88話:爆破任務 その2
「よっ、カリト」
「あっ、ロッソ先輩」
列車内に入って指定された客室に入ってみると、ロッソ先輩が片側の座席を占領し、ラフな格好で座っていた。片手には茶色の酒瓶が握り締められている。
――あれ、カリトって呼び捨てしてたっけな? まぁ、いいか。
「予定通りね。ここからが正念場よ。事前に伝えてあった仕事は済ませておいてくれたかしら?」
「ああ、滞りなくやっておいたさルナ姉。ここの客室でくつろいでいれば問題ないさ」
「さすがね」
ルナ先輩がロッソ先輩に与えていたという仕事はなんだろうか?
「あの、ちなみにその仕事の内容って聞いたりしても大丈夫です?」
「ん? ルナ姉に何も教えてもらえていないのか。いいかルナ姉?」
「いいわよ。どのみちここで説明するつもりだったし」
「りょーかい」
「よろしくお願いします」
「あー、まぁそこで立ち話っていうのもあれだし。俺みたいに座席に座りながらビールでも飲んでリラックスしな」
気に入った。後でロッソ先輩に奢ってもらおう。
「ふふっ、ちなみにそのお酒は密造酒だからアウトよ」
「いいじゃん。ここだけの話しなわけだしさ」
「ネメシスナンバー2の私の前でその言葉はよして起きなさいな」
呆れた様子で両手を腰に当てるルナ先輩。その側で俺は何とも言えないなと思いながら表情を浮かべて黙っている。
とりあえず。俺とルナ先輩はロッソ先輩と対面する形で座り、彼の話を聞くことになった。
「ルナ姉の命令通り。薬物の製造プラントに行くルートについて調べてやったぜ」
「それで結果は?」
「ああ、端的に言えば。陸路で行くとすれば数が限られている。徒歩ではまず侵入は不可能に近いな。隠密なら尚更だ。俺達は目立ちすぎてる」
「今までの事を振り返るとそうなんですかね……」
「当たり前だカリト。闘技場の件や、ジェスタの店を襲ってあいつを精神的に殺したこと。それら全てはアマノジャクに取っては大事だ。よそ者が土足で踏み込んで来て。自分達の収益のシステムをぶっ壊しちまったわけだし。それにその相手が王国の暗部組織となれば尚更だ。現にお前達もその片鱗を見ただろ?」
「片鱗って……まぁ、尾行みたいな事はされましたが」
「ちなみにルナ姉。その尾行者の人数は?」
「3人ね」
「列車に乗ってきている可能性は?」
「無いわね。だってこの列車はアマノジャクのシマの所有物じゃないから」
「えっそれはどういう?」
「ようは別の大手ポリス組織の所有物なんだよこの列車は。産業革命主義を唱える犯罪者組織『イカロス』。奴らはモンスターを利用した新たな技術革命をこの都市で実現しようとしているんだ」
「もちろん他の行政機関のある都市でやってしまえば叩き潰されるけどね」
「王国は現在。自然調和政策を唱えているからな。それに反する半自然的な活動をするイカロスは目の上のたんこぶなんだ」
「いつか……その組織とも相手をするのでしょうか……?」
「こわいのサトナカちゃん?」
「……わかりません」
「だったら考えるなカリト。今はアマノジャクの保有する薬物製造プラントの破壊活動に力を注げ。お前の熱意が作戦の成否に関わってくるんだ」
「わかってますよ。闘技場で殺してしまったあのモンスターの無念を思えば」
俺はあのモンスターの亡骸を闘技場においたままにしている。出来れば早く回収してやりたい。だが今はそのタイミングじゃない。思うような段取りが出来ないことにもどかしさを感じている。集団行動ってこういう時に不便を感じるものだったのか……。
「それで。ルートを教えて頂戴」
「もう既にゴール手前だ」
「えっ?」
まだ駅のホームですよと率直に思ってしまった。
「サトナカちゃんに分りやすく教えて上げなさい」
「うい」
そう返事をしながら酒をあおり出すロッソ先輩。なかなかに勇者だ。
「ふぅ……。そうだな。プラントを侵入するのに最適なルートはコレだよ」
そう言ってロッソ先輩が足下を指でさす。
「下を指してどうしたのですか?」
「あぁだから! ようはこの列車が答えなんだよ。侵入するのに最適なルートはここだっつうの!」
「そんな声を荒げなくても……」
俺なんかロッソ先輩を怒らせたのかな?
「そう怒らないのロッソちゃん。怖がってるでしょサトナカちゃんが。酒を飲むとそう短気になるのはよしなさい」
「わっ、わかってるよルナ姉……。すまんいきなりキレちまって」
「え、ええ大丈夫ですよ。続けてください」
「ああ、そうだな。とりあえず今からこの列車。ようはこの車列より手前は別の路線を走ることになる。それより後続の車列は通常通りの運行で駅のホームに行く。わかるか?」
「すみません。よく分かりません」
「はっきし言うなっ!?」
だって察しろと言われても……。
「この客車はプラント行に繋がっているんだ。もうこれで分ってくれよな……!?」
「はっ、はい」
なんだそういうことか……。って、え……?
「客車なのにプラントに向かうんですか?」
「普段この場所はVIP専用の車両なんだよ。プラントへ視察しに来るお偉い幹部達の為にいつでも出せるように連結させて用意してあるんだよ」
「つまりこの客車に忍び込んでおけばそのままプラントに侵入が可能なんですね?」
「ああ、正解だ。なんだ話せば分っているみたいじゃないか」
「ふふっ、まあいいじゃないの。お互いに摺り合わせればいい事だし。そもそもロッソちゃんは説明するのが下手だからね」
「じゃあなんで俺に説明させようと話を振ってきたんだよっ!?」
「少しは成長したのかなって思ってねふふ」
「ったく人使いが荒いな……」
と話をしていると。
「おや、そろそろだぜ」
「あっ本当ね」
「動きましたね……」
今頃モンスターは先頭車両で身体を動かし続けているのだろう。ごめんな。今は頑張って動かしてくれよ……!
「さて、時間もアレだし。ひとまず交代で警備しながら仮眠とりましょうか」
「了解です」
「おう、俺はさっき寝かせて貰ったから任せろ。2人はあまり寝てないだろ? 今のうちに出来るだけの準備をしておけよ。ここまで来たらもう二度と戻れなくなるからな」
よくあるRPGに出てくるようなセリフを言ってくるロッソ先輩の話を聞き流しながら、俺はそのまま先輩の言葉に甘えて座りながら眠りにつこうとした。……のだが。
「よかったらあたしの膝枕で眠っても良いわよサトナカちゃん!」
ルナ先輩のせいで安眠から程遠くなってしまった。
「えっ、遠慮しておきます! 寝ますからねっ!?」
座席と壁の間にある角を支えにする形で肩を預け、俺はそのまま目を閉じで眠ることにした。
「じゃあ、リリィちゃんだったらどうなのかしら?」
「全力で寝ますっ!」
ちなみにその後、リリィに膝枕されている夢を見ていた。あぁ……最高だ……。顔を見上げたらルナ先輩だったという悪夢だったけどな! なお、現実の話である。
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