79話:リリィ奪還作戦 その6
「すみません。なんか俺1人だけで行くだなんて」
「いいのよ。ここの店が女子禁制なのはロッソから聞いたから思う存分楽しんでくると良いわ。くれぐれも羽目を外して私に銃をぬかせるような事はしないようにね~」
挑発的というか脅しと言うべきか。レフィア先輩の笑みが怖すぎてちゃんとした返事をしないと不味いと感じる自分。いや、最初からそのつもりで来たわけじゃないですよって言ったんだけどな……。まあいいや。
「もし自分に何かあれば直ぐに銃を使って合図するので援護願います先輩の皆さん!」
「任せろ。荒仕事は俺達の得意分野だからな。俺の分も楽しんでこい。くれぐれも羽目を外したら承知しねぇからな? その時は間違ってお前に流れ弾を流すかもしれんから気を引き締めていけよ」
「いやそんなつもりで今から行くわけ無いですからっ!? ロッソ先輩まで同じ事いわないでくださいよっ!?」
「そうよ2人ともぉ! サトナカちゃんは立派な男の子よ!」
「ルナ先輩!」
「だから羽目外しても男の子だから仕方が無いわよっ!」
「あらぁっ!!!?」
何この手のひら返し!? 思わずその場でずっこけてしまったじゃないか。なにこの信頼度のなさはっ!? 俺なにか先輩達を怒らせるようなことしたかなっ!?
「ふふっ冗談だってばははっ! 信頼してるよ。だからリリィを絶対に取り返してきて」
「……先輩」
「うん、俺達は誰一人でもかけてはいけない組織なんだ。だからリリィを……頼んだぞ」
「はい!」
「うんうん、青春って感じがしててお姉さん胸感量」
「感無量だとおもいますよ」
「そそ、胸にくる感無量。略して胸感量よ!」
ごり押しで造語をつくるルナ先輩に思わず笑ってしまう自分。いいなこんな会話をするって。きっとここにリリィ先輩がいたらもっと楽しいお喋りができたんだろうな。いま助けに行きますから。
「さて、仕事の時間だ。俺達はこの入り口で待機。とりあえず俺が案内役のスタッフをよんでVIPルームまで連れて行かせるから。そいつの背中についていくんだぞサトナカ」
「了解ですロッソ先輩」
「よし状況開始だ!」
そして始まるリリィ先輩救出作戦。さっそく俺の元にボーイが現れてVIPルームまで連れて言ってくれた。
「ここが……」
「どうぞこちらでございますサトナカ様」
この場合だとお客様じゃなくて名前で呼んでくれるのか……。さすがVIPと言うべきだろう。ボルカノの街に帰ったら同じようなお店に通ってみるのもありかな。楽しそうだし。
「広いな……」
豪奢な様式の室内。赤い床の絨毯、質感の高いテーブルセットと様々な食器類に照明。それら全てが類い希ない高級品で揃えられている。そしてひときわ目立つのが黒革のカウチソファーである。あそこで嬢と遊べるんだろうか。とりあえず言われた場所がそこだったのでストンと腰掛ける。
「どのような嬢がご所望でございますでしょうか?」
「あの、リズっていう女の人に会いたいです」
「かしこましました。本日は先客のお客様がいらっしゃいますので他の嬢とお楽しみになられながらお待ち頂けるとありがたく思います」
「直ぐによべないのかよ」
ちょっとイラッとくるなそれ。普通はVIPだったら指名の女の子を連れてきてくれてもいいと思うんだけどな。
何故こんな事をしっているか。ボルカノでちょくちょく安酒場のキャバクラで遊んでいることがあるからだ。なお、俺はお得意様だったりするのでそういったもてなしを受けていたりもする。高級店だったら普通だろうとは思っていたが、先客のお客がどんなやつかは気になるが、会えないよりはいいだろう。
「わかった。他の嬢はいらんからリズが来るのをまってるわ。それより酒となにか手に持てる物を用意してくれよ」
「かしこましました。どのようなお酒がご希望でございますでしょうか? 宜しければこちらのメニューカードをご覧ください」
『・トンベリ:妖精のカメと呼ばれる幻のブドウ酒ボトル。
・モルンボルドー:赤の名匠と呼ばれるブドウ酒ボトル。
・ロマンスシュガー:甘い恋の一時の口づけを彷彿させるようなロゼット酒(バラの産地:エルビア)
・黄金の夜明け:アルマの砂漠でしか育たない希少な麦芽を使ったエール酒。』
「……わぁ」
どれも全くしらない銘柄のお酒ばかりが並んでいる。分らん。どう選べばいいんだよ……。とりあえず。
「黄金の夜明けを頼むわ」
「かしこましました。それに会うお料理もご用意いたしますのでそちらのテーブルでお座りになられるか。このままお待ちください」
「うん」
ボーイに対する受け答え。かなりヒヤヒヤしながらだったな。そう思いながら部屋を後にするのを見計らって大きくため息をついた。
そらから20分くらいだろうか。かなり待たされる。
「おっせぇ……」
普通にお酒は先にくるんじゃないかなっと思ってたけど。なるほど。嬢がいる前提で段取りが組まれているようだから時間が長くなってしまうのか。
――コンコン。
「お待たせしましたお客様。あらぁっ! 素敵な男性ですわね! 私のお・う・じ・さ・ま!」
「――うんっ!?」
なんてセクシーな格好をしているんですかリリィ先輩っ!? てか王子様だってっ!?
「ささっ、他の嬢は他のお客様を相手してきて頂戴。私指名だからね」
はーいと奥の方でいろんな嬢が返事する声が聞こえてくる。
「ボーイ君。そこのテーブルに私のお酒の分も用意しておいてね。あと私にとって大事なお客様だから邪魔しないでね」
「はっ、はい!」
なにやってるんです。そんなセクシーな立ち振る舞いと声で言ったからボーイの様子がおかしくなってますよ。と、彼女にジト目で訴えかけながらソファーでくつろぐ自分である。別に羨ましくはないけどな。
「さて邪魔者は退散したし。何にするカリトくん! やっと君に会えたから嬉しくていろいろとうずうずしちゃってるのっ!」
「ひぃっ!?」
そう言いながらギュッと俺の腕に絡みつくように身を寄せて抱きついてくる。この人の考えていること分らないからめちゃくちゃ怖いんだけどっ!? またアレか。寝起きドッキリの時と同じ展開かよっ!?
「んもーうっ、そうやって怖がっちゃってーかわいい」
「ふぁっ!?」
そう言ってリリィ先輩が俺の頬にキスをしてきた。なにこのサービス。演技だったらすげぇって。
「ふふっ君と初めてのキスしちゃった。唇じゃなかったのは残念だけどね」
「はっ、はい……。えと、リリィ先輩ですよね」
「うん、そうだよー。君の大好きなリリィ先輩ですよー」
「いや何も自分好きとか言ってませんけど」
「ふふっ、照れるなってばー」
「いやっ、俺は……」
ダメだ。リリィ先輩の話の流れに飲込まれそうだ。このままだと不味いと思い。単刀直入に本題を話した。
「……ごめん。今はみんなと一緒には居られそうにないの。カリトくんのお願いでも出来ないことなの」
「どうしてですっ!?」
せっかくここまで来たのにリリィ先輩から拒否されるだなんてっ!?
「そうね。いまここのオーナーの名前は知っているわよね」
「ええ、プッタネスカの直属の幹部であるジェスタですね」
「ええ、いまはこうして高級店の嬢を演じているんだけど。実は理由があってこうしているの」
「ジェスタに連れて行かれた以外にもあるんですか?」
「ええ、そうよカリトくん。さぁ、グラスを差し出してちょうだい」
「あっ、はい……」
えっ、ここに来てお酒をつぐの? とりあえずグラスに黄金色のエール酒を彼女に注いで貰い。そのままリリィ先輩も同じようにグラスに注いだのを見計らって。
「不思議な感じだけど。君と一緒にお酒が飲めるの凄く嬉しく思う」
「そっ、そうですか?」
「ふふっ、そうね。さぁ飲みましょう。素敵な1日に」
「素敵な1日に」
そう言って互いにグラスを少し上に掲げてクイッと煽った。
「はーっ、ちょっと火照っちゃったわー。さっき相手していたお客さんが凄く酒豪だったから大変だったのよ。おかげさまでちょっとくらくらしちゃっててね」
「あーっ、なるほどー」
どうりでいつもよりテンションが高いのと無駄にスキンシップが多いのか。納得がいくな。
「無理しないでくださいね?」
「うれしい。そうやって好きな人に思ってもらえるのって」
好きって俺の事が……? 冗談だと思って聞き流しておこう。
「それで。その理由ってなんです?」
「ああ、そうよね。言ってなかったわごめんなさい。えとね。近々ここのお店にプッタネスカが来るのよ」
「アマノジャクのボスがですかっ!?」
「ええ、それと他の大手ポリスのボス達も含めてね。そこで何をするのかは教えてもらえなかったけれど。私がその人達を相手するってだけは聞いているから情報は確かね。大丈夫。貞操は君以外は渡さないからねっ!」
「逆に俺の貞操が危ない事になるので遠慮しておきます」
「あーんもう! そうやって女の子のお話を遮っちゃうでしょー! ダメよ。もっと君と親密になりたいからこうして接しているんだからぁ」
「あっちょっとっ!?」
俺の膝の上に足をかけていくリリィ先輩。そしてそのまま俺の首に腕を巻き付けて密着してきた。あかんこれは……!
「だっ、だめですよ先輩! 俺、心に決めた人がいるんですって! やばいですって!」
「えー。そんなに私の事が嫌いなの……?」
「いや、そういう訳じゃないですけど。そのスキンシップが好きじゃないから」
「だったら私とキスできるよね?」
「言っていること矛盾してますよっ!? ちょっとお酒飲みすぎじゃないんですかっ!?」
「私。本気の恋がしたいとき以外はこんな事は言わないわ。誰にも。絶対に。だから私だけを見つめてよカリトくん」
「…………」
先輩との距離感がめちゃくちゃ近い。このまま俺はキスするべきなのか……? 火照った表情をしている彼女に出来る勇気があると思うか自分?
そもそも俺は先輩の事が好きなのかよ……? まだ出会って日にちが浅いのにもうここまで関係を迫られているのか自分は……?
「わかりません」
「ん?」
俺は彼女を両手で押しのけるとそのまま立ち上がって振り向いた。
「俺、今まで恋愛とか恋とかしたことないからリリィ先輩がしている事が分らないんです。女の子を好きっていう感情を知らずに今まで生きてきたです……!」
「記憶が戻ったの……?」
「あっ」
しまった。自分に関する設定を忘れて思わず感情的に喋って収集が取り付かないことになってしまった。
「思い出したんです……」
「…………。もう、仕方ないわね! 今日の所はお姉さんの負けにして上げるわ! だからもう今日は帰ってちょうだい! 大丈夫。定期的に連絡はするから心配しないで! だから……私を泣かせるような事を言わないでよ……!」
「リリィ先輩……」
彼女の目に涙が……。そして。
「私。本気なの。だから諦めないわ。絶対にその君の心に決めた人よりも素敵な女になってみせる。負けないからっ……!」
「ええっ……」
俺はどう反応すれば良いのか分らずに。そのまま頷いてしまい。そして彼女と有耶無耶な感じに終わって部屋を後にしたのだった。
「どうすればいいんだよ俺はっ!?」
アレって完全に先輩からの告白だったよねっ!? あーもう! 俺は……俺はバカだ……!!
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