70話:ポリス組織『アマノジャク』の幹部を追え! その5

「あら、どうしてここに2人がいるわけ?」


 アジトで休憩をしていると、レフィア先輩が戻ってきた。


「あらぁレフィアちゃんじゃないのぉ! これは心強い味方が一緒になってくれるわよ!」


 不思議そうな顔をして首を傾げているレフィア先輩を見るなり、ルナ先輩が感激と言わんばかりの様子で俺に話を振ってきた。


「心強い味方ってどういうことかしら?」

「ど、どうもレフィア先輩。その実はですね」


 俺は彼女に今まで俺達の回りで起きた事の全てを話した。


「ロッソのバカまた自分勝手に突っ走ったわけ」

「そうなのよねー。私はそうはしないと思ってはいたのだけど。リリィちゃんの特性を考えると焦っちゃったのかしらねー」


 コップに注がれたブドウジュースを一気に煽り、ルナ先輩はそう自信の見解をレフィア先輩に話した。


「男って本当に女のことになるとどうして熱くなるのかしら」

「うふっ、それは愛っていうことかしら」

「理解できないわ。仕事をする上に私情を挟むなってあれほど言っているのに。それを聞かずにこんな尻拭いをさせるだなんて。正直にいって迷惑だわ」


 うあぁ……、ロッソ先輩の日頃の行ないをレフィア先輩はそんな風に見ていただなんて。俺も男だし気をつけおかないとなぁ……。


「とりあえず承知したわ。その女の幹部ジェスタなんだけど。私とルーノ職長がいま追っているアマノジャクのボス。プッタネスカの直属の配下っていうのは私も知っていたわ。さっき入手したばかりの情報なんだけど。リリィに似た容姿のリズという女が。ジェスタの管轄する歓楽街の店で働いているらしいわ。ロッソはきっとそこへ行くと思うわ。あいつの事だからきっと物理的な解決であの子の事を救おうとすると思うから。私達もそれに間に合わせましょう」

「要するに襲撃に加担するということでしょうか?」


 暗部組織らしくないやり方に疑問を抱いてしまう。


「ええ、そうね。事がことだから致し方がないわ。それにもうこちらの存在をアマノジャクの連中は嗅ぎつけているわ。むしろ好都合だと思うべきね。行動の抑止力として動き出している限りは相手も不用意には手を出さないはず。プッタネスカという男はそういう奴だから。むやみな消耗は抑え、利益には貪欲にという考え方の持ち主だから」

「うふっ、つまりこちらの強さを見せつけるために丁度良い機会っていうわけねー。お姉さん。腕が鳴っちゃいそうだわー」


 お姉さんという言葉に意味深を感じてしまった自分はどう言葉を返せば良いのやら。


「あの、自分はできれば人殺しの銃撃戦には参加したくはありませんね」


 この時点で自分は戦力外だとアピールはしておかないと。レフィア先輩と一緒にいれば何をさせられるか分ったもんじゃない。


「それでいいのかしらサトナカちゃん。あの時の感情を忘れちゃったの?」

「……確かにあの時に目にした事は今でも思い出せますよ。ここにいる街の悪人は全員許すべき奴らじゃない。そもそもここは善人が苦労をかけて築き上げた都市だったと聞いています。我が物顔で居座っていいはずがないですよ」

「じゃあ、新人はどうしたいの? あなたさっきから自分は関係ない。関わりたくはない。そして判断は私達に委ねますの話しばかりしてくるよね。どこまで優柔不断な男なのかしらって思われたいわけなの?」


 優柔不断……自分が……?


「そうよ。これだけはさすがに私でもサトナカちゃんの事をフォローできそうにないわ。薬漬けにされたモンスターの気持ちや無念をどこにぶつけるべきなのか。分っているわよね?」

「……分ります。でも、人を殺めたくないでんです。俺の銃は人を殺すための道具じゃないんです……。これはこの仕事をしようと。つまりハンターの仕事をすると決めたときから、いろんな先輩の人から教えられて自分で決めたポリシーなんです」


 その言葉に先輩達は目を閉じて静かになった。


「正直に言わせて欲しいのだけどいいかしら」

「はい」


 レフィア先輩が俺に神妙な面持ちで話しかけてくる。


「新人の考え方は正しいわ。でも、それがいま2人の命のやりとりに繋がっている事にあなたは自覚しているのかしら」

「えっ……」


 2人の命のやりとりだって……。


「……そうね。もしこのままサトナカちゃんの考えを押し続けていくなら。この救助作戦には残念だけど参加させたくはないわ。レフィアちゃんもいっていたけれど。この仕事に私情を挟むなって。それで実際ロッソちゃんが私達に迷惑をかけているじゃない。サトナカちゃんの悪いところはそこよ」

「ルナ先輩……」


 ルナ先輩は俺をどう思っているんだ……。あの時の言葉は嘘だったのかよ……? さらに。


「でも、そいう青臭くて若いところは嫌いにはなれないわ」

「ルナ……あなた」

「いいのよ。私だって昔は若い時があったのだからよく分かる話よ。レフィアちゃんはまだ若いから分らないかもしれないけれど。彼はまだ10代の半ばなのよ。これからまだまだいろんな事に出会う年ごろの男の子よ。その彼の言いたいことを大人の私達が封じてどうするわけかしら」

「…………」


 ルナ先輩の言い分に対して、レフィア先輩は親指を噛む仕草をして押し黙っている。


「でも彼の意見はこれからの事を考えてもあまりプラスにはならない話しよね。だったら彼には彼なりの出来ることをさせれば良いと思うの」

「具体的には何をさせるわけなの?」

「彼の狙撃のスキルを活かした戦略で2人を救出すればいいのよ。あわよくば幹部のジェスタを討ち取ることが出来れば御の字のはずよ」

「ルナ先輩……!」

「うん。それでサトナカちゃんにはある提案をしたいのだけどいいかしら?」

「人殺し以外の事でしたら喜んでお受けします!」

「いまからいう素材を元に。ある弾薬を精製しなさい。それを使えばあなたの考え方にあった対人戦での戦い方ができるとおもうはずよ」


 その与えられた素材の情報を元にして、俺はこの廃墟都市にあるモンスターが徘徊する区画に向かうことになった。

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