かーのすけ!!

「カー」

 お気に入りの一番高い木の上で、朝日に向かって一匹のカラスが、叫ぶ。力の限り叫ぶ。そうして、ばっさばっさと力強く羽ばたき!

「朝日に照らされる俺の森はなんて美しいんだ」

 朝露をしたたせる若葉、青い空にゆうぜんと浮かぶ雲雲達、せわしなく飛ぶ雀たち。朝の喜び。すべてが、一匹のカラスを祝福している。


 このカラスの名前は、カーノスケ。この森の主。年齢は分からん。ただ言えることは、このカラスは、全身に金色の毛が混じっていて、羽が異常にでかいということ。そこへ一匹のわしがやってきた。カーノスケより一回り小さい若いワシだ。

「おう、カーノスケ。元気か?」

 カーノスケは笑う。ワシの顔がゆがむ。

「いつ見ても、その羽は立派だな。今まで会ったカラスにもそんな奴いなかったぞ」

「そうですか?」

「せいぜい、人間どもに狙われないようにな」

 そうして、ワシはペッとつばを吐くと飛び立っていった。

 あのワシの名は、コンド。俺の座を忌々しく思っている敵だ。ただ、取るに足らない相手だがな。


 森を巡回する。森の空気は格別だ。なんて言うか……爽やか? 温かい? 懐かしい?  遥か昔、俺が生まれていない時代、先祖のDNAが俺の頭に残した匂い。懐かしい匂い。そんなのが、ここの森にはあふれている。俺は、人間どもが住む町で生まれた。あんときゃ、ひどかった。空気がよどんでいた。食うものと言えば、ゴミばかり。俺は、飛べるようになって一年で飛び出した。あんなとこにいられるか。人生、ゴミあさりで終わってたまるか! そんな気持ちで飛び出した。様々な所に行った。灼熱の砂漠、熱帯雨林、どれもこれも性に合わなかった。放浪して三年。やっと見つかった俺の場所だ。


 巡回して、30分程して、一匹の雀が、周りの動物から石を投げられているのを見つけた。すぐさま止めに入る。

「こらこら、いじめは止めなさい」

 石を投げていた動物達は、ぴたっと止まる。

「だって、そいつ、バカなんだぜ。運動神経も悪いし。自慢ばっかするし」

 俺は、雀に向かって、ほんとかと聞く。雀は泣いてばかりいる。俺は、ふーと息を吐くと、

「ともかく、やめなさい。弱いものいじめは良くないことだ」

「でも」

 俺は、大きく息を吸いこみ

「カー」

 叫んだ。その声は、森中に轟いた。動物達は、しぶしぶ去っていく。


 みんなが去っていくと、雀と腰かけて話した。

「今の話ほんとか?」

 雀はうなずく。

「何でだ?」

「自分にとりえがないんです。だから……」

 雀はさめざめと泣く。雀の頭をなでてやる。

「お前、名は?」

「チュン介」

「いい名だ。思い立ったが青春。今からでもやってみろ。それが、鳥の道だ」

 雀はうなずく。俺は羽を大きく広げた。

「じゃあな」

 そうして、飛び立つ。

「じゃあね、カーノスケさん」

 俺はニカッと笑うと大空に飛び立っていた。


 ある日、何人かの猟師が、森に入ったって情報が入った。俺は、すぐさま偵察に行く。そこにはすさまじい光景が繰り広げられていた。雁のじいさんが、狙い撃ちにされていて、パンパンと銃声が響いていた。すぐさま、雁のじいさんの所まで行って、「こっち」と誘導する。じいさんは付いてくる。その間にもしつこく銃声が響き渡る。どうやら、素人みたいだ。安心したその時、


バシュッ


 激痛が走り、まっさかさまに落ちて行った。木の枝を何本も折り、地面に落ちて行った。これまでか? でも、いくら待っても猟師は来なかった。何日寝ただろうか。起きた時には、色んな動物達に囲まれていた。

「大丈夫ですか?」

「お怪我は?」

 俺は真っ先に聞いた。

「雁のじいさんは?」

 みんな黙っている。

「どうなんだ?」

 ネコが、答える。

「撃たれてしまい、人間に連れていかれました」

 俺は、羽を引きずりねぐらへと帰って行き、悔し涙で泣き続けた。その後、医者のリスに見てもらったところもう飛べないとのことだった。


 一ヶ月後、羽を引きずり外に出る。しばらく歩くと、またはやし声が聞こえた。行ってみると、例の雀が石を投げられている。俺は飛び出し止めないかと注意する。動物の子達はハヤシ立てた。

「わあい、雁のじいさんを見殺しにしたカーノスケだ」

「飛べない鳥だ。もう鳥じゃねえな」

 そうして、カーノスケにも石が飛んできた。俺は必死で防いだ。そこへ、「やめないか」と威厳に満ちた声がした。コンドだった。動物の子達はすいませんと言って去っていく。


 コンドは、ニヤニヤしながら、しゃべりかけてきた。

「やあ、カーノスケ。最近見なかったが生きていたのか?」

 そっぽを向くと、コンドは、無理やり俺の顔を正面に向けさせて言った。

「飛べないとなると、金色の羽が台無しだな」

「まっ、せいぜい、余生を暮らせ」

 そうして、コンドはカッカと笑いながら飛んで行った。


 カーノスケは悔しさのあまり茫然としていた。何時間も。気がつくともう夜だった。隣には、雀のチュン介がいる。カーノスケは誓った。

「チュン介、悔しくないか?」

 チュン介はうつむく。

 もう一回尋ねる。チュン介は泣きながら言った。

「悔しい……」

「じゃあ、俺が飛べるようになれば、お前も頑張るか?」

 チュン介は目を丸くした。

「どうやって?」

 俺は笑いながら言う。まあ見てろって


 次の日、リスの医者を連れて、絶壁に来た。リスは不安そうだ。

「どうする気かね?」

 俺は笑いながら言った。

「賭けをしないか? 俺が生き残ったら。飛べるようになるまで面倒を全力で見てくれ。もしも死んだらそれまでだ」

「一体どうする気かね」

「ここから飛び立つ」

 リスは、あわてて止める。

「止めなさい。死ぬぞ」

「生き死には自分で決める」

 神様と雁のじいさんに祈る。神さん、もしも俺が飛べるようになるのでしたら生き残らしてくんさい。それ以外なら、神さんにこの身をささげる。そして、じいさん。俺を恨んでないかい。恨んでなかったら力を貸してくれ。


 飛び立つ


 カーノスケは必死に羽ばたいた。でも落下していく。もう地面まで1mくらい。もう駄目だ。最後のはばたき。


気がつくと、地面に立っていた。汗びっしょりだった。カーノスケは雄たけびをあげた。


 その後、リスの医者は、献身的に面倒を見てくれ、死ぬようなリハビリを続け、一ヶ月後また飛べるようになった。あの雀もいじめられなくなった。もちろん自分の力で。


 カーノスケは、お気に入りの場所で一番高い木の上で、夕日をずっと見ていた。なぜか涙が出てきた。涙が止まんなかった。カーノスケは、泣きながら雄たけびをあげた。金色の毛が、夕日に輝いていた。


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