しろーと農業体験記

 空はすみ渡り、入道雲は、高く広くそびえたち、風に草花がゆれる。さいっこうに絵になる風景。でも……しゃく熱の太陽がぼくを照り付ける。暑い……すんごく……不快指数最高(多分……)

 ぼくの名前は、農道 守。小学6年生。今、夏休みで自由研究の題材を探しにお父さんのお兄さんの家に農業の手伝いに来ている。ようするにおじさん。二日間だけいる予定で、明日の朝帰る予定……最初は、やったるぞ!! という気持ちが心の底からわきあがっていたよ。でも、今は何だかなあって気持ち。長ぐつを借りたら中にくもの巣が張ってあってなんとも言えないかんしょく。思い出してもぞっとする。はあ~。

「おい、軍手をはめたかあ~、長ぐつは、はいたか~」

 ぼくは、投げやりに「はい」と答える。おじさんは、簡易プレハブ小屋から出てくると、ぼくのかっこうを上から下まで見た。

「長そでも着てるな、でもまだ甘~い」

 おじさんは、タオルを取り出すと、ぼくの頭にほおかぶりに巻いた。

「冷た~」

 おじさんは、上からさらにぼくの頭にむぎわらぼうしをかぶせると真顔で言った。

「冷たいのは当り前。井戸水でぬらしたタオルだからな。今の時期一番こわいのは、熱中症」

「ねっちゅうしょう?」

「太陽の暑さで頭が痛くなってたおれてしまうんだ。ひどい場合には死んでしまう場合もある」

 ぼくの顔が不安そうだったのだろう。おじさんは、急いで付け加えた。

「だから、水分をとって、直射日光を当たらないようにしっかり防止をしているんだ」

 ぼくは、心の中で、(神様~)と情けない声でさけんでいた。


 まず、最初にやったのは、草むしり。おじさんに連れられ、畑の一角にある草がぼーぼーの場所の草をむしれっていわれたときは、ふらっときた。無茶だ。背の高い草草が、ゆうぜんと風に吹かれてそよそよ言っている。


 心の中で一句作った。

「夏草や 雑草にも 五分のたましい」


 おじさんに言うとカミナリが落ちそうだったので、心の中に川柳を留め置いて、草を抜き始めた。草を力いっぱい引き抜くと、その周りだけ地面がむき出しになった。 地面を見ると、虫達が逃げ回っていた。何匹ものバッタが飛び回り、地面では、カメムシ、クモ、何だかわからない虫が逃げまわっていた。気持ち悪かったが、ぼくは、いやいやながら雑草を抜き続けた。30分仕事をしては、5分休む。本音は、「も~やだ!」暑いし、変な虫はうようよいる。不満度急じょうしょう! 

 それでも、いちおーがんばる。根性無しに見られたらやだからね。


 どれくらい経っただろう。おじさんがやってきて、ぼくの肩をポンッと叩いた。

「すごいなあ。助かったよ」

 ぼくは、おじさんの顔を見て、その後草むしりした後を見た。自分でも驚いた。かなり広いはんいをむしっていたのだった。問題はその後! むしられた草は、太陽で干からびていた。干からびた草は、照りつける太陽のそうぜつさを物語る。正直ぞっとした。

「ごはんにしようか?」

 ぼくは、無言だった。もう言葉を発するのが面倒だった。


 昼ごはんは、うどんだった。例のプレハブ小屋で食べた。おじさんと二人きり。最初は、おじさんが色々しゃべりかけてくれたが、ぼくは「うん」しか言わなかった。 そのうち無言。(来なきゃよかった……)ぼくの頭にはそんな事しか頭に浮かばない。「こうかい」一言でいうとそんな感じ……その時、目の前に一匹のクモが目に入った。でかい。気持ち悪い。


(ごはん食べたら帰ろう)固く心にちかった。

 おじさんは、うどんを食べ終わると、ちょっとタバコ吸ってくると言って出て行った。気が楽になった。場がすごい重かったからだ。


 しばらく経っておじさんが帰ってきた。手にはトウモロコシと、どでかいキュウリをもっていた。おじさんは、ぼくに二つとも手渡し食べてみいと言った。おどろいた。キュウリはまだしも、トウモロコシはどうみても生だった。聞いてみた。


「トウモロコシ生?」


おじさんはコップに水をつぎながらいとも簡単にいった。

「そうだよ」

 ぼくは、どうしたら好いか分からないのでぼーぜんとしていると、おじさんがトウモロコシを手に取り、がぶっと食べた。

「うまいぞ。だまされたっと思って食べてみ~」

 ひとつぶ取ると、口にくわえかんでみた。甘い…やわらかい…確かに生だった。でも、食べられる。しかもめちゃくちゃおいしい!!! むちゅうになって食べた。こんなおいしいトウモロコシは初めてだ。食べ終わるとおじさんに聞いた。夢中だった。

「どうして? どうして生で食べられるの? 家で買ってくるトウモロコシは、なべでむさないと食べられないよ! どうして!」

 おじさんが笑う。

「超しんせんなトウモロコシは、生で食べられるんだ」

 おじさんの顔をじっとながめていると、おじさんはキュウリとぼそっと言った。

キュウリを見る。いつも家で見るキュウリよりかなりでかい。かぶりついた。おいし~。はじけるような甘さと、みずみずしさが口いっぱいに広がる。自然に顔がほころぶ。食べ終わっておじさんを見ると満面の笑みでぼくの顔を見ていた。

(すごい!!)

 心からそう思った。

「こんなおいし~もの初めて食べた。おじさんってすごいね~」

 おじさんはまんざらでもない顔をしてタバコをくわえる。

「午後は、サツマイモの定植を手伝ってな」

「ていしょくって何?」

 ライターを右ポケットから出しながら答える。

「定植っていうのは、ある程度育ったものを畑に植えかえる作業だ」

 そういうと外に出て行った。何だか知らないけど、何かぐっとくるものがあった。


 午後は、おじさんとサツマイモの定植を行った。心はさっきまでと違いおだやかだった。となりにいたおじさんに聞いてみた。

「このサツマイモも、すんごくおいしくなるの?」

 笑みを浮かべる。

「守次第だな。おいしくなれっと愛情を込めて植えれば必ずおいしくなる」

 うなずく。おじさんは、わっははと笑った。一つずつていねいにうえていった。サツマイモの苗にいとおしさすらかんじてしまった。穴をほっていると虫がわんさかいた。気持ち悪かったが、前ほどでも無くなった。暑さもがまんできた。


 理由? 何でか分らなかった。自分でも自分が分らなかった。


 5分間のきゅうけいの時に面白いものを見た。クロネコがとことこと畑までやってきて、前足で穴をほってすわり気持ち良さそうに目を閉じた。

「何してるの」

 おじさんはタバコをくわえる。

「トイレだよ。畑の土はふかふかだから、ネコのトイレにてきしているんだ」

 しばらくするとネコは足で穴をうめてどっかいってしまった。ちょっとした風景にぼくの心は、ぽっかぽっかになった。


その日は、暗くなるまで作業を行った。おかげでサツマイモの定植は終わった。二人ともどろだらけだった。

「守! がんばったな! どろだらけだな!」

 おじさんはぼくの頭をなでる。

「どろだらけは、くんしょうだ」

 大変なことを思い出した。自由研究のこと……。急いでおじさんに言った。おじさんはしばらく考えていたが、ぷっと吹き出した。

「いっそのこと、もう一週間いて、ゆっくり考えるか?」

おじさんはたばこをくわえる。

「自由研究の題材が決まるまでいつでもいてもいいぞ」

「ありがと~おじさん」

 素直にそう言えた。

 急におじさんが目を閉じて耳をすました。まねをする。

うすぐらくなった畑にさわさわと風が通る。


さわさわ…… さわさわ……


 目を開けて「すごいね」と小声でいう。おじさんはたばこをくわえると静かにうなずいた。いつまでも耳をすましていた。

                終わり                                     

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