があるので尊敬している。カラオケがめちゃくちゃ上手い。これが結構上手い。本人曰く、小学校の時に、音楽係をやったとかで音楽に目覚めたらしい。しかし、内向的な性格のため、人前ではあまり歌わない。よくてカラオケで歌う。連に昔初めてカラオケに連れて行ってもらったのは今でも覚えている。そして歌い方やリズムの取り方を教えてもらった。でも、リズムの取り方には今でも苦労する。他にも連にはイラストの方でも色彩のことをたくさん教えてもらっている。
そして今でもよく芸術のありかたについて議論をする。いや芸術だけではなく、生き方についても議論する。例えば、生き方と言えば、三太郎は時々人をけなす発言をするが、そのことで大喧嘩になったことがある。「生き方を人に押し付けてはいけない。禍福はあざなえる縄の如し。また人を呪わば穴二つとか」、「今は元気でも落ちる時があるんだよ」とか。「人を馬鹿にする裏にはその人をねたんでいるんだよ」とか散々言われた。「人の生き方は人の生き方、自分の生き方は自分の生き方、何で比較し馬鹿にするんだよ!」とか「人のことを馬鹿にすると自分も馬鹿にされるよ」と真正面に言われたときにはすごい傷ついた。でも自分の心を内省すると自分に間違いなく巣くっている黒い心である。今までいじめられてきた一番の原因でもある。人の事をけなすのはやめようと思った出来事である。少なくとも乗り越えなければいけない壁になった。自分では大人になっているつもりなのにまだまだ子供なんだと分かって今までの自身の発言に情けなくなったりもした。連とはいつもこうして激論を交わせ、またまたお互いに気持ちが折れそうになったら励ましあう刺激的な親友である。
「早く、地ビールが飲みたい」
地ビールを飲みたいとハスキーボイスで宗二朗。宗二朗は、高校時代に友達とバンドを組んでいてベースをやっていた。イケメンで、今はサラリーマンである。女子にいつもキャーキャー言われているが、仕事一筋で彼女はまだいいという大変ぜいたくな人である。 そうこうする間に、昼時になり、飯屋をさまようがどこも混んでいて入れない。この物語の主人公の三太郎が岸辺を見つけ、座り込む。主人公の三太郎は小説家になるために、日々アルバイトをしてお金を稼いで、夜に本を読んだり、小説を書いたりしている。親の期待に応えられなくて、親に社会不適合者といつも言われていて、まあそれが最近の悩み。頭では親のために生きているのではなくて、自分のために生きるのだと分かっているが、毎回ののしられると気持ちが凹む。自分の人生を生きる。それを頭だけでなく五感に染みわたらせることそれが今の人生の壁である。
岸辺の海ではクラゲが漂っていた。ふわふわ漂うクラゲに心を取られ、座り込んでずっと眺めていた。連はカメラをいじっている。そこは雑踏からは切り離されたようにシンとしていた。岸辺にはゴミが漂っている。太陽の光に水面が時々きらめく。じっと眺めていると、人生疲れたなあ。とか、このままいつまでもクラゲを眺めてたいなあとか、このクラゲはいつも何を考えてふわふわ浮かんでいるのかとか、はたまたこのままずっと自分は社会不適合者なのかなとか不安になったり、自身の性格の悪さに絶望したりしていた。
「昔、ここに五人組の学生がふざけて飛びこんで水死体になって上がって大騒ぎになったことがあるんだよ」
いつの間にか隣に白髪のおじいさんが手を後ろに組んで立って語り掛けてきた。横並びに立つ。続けて
「ここの海は冷たいよ」
とかいろいろ言ってくる。もしかして自分たちも飛びこんでしまうと思ったのだろうかと思う。おずおずと、
「クラゲを見ていただけなんですけど」
と言ったら、おじいさんはこほんと咳をして黙ってしまった。気まずい。慌てて。
「昼飯を探しておいしい海鮮を食べさせてくれるところを探していて……」
おじいさんは、それならと言って、地図を書いて地元で有名な海鮮屋を教えてくれた。ありがとうございますと言うと、おじいさんはうんと言ってしかめっつらをした。渋くてかっこいいおじいさんだった。去り際におじいさんは「いい旅を」と言ってくれた。
おじいさんの紹介してくれた海鮮屋は居酒屋ちっくだった。でもいくらが丼をこぼれていたり、ウニも今までたべたことが無いような瑞々しさで濃厚だった。ついでにサザエとアワビも初体験で食べた。サザエのほろ苦さにうまさを感じ、大人になった気がした。満腹になるまで食べても良心的な値段だった。しかもお店の店員のおばちゃんはにこにこしていてこちらまでうれしくなってしまった。サザエを初めて焼いて食べたのだったが、最初は殻から取り出す時に途中で切れてしまった。宗二朗が、
「本当に今まで食べて来なかったんだね」と言って笑う。
「飲み会もほとんど行ったことないし」
そうなのだ。バイトの時給が安くて、ほとんど外食をしなくて、少しでもお金が余れば本につぎ込んでしまう。最近では、図書館というツールも覚えたが、やはり資料はぼろぼろになるまで使うので探して買っている。後、図書館は2週間しか借りれないので、専門書とかになってしまうと借りる時間が足りないのだ。ひどいときには1年かかって読み終えた本もあった。でも今でも図書館でも本をたくさん借りている。ともかく友2人はすでに地ビールをたらふく飲み酔っぱらっている。そしてたこわさびをつまんでいる。連はいつも飲みに来ると、テーブル一杯に料理を注文する。この日もいつもの通り。宗二朗が店員のおばさんに手慣れた様子でおすすめを聞く。焼魚もうまいとの事。少しして焼魚も来る。最初に骨を取り、取り分ける。そして口に運ぶ。ふっくらしてうまかった。当時何の魚を食べたのかは分からないが、うまかったのは覚えている。それから三時間ほど酒盛りをした。三太郎はアルコールが苦手なのでノンアルコールビールを飲む。
三太郎は、大学時代は飲みに行く友達がいなく、お金も無いのでアルコールを飲まない、悲しい青春時代を過ごしたが、気づいたころには身体にアルコールを受け付けなくなってしまっていた。タバコも喘息なので吸えないと思っていたら、一切受け付けなくなってしまった。でも今では副流煙はたくさん吸い込んでいる。友の二人がいつもタバコをぷかぷか吸っているので。カラオケに行くと、タバコのけむりでむせることがしょっちゅう。
ともあれ、三太郎はノンアルコールビールという、人類の英知に感謝しつつ、飲みまくる。会計も良心的な値段だったので、お土産もたくさん買って実家に送った。二人は地ビールを一杯買い込んでリュックの中に入れていた。
帰り際、店員さんたちが「ありがとうね」と言ってくれて、店員のおばちゃんの優しさにほろっときてしまった。お店を教えてくれたおじいさん、店員のおばちゃん、「ありがとう」心の中で何回も手を合わせた。
でも、相変わらず飲み会は緊張する。飲み会の作法とかが分からないのだ。大学時代は一回も飲み会に行ったことがないので、社会人になったときに本で飲み会の作法を勉強した。しかし、初めて飲み会に参加したとき、空気に飲まれて調子に乗り過ぎてしまってしゃべり過ぎてしまい、年配の人にさんざん皮肉を言われてから飲み会が苦手になってしまい、それ以来、飲み会に一回も入っていない。でもその年配の人の名誉のために言うが、三太郎は空気が読めないだけではなく、いろいろと問題のある人間であった。今でもかなり世間知らずで問題があるが当時もかなりひどかった。
その後、会社を退職してアルバイトで食べていくようになってからはますます外界と接点が無くなった。時々、不憫に思ってくれるのか宗二朗が飲み会を開いておごってくれる。神様のような人である。いつか恩返しがしたいなあと思う。そのためには、お金を稼がないと。
一時期、若かったころ、宗二朗の才能、境遇などに嫉妬し、天然で皮肉も言ったりもしてしまったが、すべて受け止めてくれて今がある。いや、宗二朗だけではない、連にもさまざまな汚いところを見せ、いろいろ喧嘩したが、最終的にはいつもまた仲良くなっていた。この二人には特に、連には自身のみっともない所をたくさん見せてしまって申し訳なく思っているが、それでも友達でいてくれるのでありがたい。連のある言葉にはいつも助けられている。ハイになってしまい、自分のことを棚にあげ人のことを批判したりしたときとか、逆に持ち上がってしまって自慢癖がでてきたときに、連と喧嘩して寝込んで落ち込んで、しばらくして謝る時にいつもいう言葉は、「人間だもの」って言ってくれる。そのおかげで少し自身の黒い心も「人間だからしょうがないよね」と頭の中では認められるようになってきた。でも、落ち込むと、今でも自身の黒い心に自己嫌悪に陥る。連と宗二朗はそんなどうしようもない三太郎のことを親友と言ってくれる。本当にありがたいことである。
とまあいろいろあるが、北海道のとある街での温かい人情に触れた一幕。今まで北海道はおいしいものというイメージしかなかったが、この日以来、人情の町というイメージを持ってしまい好きになってしまった。この後、富良野、夕張とかレンタカーで巡って名所をたくさん見て、たくさんご当地メニューを食べつくしたのであった。例の博士の「少年よ、大志をいだけ」のところでは何枚も写真を撮った。しばらくの間、待ち受けに使っていた。
メロンも大物の半分に切ったものがたしか数百円で売っていたので喜んで食べたのも覚えている。ラベンダー畑に行って最初は風景を見ていたのだが、やはりご当地メニューの方が気になってしまった。たしか、アイスクリームだったと思う。行く先々ではラーメンの食べ比べもやった。友にむかつかれもした。レンタカーの助手席に乗っていて、次に行く道を見なくちゃいけないのにいつの間にかグースカ眠ってしまったからである。本当にすいませんである。北海道旅行を満喫して最後の日に飛行機に乗って気づくと三人とも座席で眠っていた。三太郎が起きると、空港に近くてもう目の前にいつもの日常が待っていた。ちなみに星は見られなかった旅行中夜は曇っていたからである。
いろいろな思い出があるけど、また北海道行きたいなあ。また食べ歩きしたい。北海道に行ったらぜひ、海鮮を。おすすめです。
最後にこの言葉を持ってこの小説を締めくくりたい。
北海道はでっかいどう! おいしいどう!
友よ 北海道よ 素敵な思い出ありがとう!
fin
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