65話:闇の裏闘技大会3
闘技場の全体を見回すと辺り一面が強固な湾曲状の防御壁に囲まれている事がわかる。それら全てが横に連なって円筒状を形成しており、逃げる隙間もないくらいの密さだ。
そして地形は起伏のある瓦礫の山の辺りと、平坦な平地で構成された入り乱れた形となっている。走って移動すればすぐそこに高台があったり、乗り越えて進むと平地があるので、あまり移動で身体に負荷をかけるような事は避けるべきだろう。そして地形のこともあって接近戦が強要される気色があるようだと覗える。
そして対峙するモンスターの細かな詳細のデータはない。俺もよく分からない相手と行き当たりばったりの勝負をしかけているからな……。ロッソ先輩いわく、通常種のゴルドデュエルベアは全体的に肉質は弾力系のタイプで、弾丸が着弾すると、被弾した箇所の筋肉が衝撃を分散させて威力を減衰させる効果があるらしい。もしかすると、この肉質の特徴がセイバーライフルの反動抑制の為に必要なんじゃないのかと、そう考察はしている。
1本のバレルの為に1頭のモンスターの素材全部が必要とは……。これは完全なコスパの悪さが目立っている話だぞ。現在金欠ハンターの俺にとてはコストパフォーマンスは重要視しているところだ。
そして今は小さな瓦礫の丘から距離約100メートルでルナ先輩と戦っているターゲットにめがけて銃口を向けている。先輩とゴルドデュエルベアは機敏に動きながらお互いの攻撃を躱し続けている。散弾銃を近距離から軽いフットワークの身のこなしで避けているあのモンスターは本当にモンスターか!?
「あれをどう狙い撃つべきかな……」
動くということは足を重点的に狙い撃ちするのが良いのかもしれない。通常弾と貫通弾の2種類しか使う事の出来ない今の現状だと。効率よく相手を倒すとすれば……。
「部位破壊を主にすべきかやっぱり」
最初に狙いをつけたのはゴルドデュエルベアの尻尾だ。あれを銃弾で切断できれば、ルナ先輩の間合いが遠のくような事が少なくなるはずだ。目の前の拳の連打に集中できるはず。
まず何処が弱いかスコープ越しに観察しつつ分析する。尻尾の表面は鱗に見えて毛並みが模様を描いているようだ。もしかすると……。
「ふぅ……」
呼吸を整えて照準を合わせる。引き金に指をあてて撃針を落とした。
――ズドン!
『あぎょうっ!?』
『おっとここで膠着状態から一変。ゴルドデュエルベアが背後からの攻撃に激痛を感じてひるんだっ!!』
「おっし。弱点は尻尾だな!」
そうと決まれば容赦なく通常弾を撃ち込んでいく。貫通弾は別の用途に残すつもりだ。
『ゴルドデュエルベアのひるみに勝機を感じたのでしょう。ショットガン使いの女が反攻戦に転じましたぁっ!! モンスターに容赦の無い散弾の嵐が吹き荒れております!! これはまさに血祭り!! 血が、血が、我々の興奮を掻き立てております。この瞬間を待っていたぁああああ!!』
――いいぞねぇちゃん!! もっと血を見せてくぇ!!
外野の言葉にチクッと胸が痛む。モンスターだって生き物なんだぞ……!!
「ごめんな。ちゃんと楽にしてやるからな」
薬の副作用にもがき苦しみながら狂気に満ちた表情で暴れているゴルドデュエルベアを前にして、俺は心の中で救済することを誓った。少しでも速く安らかにしてやりたいという強い思いをもって戦う事にしよう……!
剣の刺突の嵐が、拳の連打がルナ先輩に襲い掛かる。それを全て避けてはカウンター射撃で応戦する先輩の姿は素直に格好いいと思った。
俺も近くでルナ先輩と連携をとれる位置まで移動を始める。
「ルナ先輩!! 援護に入ります!!」
「助かるわサトナカちゃん! いま結構な感じで押され気味よ!!」
「攻撃を分散させましょう!! そうすれば戦いやすくなると思います!!」
「相手は並外れた動きで仕掛けてくるわよ。覚悟しておきなさい!! ふんっ!!」
低い踏ん張り声と共に散弾の速射が炸裂する。そして俺はその場でボルトアクションライフルによる速射攻撃をしかけた。
それから2分が経過したところでゴルドデュエルベアの尻尾の破損に成功した。切断までとはいかなかったが、鋭利な刃物の部分が欠け落ちており、さらに柔軟に動かす事の出来ていた尻尾が、ルナ先輩の攻撃によって重症を受け、地面にだらりと力無く垂れ下がっている。奴のもう1つの攻撃手段を封じることに成功した。
このまま終わらせてやりたい。そう思って俺はライフルに装填していた弾薬を交換し、貫通弾に切り替える。
「ヘッドショットで終わらせてやる」
これくらいのサイズのモンスターの頭なら貫通弾を複数撃ち込めばいけるはずだ。そうこうしていると俺を脅威と判断したのだろう。ゴルドデュエルベアが自分にめがけて突進攻撃をしかけてきた。
「サトナカちゃん!」
この瞬間。俺と奴との決闘が始まる。どちらかがやられたら命を落とす戦いだ。この闘技場では敗北は死を意味している。
――君はモンスターテイマーとしてハンターとしてどうモンスターと向き合いたいのかな?
「捕縛で狩を終わらせたかったですアルシェさん……!!」
だけど今は苦しんでいるモンスターを救うのが優先だ。痛いのは一瞬だからね。俺は眉間に狙いを定めて照準を振り絞り、
『グゥオオオオオオオオオオオオ!!』
「狙い撃つぜッ!!」
――ズドン!――カシュ――ズドン!――カシュ――ズドン!
『ごおおおおおおおおおおおおおおぉ…………ん……』
ゴルドデュエルベアは前のめりに転げながら、断末魔と共に息を引き取った。
「こんなの……あっていいわけがないだろ……!!」
俺は睨んだ表情を浮かべ、特等席で俺達の戦いを見物している幹部の男に顔を向けて視線を送った。男はニヤニヤとした表情をして、楽しそうにリリィ先輩と仲良しこよしとしていて俺に気づいていないようだ。
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
『こ、これは……これは番狂わせだあああああああああああああああぁ!!!!』
「…………」
黙ってろヤマメラ!! いまはお前の実況がウザい!!
「分るわよ。あなたモンスターテイマーだもんね。薬漬けにされて悲しい最後を迎えてしまったモンスターの事を思うと怒りがこみ上げてくるわよね」
「ああ……」
「でもね。その怒りは復讐心からきているモノよ。今は収めなさい。その怒りを正義に変えてこの都市を支配するポリス組織『アマノジャク』を壊滅させるの」
ついに憎き相手の名が明かされた。この場にいる全員。俺が殺してやるからな? 首を洗って覚悟しておけよ。
いまはルナ先輩のいうとおりに冷静にならないとな……。そう思いながら闘技場のリングを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます