74話:リリィ奪還作戦 その1

「ただいま戻りました……!」

「あら、良い感じに帰ってきたじゃないの。さぁ、早く集めた素材を使って新しい弾薬を作っていくわよ!」

「はい!」


 アジトに戻り、最初にあったのはルナ先輩だ。先輩は室内のソファーにもたれかかったままショットガンの手入れをしている最中だったようだ。


「どうだったかしら。壁の向こう側は?」

「そうですね……。遺跡みたいな感じに区画全域が荒れ果てていました。モンスターの生息も数種類は確認できております。しばらく復興作業をする間はハンターの起用が必須かと思いますね」

「どうだった新人。ニンジャラン、凄かったでしょ」

「あっ、レフィア先輩お疲れ様です! 凄く便利な移動手段でした。これが狩で使えたらいいのに」


 右手に拳銃を提げたままのレフィア先輩が奥の部屋から現れて俺に声をかけてきた。あの移動方法はレフィア先輩から教わった走り方だ。レフィア先輩も実際に暗殺任務をするときはよく多用しているらしく。ただ、俺のような不慣れな人間が使うと、体力を著しく消耗するので、使用できる回数は2時間に1回を限度にしろと聞かされている。


「残念だけど。アルシェさんはギルド長補佐の仕事をしている立場もあったりして。その服で狩猟行為をすることは禁じていらっしゃるわ。むやみやたらにひけらかすような制服じゃないからっていうものあるし。それにその制服自体が狩猟環境のバランス的には良くないからダメなのよ」

「ダメってそんな簡単なひと言で済まされる事なんですか……?」

「貴方に分りやすく言ったつもりだったのだけど。理解出来ていなかったのかしら?」

「ひっ!?」


 余計な言葉を返してくるなと言わんばかりに、レフィア先輩は手に持っている拳銃のシリンダーを回し、気迫のこもった苛立ちの表情を浮かべてそう話をしてきた。


「ふふっ、要するにサトナカちゃん。使って良い装備じゃないのよその服は。私達ネメシスは裏社会の人間以外には姿をさらさないという規則があるのよ。表の人間には私達の存在は知られていない。全て王国が管理し、私達の行動や情報などそれら全てを統制して今日まで生きていられているの。もし、誰かが安易な気持ちで表舞台にその姿で出てしまえばどうなるかしら?」

「どっ、どうなるのでしょう……?」

「分ってないようだから。仕事が終わってからまた私とマンツーマンで組織の規則について勉強するわよ。いい、答えはイエスしか聞かないから」

「俺に選択権なんてないんですかレフィア先輩っ!?」

「当たり前でしょ。新人がルール違反したら私が一番怒られるし、それに君が悲しむ姿を見たくはないから」


 嫌なのか後輩思いなのかよく分らない話をするレフィア先輩である。あぁ、家に帰ったら補習授業か。普通だったらラッキーイベントなんだろうけど。そんな簡単にはいかないらしい。


「さてさて、雑談はここまでにしておきましょうかしら。ささっサトナカちゃん。私に素材を渡して頂戴な」

「あっ、はい。えと、これで全部です」

「あーん、素敵だわ! こんなに沢山のヤポムの木からとれる素材を集めただなんて。あなたそっちの才能あるかもよ!」

「えへへ……ありがとうございますルナ先輩」

「何でれてるのかしらまったく……」

「褒めて育てるのも先輩の勤めよレフィアちゃん。厳しくしすぎても人間って出来ていないから離れて言っちゃうものなのよ」

「…………参考にさせてもらうわ」


 えっ、あのツンツンなレフィア先輩が俺を褒めてくるとしたらどうなるんだ……? 何それ怖いな……。


「そこ、考えていることが顔に出ているわよ! 失礼ね! 私だって新人を優しく褒めて上げられるんだから。私を褒めさせたいんだったらそれ相応の仕事をこなしなさいよね!」

「あ……はい」


 もう俺の語彙力が下がってまともな返答が出来そうになかった。いや、言っていることは少しだけ分りますよ。こう、異世界だからもっとツンデレしてて欲しいなって思ったのだけであって。


 そんな俺の考えなどつゆ知らずのレフィア先輩はもう一眠りすると言って、そのまま元来た部屋へと戻ってしまった。


「ふふっ、お互いに若いから羨ましいわね。私も頑張ってサトナカちゃんの為にいっぱい弾を作ってあげようかしら」

「ははっ、適度な感じで構いませんよーって言いたいんですけどね」


 なんかルナ先輩がやたらと張り切っているので気になる。


「とりあえず。いまから私の知っている鎮圧弾の製造方法を伝授するわ。これは私のオリジナルで作れる弾薬なのだけど。サトナカちゃんがその気になれば独自の鎮圧弾を製造することも可能だから。その時は頑張って頂戴ね!」

「……ええっ!? 本当ですかっ!?」


 異世界に来て何度目の驚きだろう。また新しい出会いに感謝しないとなと思いながら、ルナ先輩に鎮圧弾の製造方法を教わることになった。

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