青春の始まり

澄ノ字 蒼

ある山登り

「頂上についたら飯食おうな。頂上で食う飯はうまいんだぞ」

 親友の真が、歩きながら言います。

「そうだな。楽しみにしているよ」

 僕は、もやもやとした気持ちでいっぱいでした。実は、先週柔道の大会に出たのですが、一回戦負け…それも開始十秒で一本負け…

 この話の主人公は、藤堂太郎。小学五年生。漫画で、柔道の面白さを知った僕は、四年生になると、柔道を習い始めました。しかし、現実はそう簡単ではありません。一生懸命するも、いつも、試合では負けます。最近こんな事を思ってしまいます。(このまま柔道を続けてもいいのだろうか?強くなれるのだろうか?)そんな様子を見て、一緒に柔道をしている親友の真が、今日山に登ろうと誘ったのでした。

 夏の山は、魅力的でした。確かに、暑いですが、それよりも木々の緑がまぶしく生き生きして見ていて気持ちいいものがあります。鳥の鳴き声も聞こえます。

「なあ?太郎?あの鳴いている鳥…なんていう鳥なんだろうな?」

「そうだなあ…なんていう鳥だろう?」

「でもさあ…こういう場所で聞く鳥の鳴き声って新鮮だよな」

 そういうと、真は、近くにあった木をなでると、見上げました。そして、太郎」の方を見ると、笑いかけました。思わず、太郎も笑ってしまいます。歩いて行く途中、滝もありましたし、小川を飛び石で渡っていく道もありました。小川を飛び石で渡っていく途中…

「他の道にすりゃ良かったかな?足がぬれるな…」

 そういうと、真は苦笑いをしました。確かに、二人の足元は、ぬれています。心配は、必要ありませんでした。さんさんと照っている太陽がすぐかわかしてくれました。二人は、そのかわいたズボンのすそを見て、お互いに顔を見合わせ笑いました。

 しばらく歩いていると、舗装された道に出ました。二人は、しばらく無言で歩きました。不意に真が、話しかけてきました。

「そういやさ、太郎さ、柔道…どういう風に考えてる?」

「そうだなあ、好きだよ。でも…」

「でも?」

「負けっぱなしだし」

「負けたら練習すりゃあいいんだよ」

「もうやめようかと考えているんだ」

「やめるのか! やめたらすべて終わりなんだぞ!」

「でも…」

「でも…ばっかだな! 太郎お前やめたきゃやめればいいじゃん」

 真の声は、荒っぽかった。驚いて、真を見ると、真は、さっさと先に歩いて行ってしまいました。どうやら、さっきの一言できげんをそこねたらしいのです。二人は、そのままいやなムードのまま山の頂上へと登って行きました。途中、神社がありました。二人は、そこに行ってお参りしました。太郎は、お小遣いがアップするように祈りました。しばらくして、顔をあげてとなりを見ると、まだ、真は祈っています。それは、数分祈っていました。二人は、お参りがすんで、さらに頂上をめざしました。途中、長ズボンをはいていた真は、ヒザまで、ズボンをめくりあげました。見ると、すり傷だらけです。びっくりして、真に聞かずにはいられませんでした。

「どうしたの?そのぼろぼろな足!」

「柔道だよ」

 真は、さらりと言いました。その言葉を聞いて考えさせられました。(自分は、本当に、まじめに柔道に取り組んだんだろうか? まだ、自分は、一生懸命になってはいないんじゃないか)立ち止まってズボンをめくりあげて足を見てみました。真みたいにぼろぼろではありません。考えてみると、真は、いつも柔道に対して真剣でした。真は、背負い投げを極めたいと、一生懸命何度も先生にアドバイスを受けていました。それに比べて、太郎は、どうだったのだろうか?いつも、練習が始まったら休む事だけを考え、一生懸命さがありませんでした。思わず、下を向いてしまいました。

 そして、三十分くらい歩いた時、頂上に着きました。頂上は、広場みたいになっていました。店もありますし、山を紹介する博物館みたいなものもあります。二人は、見晴らしのいい所まで行くと、そこからながめました。そこから見えるながめは最高でした。どこまでも続く大空! 高くそびえる入道雲! そして、おもちゃみたいに小さく見える町並み最高でした。太郎の心の中には、はっきりとはしませんがある思いが芽生え始めていました。最後に気になったことを真に聞いてみました。

「真さあ。あんなに長く何お祈りしてたの?」

 真は、太郎の方を向くと、かすかに笑いました。

「聞きたいか?」

「聞きたい」

「それはな、柔道をこれからも続けていけますようにってお祈りした」

 それを聞いて心の中で何かがはじけました。気がつくと、見晴らし台から見える景色に向かって叫んでいました。

「俺も、柔道!これからもがんばるぞ~」

 それを見ていた真も、

「俺も、負けないぞ~!」

 二人は、顔を見合わせると、笑いました。もう一回、景色をながめました。どこまでもどこまでも青い空が続いていました。

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