64話:闇の裏闘技大会2
『さぁ、紳士淑女の皆様。大変長らくお待たせしました! ただいまよりデモンストレーションバトルを開始いたします!! 今回のアナウンスをさせて頂くのは私、ヤマメラ・コーイチでございます!!』
――ヤ・マ・メ・ラ!! ヤ・マ・メ・ラ!! イェエアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「人気アイドル張りにすんげぇ声援だなぁ……」
「それもそうよ。この裏闘技大会を取り仕切っている幹部の配下で右手と呼ばれている男だからね。悪人達のアイドル的なそんざいなんだから」
『さて、皆様。今宵の余興を楽しませてくれるであろう戦士達をご紹介いたします。黒服姿の男女カップル。チームの名はネメシス!! 復讐の正義を!! そして女神の名の下に正義を振りかざす悪の中の悪がここに姿を現しました!! 皆様すぐに後ろの正面の安全をご確認ください!!』
――ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!! クソ食らえ!! 王家の犬が!!
「あぁんもう私達お似合いのカップルですってサトナカちゃん! もういっそうこのまま付き合っちゃいましょうよ!」
「おっ、俺はそういう道に興味はないですからねっ!?」
「うふ、そういう素直なところ。嫌いじゃないわ!」
なに勝手に茶番をやっているのだろうこの先輩は……。ケツの穴がいくらあってもたりねぇぞこれ。素で怖すぎるって。
『そして、今宵のネメシスの前に立ちはだかる強敵。いや、復讐の神の申し子達に死の宣告を与える地獄からの使者!! その殴打は1発でありとあらゆる物を粉砕いたします。その竜の尾に生やし3本の剣はどんな頑強な岩であっても貫いてご覧にいれましょう。そしてそのモンスターは戦いをこよなく愛する真の剣闘獣!! 豪気決闘獣・ゴルドデュエルベア。ここに入場です!! さぁ、皆様。いまから目を離さぬようにご注意ください!! 席を外したら最後。勝負は既に決していたなんていう馬鹿げた話にあっても当運営では対応いたしかねますのでご了承を!!』
「くるわよ今回の目玉モンスター。気をつけてね。相手は普通のゴルドデュエルベアじゃないから!」
「えっどういうことですか?」
「詳しい話は後で聞かせあげるけど。アルシェが1番ガチで怒っている案件に関わっている奴が現れるのよ」
「アルシェさんがですか……?」
アルシェさんが激怒するなんて想像ができない。そんな彼女を怒らせてしまった案件っていったいなんだんだ……!?
「ええ、この事が公に明るみになってしまえば大騒ぎよ。なんせ貴族が王家に対してクーデターを起こそうと企んでこのポリス組織に対して資金提供をしていたのだからね。背筋の凍るような恐ろしい事よ」
「……ごく……」
何を察しているかは分らないけれど。俺にはその言葉の重みになにか胸がチクチクするようなモノを感じ取った。ふと。
――グゥオオオオオオオオオオオオ!!
「――っ!?」
「くるわ……! 戦闘準備よ!」
巨大な檻の門が上へと上がっていく手前で暗闇の中から野太い熊の怒号が聞こえてきた。分る。奴が何かに取り付かれていて悲鳴を上げているのを。最近ホワイエットに言われて会得しようとしている術。まだまだだけど少しだけなら相手の気持ちが分る。
「助けてやるからな……楽にしてあげるから……!!」
「何を言っているのか分らないけれど。サトナカちゃんが思っていること。私も全力でやってあげるわ!」
ルナ先輩がショットガンを構えて改めて協力を申し立ててくれた。俺も先輩の期待を裏切らないように頑張らなければ……!!
モンスタテイマーとして苦しんでいるモンスターを救わなければならないと思いながら、暗闇の中から現れてきたモンスターに向けて銃を構える。
『グゴッ、ゴゴゴッ……!!』
錯乱しているようだ。しゃべり方がまともじゃない感じがする。まるでその……。
「あのモンスターはね。ポリス組織が独自に生み出した薬物を投与されて理性を無くしてしまっているの。まさに狂暴化というべきかしら。それをあの貴族連中は利用して王家を潰そうと目論んでいたのよ」
「…………なんて非道徳的なことを……!!」
こんなの薬漬けにされたモンスターがいたたまれないじゃないか!! 獣を握り締めている手に力が入る。
「いったでしょ。ここの都市にはルールがないの。それは闘技場でも言える事よ。それに薬漬けにされたモンスターの利用目的が失われたとしても価値はある。こうやって見世物のために利用されたり、勢力抗争の道具として使い捨てにされたりとね」
こいつら連中はモンスターの事をなんだと思っているんだよ……!!
「落ち着いて頂戴。いまここで怒りをぶつけてもいみがないわよ。奴らは気づいてないようね。リリィちゃんとロッソちゃんが裏手でこの闘技場のオーナーを手にかけようと頑張っているわ。ほら、あそこにリリィちゃんがデブ親父の側で侍る演技をしているでしょ」
「……あ、本当だ」
『うふふっ、いまからどんな事がおきますのぉ~?』
『ドゥヒン! それはねぇリズちゃぁん。あのにっくき黒服共を、いまから僕ちんのペットちゃんがボッコボッコの血祭りにあげちゃうんだよぉ~』
『アルデブさま。お手を』
『うむ、よきよき。ぷぅはぁ……!』
リリィ先輩はデブ親父にベッタリと言葉巧みに侍りながら妖艶に接待をして、ロッソ先輩は隣でボーイの真似事をしている。完全な暗殺準備が整った状態だ。そしてデブ親父は特等席でふんぞり返ってご機嫌良さげの様子だ。ふと、俺の視線にきづいたのだろうか。リリィがさりげなく手を振って投げキッスをしてきた。
「ズッキューン!!!!」
「いや、なんでルナ先輩が胸を押さえているんですかっ!?」
一応ルナ先輩もリリィ先輩のアレに気づいていたようだ。卒倒して後ろに倒れようとしているルナ先輩を、どうして俺が支えないといけないわけっ!?
だがそうこう茶番をしている間に試合は始まっていた。
『さぁ、先制攻撃を仕掛けたのはモンスターの方だっ!! 謎の茶番を繰り広げているカップルにめがけてモンスターが突進攻撃を仕掛けております!!』
パンチンググローブの形をした巨大な両手と、竜の尻尾に三つ叉の剣を生やした熊こと、ゴルドデュエルベアが俺達に向かって襲い掛かろうとしてきている。
「ルナ先輩ッ!! ふざけて倒れてないで散開しますよ!!」
「はっ、私ったらついリリィちゃんのハートキッスピストルを受けちゃってつい……。おぉっし、がんばっちゃうわよー!」
ちょっと男が混じった意気込みを聞きながら俺は直ぐに右へと回り込む形で走り出した。それに合わせてゴルドデュエルベアがついてくる。
「はっ、はっ、はっ、速いなっ!」
時速10キロくらいか? それ以上はある低速域での突進攻撃が俺に狙いを定めて接近してきている。走っている以上撃ち返すことができない。ボルトアクションライフルのデメリットだ。ふと、
「おい、ベアちゃん。そっちじゃなくてこっちが相手するわよ!!」
――ズドン!!
『あぐぉぅっ!?』
『おっとここで味方の女がショットガンで援護に入ったぁ!! スナイパーの男。情けなく命拾いです!!』
――ひゅー、女に助けられてやんの!!
「いってろクソが。チームワークをなんだと思ってんだよ」
そう思いながら闘技場内に設けられている瓦礫の高台に陣を取ってルナ先輩の援護に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます