76話:リリィ奪還作戦 その3
「くそったっれ! 俺に何をする気だコラ!」
「あんまり余計な話をさせないで頂戴。さあ、あたしの為に根掘り葉掘りいろいろと教えてちょうだいな」
「だれがお前みたいなアバズレに教えてやるか!」
顔面がキズだらけの高そうな紺色スーツ姿の男。今は手足をイスに縛られて吠え面を掻いている。こいつが組織を滅茶苦茶にされて苛立つギャング組織のボスだ。
「だってサトナカちゃん。どうする? 他に替えはいくらでもあるからこのままいっそ悪事を働いてもらうのも困るし殺しちゃう?」
「ひっ!?」
ルナ先輩がショットガンのコッキングレバーを鳴らしながら煽りを入れると、ボスは今から死ぬ事に恐れを成して悲鳴を上げた。
「じゃあ、素直に喋った方がいいと思いますよボスさん」
「ぼっ、ボスさんっ!?」
そんな呼び方をされたことがないと言わんばかりの挙動をとるボス。どう話をすれば相手から情報を聞き出せるのかが分らない自分。尋問をするのって初めてだからどうしたものか……。
「僕たちは貴方と話がしたいんですよ。それでここまで来たのにあんなおもてなしはないと思ったわけでして……」
道中での銃撃戦や、ついさっきここに入ろうとしてきた時にボスから受けた待ち伏せ攻撃。それ全部が相手の一方的な攻撃だと説明をすると、少し態度を和らげてきた。
「……お前達が正当防衛で配下の手下共を殺したというかよ」
「そうですよ。門の前にいた人が話をしようと思って近付いたらいきなり撃ってきたんですよ。問答無用って言って……」
「サミエルのアホが勝手な事をしやがったか。なるほど。それは失礼な事をしたな。でもよ。俺だけ残してここまでされたらなんと言おうが対等な話をしようがないと思うのだけどなっ!?」
「えっ、だって俺達ネメシスですよ? 黒服って皆さんが言っている相手ですよ。分りますよね?」
「……くっ!」
目の前で見聞きした惨状を前にしてボスが押し黙った。多分、一騎当千の組織を相手に喧嘩を売ったのが不味かったと思ったのだろう。
「もし話をしてくださるなら両足の縛り物を外しますよ」
「いや、全部じゃねぇのかよっ!?」
「いやだって初対面の相手同士ですよ。お互いに相手の事が分らないのに無償で接することはできませんよ」
「…………わかったよ」
「凄いわねサトナカちゃん」
どうやら相手も分ったようだ。そんな俺とボスとのやりとりを見ていたルナ先輩が感心した様子を示してきている。
「自分。暴力で言うことを聞かせるのはあまり好きじゃないんです。こうしてボスさんと話をして少しでも関係を縮めたいって思っているんです」
「…………」
ボスが何を思っているのかは分らない。それでも話しかけ続けて10分が過ぎた辺りで。
「なぁ、あんた。名前は?」
ようやくボスが口を開いてくれた。思わずニッコリと笑みを浮かべてしまう。
「カリトといいます。あなたは?」
「俺はヤルトゥだ。あんたには根負けした形にはなるが。まぁ、悪い奴じゃなさそうだし。ちょっとくらいは話してやろうか」
「ありがとうございます!」
悪い奴に悪い奴じゃないと評価を受けるとは。まぁ、下に見られるよりはマシかと思いながら、彼から情報を引き出すことを初めた。
「そのリズって言う女は聞いたことがある。情報屋の話によればそいつは今まで見たことのないような上玉なんだとか。数年で一度しか手に入らない最高の女らしくてな。指名した客全員が彼女の事に夢中になるくらいメロメロになっちまうんだとか。その事もあってその店の営業成績はうなぎ登り。その女が仕事を始めてから数日であっと言う間にVIP専属の女に昇格という異例のスピードで上り詰めちまったんだからな」
「へぇー凄いですね」
リリィ先輩ならやりかねない目立ち方をしているなと思いながらも、横でルナ先輩が「なるほどね。あえてそうする事で私達に手がかりを残してくれてるのかしら」と言ったことを呟いている事を耳にして納得がついた。
「それで、その女の人が働いているお店の名前と場所はどこにあるんです?」
「あんた。その女の関係者なのか?」
「うーん、ちょっとその人と協力関係にあるというべきでしょうね」
「なるほどスパイってことか。今の話は聞かなかった事にするぜ。あんたには隣のねーちゃんから命を救ってくれた借りがあるからな。とりあえず。店の名前と所在地を教えてやる。それとこの話は内密でたのむんだがな」
「なんです?」
「もしジェスタを討ち取ってくれたら俺の組織にいくらか報酬をくれよな。こちらは命をまた賭けてあんた達と話をしてるんだ。それくらいの報酬は貰って当然だと思うんだ」
等価交換か……。なるほどね。そう思った俺はルナ先輩に話をふってみることにした。
「ルナ先輩。どうします? 悪人に渡す報酬はどうしていたりします?」
「そうね。社会的な通念で言わせてもらうけど。まぁ、この場所は無法地帯だからね。あたし達が報酬を渡せば裏社会の経済が回ってしまうのは気に入らないけれど。反故にするのは良くないと判断するわ。とりあえずここで判断するよりはリーダーに指示を仰いで報酬を決めましょう」
「というわけになりました」
「釈然としないが。まぁ、あんた達は王国の犬だから手続きがあるんだろう。わかった。報酬はこちらの提示する物を要求させてもらいたい。可能な限りの物で構わない」
とついでと言った感じにヤルトゥが、
「ジェスタには何度も煮え湯をのまされ続けてきたんだ。あいつの女好きがこうも祟って俺達の事業に悪影響を及ばしてるんだよ。おかげさまで弱小のポリスやギャング組織は商売あがったり。雲の下で小競り合いが続いているんだからな」
「治安が輪にかけて酷くなっているみたいですね」
「ああ、そういうことだ。俺達には悪の、悪なりのやりかたがあるんだ。それをあいつらアマノジャクは徹底的に伝統ごとぶっ潰してきていやがるんだ。許すわけにはいかねぇんだよ。この組織だって昔。じっちゃんが1代で気づき上げた名のある組織だったんだ」
と、彼の思い出話を聞かされながら今後の段取りを考えている。早くその情報が欲しい所だけど。いまは笑顔で相手にしておかないといけない。
とりあえず話の途中で俺は信用に値すると思い、彼の手を縛っていた物を解いてやった。
「ふぅ、長話になっちまったな。とりあえずこのメモを頼りに行くんだ」
『7番城街 カノン 繁華街地区 デボラの酒乱』
差し出されたメモを受け取り礼を言った。
「いいんだ。俺とお前の仲だ。なんかまた困った事があれば俺に会いに来い。なんだったら可愛い女をあんたに差し出してやれるくらいはできるさ」
「あはははっ、まあ今は色々と多忙なのでまた今度で」
といった感じに話を切り上げてルナ先輩と一緒にアジトを後にしたのだった。
「これで分った事がいくつかあるわね。あの組織のように大手のポリス組織が暴れているせいで治安がカオスな状態になっていること。そして今までいた根城を奪われてしまったことで、あんな風な場所に住み着いているということ。そしてアマノジャクは革新派閥。つまりリベラル派のポリス組織だということ」
「伝統を壊して自分達のやりやすいように悪事を働いているんですね……」
正義と悪のバランスが崩れてしまうとこうなっていくのかと現実を知るのであった。ひと言で片付けられない大人の事情って難しくて分らないな……。
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お知らせ:前話の話数の表記を間違えてしまいました。申し訳ございません。本日の最新話の更新時点から訂正させて頂きました。
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