ツバメとぼくのさかあがり
岡田太一は、小学五年生です。太一は、太っていて、運動も苦手です。あきっぽさもあります。
そして、今日も苦手な体育…
「今日は、逆上がりのテストをするぞ」
先生がさけびます。
みんなは、ならんで鉄棒を使い逆上がりをやりはじめました。
太一の番です。太一は、手を逆手に、そして、いきおいをつけて逆上がりをやろうとしました。
しかし、うまくいきません。体がうまく動かないのです。太一は、あきらめました。
(どうせ、できなくたって、人生には、関係ないんだ)
その時、太一に向ってやじが飛んできました。
「太一は、どうせ逆上がりできないよな。にぶいもんな」
太一は、思わず下を向いてしまいました。
学校が、三時に終わって家に帰ると、太一は、すぐゲームを始めました。かくとうゲームです。ゲームをやり始めて一時間。ふとお母さんの声がしました。
「太一! 帰っているなら帰っているっていいなさい」
「はい」
太一は、しぶしぶ返事をしました。
「家の中で、ゲームばっかりしていたら目悪くなるわよ。外に出て遊びなさい」
お母さんは太一を家の中から追い出しました。
しかたないので、学校に行きます。鉄棒を見つけると逆上がりの練習を始めました。何度やってもできません。そのうちあきてしまいました。太一は逆上がりをやめると、ぶらぶらと歩き始めました。
学校の裏側に来た時です。ふいに鳥の鳴き声がしました。
上を向くとツバメの巣がありました。中には、ヒナもいます。もう大分大きくなっています。ヒナは、ぴいぴい鳴いて、見ていると、心がいやされます。その日、そばに座ってずっとながめていました。
次の日から雨の日でも、風の日でも、ヒナが気になってツバメの巣を見に行きました。あるとき、そんな様子を見て、教室で前に座っている正君が、尋ねてきました。
「おまえ、一体、いつもなにやってるんだ?いつも、休み時間になると、いなくなっちゃうんじゃないか」
「うん……ちょっとね」
「ふ~ん」
正君は、他の友達としゃべりはじめました。
ツバメの巣に通うこと二週間。
この日、めずらしい光景が見られました。はばたきをしているのです。
巣のはじっこに立って、足をふらつかせながら必死になってはばたいています。思わず心の中で頑張れといってしまいます。
何日か経った頃ツバメのヒナは、無事巣立って行きました。
太一は、ふらつきながらも、飛ぶ練習をしていたヒナの事が頭から離れませんでした。
その日から、太一は、一生けん命に、逆上がりの練習をはじめました。何回も何回も…一人で…
一週間くらいたったある日のこと。この日も一人放課後居残って、逆上がりの練習をしているとふいに声をかけられました。
「もっと。お腹を鉄棒にくっつけないと回れないよ」
正君でした。
「太一君、意外に、努力家だなあ」
正君は笑いました。つられて太一も笑います。
その日は、四時頃まで練習して二人で階段に座って話し始めました。太一は、友達とこうやって話すのは久しぶりでした。いつもひとりぼっちだからです。
次の日からは、二人で練習しました。そして、二週間たったある日のこと、太一は、例のツバメの巣にあんないしました。
「ここから、ツバメのヒナが巣立って行ったんだよ」
「ふ~ん。見たかったな」
「そっか…」
「太一君、いつも休み時間になると、いなくなるもんな」
「うん」
しばらく二人でツバメの巣を見ていました。
ふと太一はこんなことを言いました。
「知ってる?鳥も、最初から飛べないんだよ。がんばって練習して、とべるようになるんだよ」
「だからか、太一君が練習するようになったの!」
「うん」
「今まで、太一君は、いくじのないやつだったもんな」
太一は、下を向きました。
「でも、今では、こんながんばってんもんな。きっとできるようになるよ」
正君は、笑いました。
その日の夜、お父さん、お母さん、弟、そして、太一で夕食を食べていると、お母さんが、
「最近、いつも夕方まで家に帰ってこなくて何をしているの?」
「学校で、逆上がりの練習…」
それを聞くと、お父さんが話に加わってきました。
「へええ、太一! 逆上がりの練習をしているのか」
となりにすわっているお父さんは、太一の手をとってまじまじと見ます。
「太一! たこができているじゃないか」
「うん」
「がんばってんだなあ。なつかしいなあ。お父さんも昔、逆上がりできなくてなあ。必至に練習したもんだよ」
すこしうれしくなりました。(自分だけが苦しんでんじゃないんだ~)
「お父さんも、練習したんだ? 話きかせてよ?」
「よし! 分かった」
お父さんは、昔の事を話し始めました。
太一は練習を続けます。練習すること一か月とうとう逆上がりができるようになりました。
「やった~できた」
「やったな」
その日太一と、正君は、ジュースでかんぱいしました。
体育の時間。逆上がりの時間がやってきました。人という漢字を三回書いてのみこみました。
(いける!)
太一の番になりました。手を逆手にもちます。応援が聞こえます。正君です。
「がんばれ~」
落ち着いて地面をけりました。太一の体は一回転しました。そうして地面におりました。できました。振り返り正君を見ます。正君はガッツポーズをしていて笑っています。太一もガッツポーズをします。すると、今度は、みんなからの拍手がわきおこりました。先生を見ると、先生も、笑って拍手してくれていました。
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それから、一か月後……
「ただいま~」
「おかえり~おやつは~」
お母さんが出てきました。
「いらない。正君達と、サッカーする約束しているんだ~いってきます~」
太一は、外に出ると、自転車にとびのり、元気いっぱい公園へと向かいました。
途中、太一は、空を見上げました。空は、太陽がさんさんとかがやき、雲ひとつありませんでした。それは、まるで、太一を祝福しているような空でした。
完
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