86話:プッタネスカの居場所は?
「それで。その封書には何が書かれていたの?」
「うん。ひと言で要約すると。プッタネスかが招待客を接待したいからジェスタの店を使わせろという指示書ね。日時は2日後。時間は夕の刻からとだけね。細かな摺り合わせはせずにそのままフランクな感じでの会合をする予定だったみたいね」
胸元の前で腕を組み、リリィ先輩が俺達に説明をしてくれている。
「その感じだとリリィ。既にプッタネスカにはこちらで起きている事が知られているといった口ぶりね」
「だってあれだけの人数を相手していたんでしょ? 私達が楽しく愛を囁き合っていた間にね。それなら必然的に情報は漏れてもおかしくはないわ。この都市は広いわ。それに今日来ていたお店の客の中にはアマノジャクに通じている者も居てもおかしくはなかった」
「私達が打算なしで突入したとでも言いたいのかしら?」
「んー? そう聞こえたの? 誤解よレフィア。まぁ、結果論的な話しにはなるけれど。目撃者多数だから噂は尾ひれをついて広まってもおかしくはない状況下にあるわね」
「まぁ、それはいいわ。ここには行政機関がないんだし。情報統制を取ろうにも無理ね。だったらそれなりにやれることは限られてくるわ」
「あのーレフィア先輩。この時がチャンスっていう訳でもないですか?」
「それも考えていたわ。でも直ぐに実行に移したいけれど。相手の所在と人相や服装が分らないから出来ないわね。どこかの色ボケのバカが余計な事をしたからね」
遠回しに俺の事もディスってませんそれ……?
「恋は人を強くするわよレフィア。素敵な恋に出会えるといいわね。応援しているわ!」
「興味ないね。私にはこの生き方が似合っているから」
「相変わらず自分の欲に忠実なんだからぁ。早くしないと婚期逃しちゃうぞっと」
遠回しに煽ってませんリリィ先輩……? レフィア先輩の表情が段々と険しくなってますけど……。
「と、とりあえず。やることは少しだけ明白な感じになってきたじゃないですか! そのプッタネスカを知っている奴らを方々と当っていけばいいんじゃないですかねっ!?」
「それ名案ねカリト君! さすが私の愛しの王子様っ!」
「えへへ……」
リリィ先輩にそう褒められると照れるなぁ……ははっ。
「ふん。新人もいいご身分で調子に乗らないでよね。いまは仕事に集中しなさい。イチャイチャするのは後でも出来ることよ」
「そうやって時間が過ぎていくだけってしってる?」
「なんですって?」
「ああああああとりあえず喧嘩はしないでください!」
もう何この犬猿の仲は……!? 最初から昨日まで先輩達、今までこんな感じだったかなぁっ!? 俺もうわかんねぇよ……。
「ふふっ、恋する乙女達の戦いも見物ね」
「えっ? どういうことですルナ先輩?」
俺達のやりとりを端で傍観していたルナ先輩がそう言葉を漏らしたので聞いてみると。
「んーっ、それは女の秘密よ。男の貴方には関係ない話よぉ。さぁ、ロッソちゃんと今から合流するわよ。両手に花のサトナカくん」
両手に花って……どういう意味だ……? 俺、あんまし学校で勉強したことなかったから分らねぇわ。ハナって……あれだよな? 野山とかにあるアレのことだよな?
考えていても仕方が無いので俺とルナ先輩で行動を共にし、ロッソ先輩と合流する事がきまった。そういえばロッソ先輩はどこで何をしているんだろうか。
「リリィ先輩。レフィア先輩。先に闘技場近くのアジトに戻っておいてください。俺とルナ先輩とロッソ先輩でやることがあるので」
「うんわかったわ! 無事に帰ってきてね!」
「ええ、リリィ先輩の為に頑張ってきますね!」
「もう、好きよふふ……」
なんだろう……悪くないかも。こういう関係も……!
「はぁ……。もう勝手にしなさい……。私、途中で酒飲んで帰るわ」
「えっ、仕事中ですよ?」
「今は休憩がしたい気分なの。なに? 文句でもあるのかしら?」
「ちょっ、銃をチラつかせて言葉を返さないでくださいよっ!?」
今日のレフィア先輩は何だかいつも以上におっかないなぁ……。そしてそのまま先輩は俺達より先にズカズカと足音を鳴らしながら部屋を出て行ってしまった。
「俺……レフィア先輩に何か嫌われるような事してしまいましたか……?」
「ううん。そうじゃないよカリト君。あれが彼女の通常運転。常に怒りっぽい気質なところがあるからよく勘違いされやすいのよ。仲良くして上げてね」
「あっ……」
そういってほっぺたにキスをしてきたリリィ先輩はそのままバイバイと手を振り、そのまま後に続いて部屋を出て行った。
彼女の唇の感触が名残惜しく感じるのはなぜだろう……? その場で俺は触れられた箇所に手を当てて考えるのだった。
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