じゅうどうのかがやき!!

 ぼくの名前は、浅井はやと。小学校五年生です。月曜日と水曜日と金曜日は、じゅうどうの道場に通っています。たいしておもしろくないのですが。今日この日も水曜日。習い事の日です。しかし、今日も道場に行くのが三十分おくれました…別に用事があったわけじゃないのです。買いたいマンガがあったから本屋に行ってから道場に来たのです。


 中に入ってみると、先生の野太い掛け声のもと生徒が汗を流していました。今行っているのは、乱取と呼ばれる練習です。生徒は二十人ぐらい、いましたが、その中でも目を引くのは、坊主の背の高い男の子。一六〇センチあります。名前は、朝倉せいじと言います。ぼくと同級生だけどむかつくやつです。ここの道場では、中学生と対等に渡り合いますし、小学校では女の子にもてるし、勉強もかなりできます。四年生の時、夏休みの読書感想文の宿題で、書いた読書感想文が学校代表になって金賞をもらったらしいです。くやしいけど、文武両道の才は、朝倉せいじのためにある言葉といっても過言ではないです。ぼくは、道着に着替えるとできるだけゆっくりじゅうなんたいそうを行いました。二十分ぐらいじゅうなんたいそうを行うと、丁度他のみんなもきゅうけいに入りました。ぼくも端っこにぺたんと座りこんで、先生を見ました。先生は、ぼくに気がつくとこっちにやってきていいました。

「今日なんでおくれたんだ!!」

「今日は、学校で先生の手伝いをしていましたので」

 ぼくは、うそをつきました。先生の目を見ると先生は目をはずしました。

「じゃあ、しょうがないな。次からもっと早く来るんだぞ」

 そういって先生は、ぼくの肩を叩いて向こうにいってしまいました。それから五分後また練習が始まりました。初回からの相手は、朝倉せいじです。勝てる見込みは、十%未満です。(いたくないように上手に負けよう)と心の中でつぶやきました。

乱取が始まりました。数分後案の定組み伏せられました。ぼくは、ていこうすると疲れるので時間がたつのを待っていました。

「おい!」

 不意に声が聞こえました。いっしゅんとまどいましたが、声の主は朝倉せいじです。朝倉せいじは続けます。

「本当に小学校で先生の手伝いをしてたのか?」

「聞いてたんだ。あれ、うそ。今日発売のマンガを買いに行っておくれたんだ」

 朝倉せいじは、ふうふうと息を整えると言いました。

「ここの道場やめろ。お前みたいなやつがいるところじゃない。もっとじゅうどうが好きなやつが来る場所なんだ」

 ぼくはむかっとしました。

「お前に金払ってもらっているわけじゃないから口出すな」

 そういって、ぼくは、朝倉せいじをにらみました。朝倉せいじは、ゆでたこのように真っ赤な顔をしていました。

 その時です。不意に声をかけられました。先生です。

「もうとっくに時間がたっているぞ。早くしなさい」

 ぼくは、朝倉せいじをふりほどいて立ち上がりました。そして立ち場所につきました。その時です。右あごにきょうれつないちげきを感じました。ぼくは、倒れこみました。さっきの場所をみると、朝倉せいじが、真っ赤な顔をして、こぶしをにぎりしめています。

 すぐ先生はぼくたちの処にとんできて、朝倉せいじをとりおさえました。先生は、ぼくにいたわりの言葉をかけると、朝倉せいじにきつくしかりました。そうして帰るようにいいました。朝倉せいじは、何ももたずくつをはいて道場の外へと飛び出して行きました。ぼくは、正直朝倉せいじに対して「ざまーみろ」と思いました。


 朝倉せいじは、次の日道場に退会届を出しました。ぼくの家にも家族であやまりに来ました。でもぼくは、そっぽを向いたままでした。


 一週間たったある日、電話がかかってきました。電話の主は、道場の先生。来週の火曜日、少し道場にきてほしいとのことでした。ぼくは、面倒くさかったのですが、先生の必死なこんがんで行くことにしました。


 そして、当日の火曜日ぼくは、学校を終えると友達と別れ、道場に来ました。道場のドアを開けてみるとそこには、朝倉せいじがいました。ぼくはすぐ帰ろうかと思いましたけど先生の「終わったら焼き肉おごるから」という言葉につられぼくも参加することになりました。

 先生は、始める前に言いました。

「今日をもって朝倉君はやめる。だから花むけだと思って浅井君も付き合ってほしい」


 正座でのあいさつから始まりじゅうなんたいそう。それに鏡をみての背負い投げの練習。朝倉せいじと二人で行いました。一回一回投げ終わった後鏡をみながらうでの位置などを直す朝倉せいじの真剣なまなざしを見て胸のどこかがぎゅっとつかまれたようにいたくなるのを感じました。


 いくつかの練習の後、先生は二人にこう言いました。

「最後に、二人で試合をしようか!」

 ためらいましたが、朝倉せいじを見ると真剣なまなざしでぼくを見ていました。ぼくは、腹をくくると、立ち位置につきました。朝倉せいじも立ち位置につきました。

「始め」の掛け声ともに始まりました。今回は勝つつもりで背負い投げをかけに行きました。でも、手の位置や足の位置がばらばらなのかすぐくずされてしまいました。そして、逆に投げられてしまいました。倒れこむとぼくは、(やっぱり来なかった方が良かったな)とふと思いました。


その時です…


 すすり泣きの声が聞こえてきました。泣いているのは、朝倉せいじです。なみだがほおを伝って流れています。ぼくは、「ざまーみろ」と思いました。その時です。ぼくの目からもなみだがあふれてきました。必死になってこらえようとしましたが、止められません。


 もう自分の心にうそはつけません。


 朝倉せいじががんばっている姿を見て、感動してしまったのです。(朝倉せいじは、なんでも出来て当たり前だったんだ…それだけ必死だったんだから…そのくせぼくは、楽ばかりしていた。朝倉せいじが怒るのもわかる。ぼくは、本当のばかだ!) すすりなくしかありませんでした。先生が、「浅井…朝倉…」とつぶやくのが聞こえました。ぼくは、起き上がるとその場に正座しました。朝倉せいじも正座しました。ぼくは、泣きながらうったえました。

「先生、朝倉君を辞めさせないでください。ぼくが…ぼくが悪かったのです」

 先生は、「ありがとう」と言うと、二人をだきしめました。先生は、「ありがとう」と何回も言いました。先生の「ありがとう」という言葉は、ふるえていました。


 一年後、ぼくと朝倉せいじは、六年生になっていました。まだ、二人ともじゅうどうをしています。ぼくは、あの事件以来一生けんめいがんばっています。がんばっていますが…朝倉せいじには、勝てません。時々思います。一生勝てないじゃないのか。


 でも…そんな時は、朝倉せいじの男泣きを思い出しては、まだまだ努力が足りないと気合を入れています。いつか、朝倉せいじから一本とることを夢見て

                                 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る