87話:爆破任務 その1

 世の中には知らない事が沢山ある。誰かがそんな明言を言っていたような気がする。俺はその言葉を目の前で思い出させられる経験をしていた。


「蒸気竜のモンスターを使って都市内で大量の物資を運搬させる列車ですか……」

「ええ、元々は王国の考えていた物資輸送手段の1つだったんだけど。蒸気竜を使うには大量の水と炭鉱石が必要になるの。1日でも2トンはくだらないわ。それで王国の一部の派閥が難色を示して頓挫。現在は白紙だったのだけどね……」

「その技術と計画が悪人の手に渡ってこうしてあるんですね」

「これも全てプッタネスカがこの都市にもたらした恩恵というのかしら。皮肉にも私達が便利に使わせて貰うことになるのだから」

「モンスターテイマーの俺から言わせてもらうと。複雑な気持ちになりますね」


 まるで人間の奴隷みたいじゃないか。

 駅のホーム上にある列車の車列前にて、ルナ先輩がそう俺に説明をしてくれたのだが、どれだけの重さなのかが分らない自分にはさっぱりだった。かなりの大食らいなのだろう。


「あの鋼鉄で出来た。無骨で流麗なデザインをした先頭車両の中にモンスターが格納されているんですか?」

「ええ、そうね。両手両足をペダルで固定させて連結させた車両全部を動かしているの。蒸気竜は頻繁に身体を動かさないと生きていけないモンスターだからその特性を利用しているのよ」

「もしかして。その時に炭鉱石と水が必要になってくるという事ですか」

「ええ、定期的にエネルギー源を補給してやらないと死んでしまう生き物だからそうよ」


 世の中には不便な生き方をするモンスターも居るもんだな。


「それで、ここからどうするんです?」


 まだ任務の内容を先輩から教えてもらえていなかったので聞いてみることに。


「詳しくは客車内で話すわ」


 と、端的に言葉を返してきて。目配せであっちをみろと合図をしてきた。


「あっ……」


 明らかに怪しげ。というったものの、このホームを行き交いしている人間達は悪人ばかりなのだが、ひと際目立つ3人組が俺達の事を売店の角から顔を覗かせるように見てきていた。


 服装はまるで一昔のアメリカンギャングのような服装をしている黒ずくめの男達を俺は見て。


「ワザとですかねあれ?」

「気づいたかしら? ええ、どうもあれは私達にこちらの存在を気づかせるためにやっている感じがするわ」


 意外な反応と言葉を返されるのかなと思ったのだが正解だったようだ。


「俺達はお前達を見ているぞって言う感じですかね……?」

「プッタネスカからのメッセージかしらね。ふふっああやって私の事を暑く見てくれる男達の事。私は嫌いじゃないわ!」


 いつも通りの平常運転で安心した。最近色々と派手な出来事が多かったから、たまにはこういった先輩のおふざけに付き合うのもいいな。


「自分も嫌いじゃないですね。ようやく俺達の事を意識し始めてくれたという意味合いもあると思いますので」

「ええ、そうね。だから本格的に身の回りには注意していかないといけないわ。サトナカちゃん。あなたには守るべき人が沢山居るでしょ? だったら命を無駄にするような事はせずに頑張りなさい」


 えっ、矛盾してませんそれ?


「この仕事をしている限りは命の危険はつきものですよ」

「ふふっ、宿題よ。私が何を考えてそう言ったのか。この仕事が終わってから街に戻るまでに答えを聞かせて頂戴ね」

「えぇ……まじっすか……」


 あんまりそういう難しい事を求められてもなぁ……。


「あら、そろそろ出発時刻ね」

「みたいですね」

 

 実際にホームの係員の人達がぞろぞろと現れ、列車の出入り口の開閉を始めていた。


「ちなみにロッソちゃんは目の前の客車にいるから。事前に隣の駅から乗車してもらっていたの」

「えっ、二度手間じゃないですか?」

「こちらの監視があるでしょ? 考えてみなさい」

「その口ぶりからすると先輩。とっくに気づいていたのですか?」

「そう、正解よ。サトナカちゃんも早くそこまでの技術が身につくといいわね」


 正確な人数の把握を遅らせる為にとかかな?


「俺は先輩達みたいな超人じゃないと思いますが……」

「とかいってモンスターを仲間にできる神がかった能力者のあなたは何なのかしらねふふっ」


 一瞬返す言葉に迷った。普通に突っ込むべきか、謙虚になるべきか。


「まだまだお互いに知らない事がありますね本当」


 色々と思うところはあるけれど。とりあえず無難な言葉で返す事にした。


「さぁ、行くわよ次の行き先へ」

「はい」


 係員が目の前に来たので俺達はそのまま列車の中に乗車するのだった。

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