一と清ちゃんと自由な鳥チュンスケ
多田野一は、小学三年生です。しかし、学校にはいっていません。最近は、胸の病気をして、家でなおしているのです。
いつものように、一は、しょうじと、まどを開け、夏のにわの草花や、青空を見ながら自分が元気になって遊んでいる様子を思い浮かべていました。
「清ちゃんと、おにごっこして遊ぶんだ。いやいや、飛行機ごっこして遊ぶんだ。僕は、きちょうさんだ」
一は、こんな自分の世界に入っていつも遊んでいました。清ちゃんというのは、一の親友です。物心つくころから遊んでいました。清ちゃんの家は、動物のお医者さんをしています。一が、小学二年生になって、胸の病気をしてからも、ときどき遊びにきてくれます。
この日も、自分の世界に入っていると、お母さんが、ふすまを開け、一に声をかけます。
「一ちゃん。清ちゃんがきてくれたわよ」
そういうと、清ちゃんが、顔を出しました。
「一ちゃん、今日もきたよ」
清ちゃんは、そういうと、顔をにかっと笑い顔にさせます。一は、体を布団から起き上がらせました。
「今日も、学校の事話してよ」
「うん」
おかあさんは、冷たいむぎ茶とおかしを持ってきてくれました。二人は、そのまま二時間程話しました。
「ところでさ、清ちゃんは、生まれ変わったら何になりたいの?」
「考えたことないなあ~一ちゃんは?」
考え込みます。自分のなりたいもの…、
「わかんない。なにになりたいのかなあ」
清ちゃんは、五時になると、帰って行きました。(自分のなりたいものか…)一は、ふと外を見てみると一匹のスズメがいました。
ある日の事です。清ちゃんがいつものようにやってくると、何かを持っています。よくみると、おりみたいです。とりかごです。中に何か動いています。
「清ちゃん、こんにちは」
一は、その清ちゃんが持っているものが気になって聞いてみました。
「それ、なに?」
清ちゃんは、へへっと笑いました。そうして一に誇らしげに見せました。
「これは、スズメだよ」
「どうやってつかまえたの」
清ちゃんがほこらしげに答えます。
「実はな、けがしているんだ」
確かに羽のところをけがしています。お母さんもやってきました。
「かわいそうにねえ」
清ちゃんは手を合わせて、
「ここで、治るまで世話してくれませんか?」
お母さんは、困った顔しましたが、一はうれしく思いました。
「お母さん、ここで飼っていいでしょう?」
「でもねえ…」
「僕が、一生けんめい飼うからさあ」
お母さんは、お父さんに聞いてからといいました。
夜、お母さんと、お父さんは、話し合いました。
その結果、雀を飼ってもいいことになりました。その代りに、ちゃんと世話するようにそれが条件です。その次の日から、スズメは、一が世話することになりました。
一は一生けん命世話しました。
名前は、チュンスケです。その様子にチュンスケも心に届いたのか、チュンスケの頭をなでると、ちゅんちゅんいってよろこんでいるようでした。
そのうちに、チュンスケの羽のけがも治り、おりの中をばたばたと飛ぶようになりました。そのころからおかあさんは、もう逃がしてあげなさいといいました。一は、逃がす様子は、一向にありません。
毎日毎日、そのことで、おかあさんとけんかになりました。
ある日の事です。お父さんが会社から早めに帰ってきて、一の部屋に入ってきました。
「一、入ってもいいか?」
一はうんとうなずきました。お父さんが部屋の中に入ってきて一の布団の横にあぐらをかいて座りました。
「一、チュンスケの世話はしているのか?」
「うん」
「もう逃がしてあげたらどうなんだ」
一はだまってしまいました。
「チュンスケだって、もっと大きな世界で暮らしたいんだよ。好きなものを食べ、好きな場所でねて、生きていきたいんだ。わかるな」
一はくやしなみだを流します。
「じゃあ、ぼくは、どうなるの? 毎日、毎日、布団に入ったままの生活! どこにもいけない! ぼくは、みんなと遊びたい。みんなと勉強したい。ぼくだって…」
一は、言葉をつまらせました。二人の間にちんもくが続きました。一のすすりなく声だけが聞こえてきます。お父さんは悲しそうな顔をしてしずかに出ていきました。
次の日も、その次の日も、一はぼんやりしていました。そして、三日後の朝。朝日がまぶしく、風もいい具合に吹いて涼しいです。一は、チュンスケに語りかけました。
「チュンスケ、外に出たいかい?」
チュンスケは、首をかたむけながら、ちゅんちゅんなきます。
「チュンスケ! チュンスケは、大きな世界をみてきたんだねえ~ぼくもみたいよ」
それを言いながらふと、この間、清ちゃんと話し合った、生まれ変わったら何になりたいかを思い出しました。
「生まれ変わったらかあ~…ぼくは…」
そういうと、一は、なみだぐみました。そして、
「ぼくは、鳥に生まれ変わりたい。今度、鳥に生まれ変わったら、どこまでも飛んで行くんだ。イギリスというところも見てみたいし、スイスというところも…そう、どこまでも飛んでいきたい…」
そういうと、まどを開けると、同時にとりかごの入り口も開けました。チュンスケは、最初は、ないてばかりでしたけれども、大空へととんでいきました。
「さよなら、チュンスケ、今までありがとう。どこまでもとんでいきなよ。チュンスケは、自由なんだから…そして…」
一の両目からはなみだがひとつぶずつ落ちました。
「いつまでも、わすれないでくれるとうれしいな」
そういうと、チュンスケの飛んで行った空をいつまでもながめていました。
次の日から、一は、病院に入院することになりました。具合がわるくなったのです。
病院に入院してからも、清ちゃんは、おみまいにきてくれました。そして、この日もおみまいにきてくれました。
一は、チュンスケの事を話し始めました。
「清ちゃん、チュンスケは、にがしたよ」
「おばさんから、聞いたよ」
「ねえ~チュンスケは、いまごろどこをとんでるのかなあ」
「そうだなあ。意外におんせんつかりにいってたりして?」
そういうと、清ちゃんは、笑いました。落ち着くと、一はこんなことを聞きました。
「もしも、ぼくが、遠くに行ってしまっても忘れないでいてくれる?」
しばらくその場は、しーんとなりましたが、清ちゃんは、声をかすかにふるわせながらいいました。
「あたりまえだろ! ぼくと、一ちゃんは、一生友達だよ」
「ありがとう」
一は、清ちゃんという友達がいることにかんしゃしました。
その夜、夢をみました。トリになって大空をとんでいました。しんせんな空気をいっぱいいっぱいすいこみ、どこまでもどこまでも行こうと飛んでいきます。下には、青い海が見えます。(そうだ、ぼくは、大空をとぶ自由なトリなんだ。どこまでも行こう…そうどこまでも…)
二週間後、一は、たくさんの人にみまもられて息をひきとりました
一年後、お母さんと、お父さんが、一のねていた部屋で、かつての一をおもいだしていました。
「一は、生まれ変わったら何になりたかったか。知っている?」
「鳥だろ。どこまでも飛んでいける鳥になりたいんだろ」
「もう飛んでいるかしら?」
「もういまごろは、すきなところに飛んでいって、すきなものを食べて、おもしろくくらしているに違いないよ」
庭を見ると、一匹のスズメが来ていました。スズメは、そこでしばらくないていましたが、やがて大空に飛んで行きました。
その様子を二人は、いつまでもみまもっていました。
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