60話:里中 狩人の新しい相棒『セイバー』の進捗 その2
「さぁ、これがあんたの設計図で再現したボルトアクションライフルだぜ。パパも人生で一番の最高傑作の銃が作れるかもしれないって喜んでいたぜ」
「これが……俺の考えていた銃か……夢に出てきた奴と似てるな……」
――さぁ、『セイバー』が君を呼んでいるよ。作りなさい。目を覚ませば既に君はこの銃の設計図を書き起こせるようになっている。君がこの銃を使い、多くのモンスター達と共に活躍できる事を楽しみにしているよ。
「夢? まぁ、なんの話なのかは知らんが。さぁ、お前を呼んでいるぞ」
ゴクリとつばを飲込む。分る。目の前でカミルさんに抱えられている銃が俺に早く使ってくれと呼びかけてきている。
「一度持たせてください……」
「ああ、もちろん」
カミルさんに手渡された試作品のセイバーライフルを受け取る。
「……ずっしりして頑丈そうですね」
お古のボルトアクションライフルとは違った重さと質感が手に伝わってきている。
「ストックは何を使っているのですか? 骨素材なのは分るのですが」
「それはマドロックドラゴンの足の骨を流用したものだぜ。あいつの体重を支えている骨なら頑丈にできているし。多少荒く使っても折れたり欠けたりはしないさ。一応素材をそのまま削って仮組みしただけだ。今後はそのストックをどのような形状にするかだな。今のところはどうだ?」
「うーん。ちょっと銃身のバランスが前のめりな感じがしますね」
「まぁ、そういった感じのフィードバックが欲しいんだ。わかった。微調整をしつつ理想のストックを作ることにしよう。ちなみにそのストックはバレルの銃口付近まで伸びているんだが。これはバレルがひん曲がったりするのを防ぐためにそうしてあるんだ。当初の設計図ではバレルは剥き出しだっただろ? だけどそれではハードな狩では使いこなせないと直感で感じたんだ。とりあえず私なりのアレンジを加えさせてもらったがどうだろうか?」
「実際に現場で使ってみないと分らないとしかいいようがないですね」
「うん。そうだし、ある程度完成形になってからでいいから実際につかってみてくれ」
「わかりました。あとカラーリングはこのクリーム色のままなのでしょうか」
「いや、骨だけだと経年劣化が心配だ。そこにカーボンコーティングを施して塗装とかしつつになるかな。あとできれば個人的に角張ったデザインじゃなくて流線型の形の方をオススメするな」
「というと?」
「重量の軽減や持ちやすさに直結する話だからさ。耐久性は大丈夫だ」
当初の設計図よりかなりブラッシュアップされていっているなと思いながらも、プロの職人のアドバイスを聞かないわけはない。
「じゃあ、とりあえずそれでお願いしますね」
「おう、任せろ」
「じゃあ、さっそく試射させていただきますね」
「いいぜ。ただし、ちゃんとシューティンググラスと耳栓はしろよ。ここの決まりだ。私は背後から君の腕をみさせてもらうことにする」
あっ、ちゃんと安全面はしっかりしているなーと思いながら、シューティングテーブルの上にあるそれらを装着する。
「弾薬は3種類用意してある。自由に使ってくれ」
側にある赤、青、オレンジの弾薬箱。右から通常弾、徹甲弾、重量弾の並びだ。俺はボルトハンドルを1直線に引き、まず始めに通常弾を装填した。
「にしても考えたなそのハンドルよ。普通は起こして引いて押して下げるのが当たり前なんだが。そいつは引いて押すだけっていう。並のボルトアクションライフルにはない機構をしているよな。それに薬室シリンダーの外観に螺旋の溝を掘るだなんてあり得ないぜ」
「スクリューシリンダーとストレートボルトハンドルの組み合わせでしか出来ない作動機構なんですよ」
「あんた銃器職人か? やけに詳しいな」
スクリューシリンダーの効果はノーマルと比べてかなりのスムーズなコッキングが出来るのが利点。溝がレールの役目を果たし、機関部に設けられている出っ張りがガイドの役目を果たしている。それと合わせてストレートボルトの直線の動きが組み合わさる事により、スムーズなコッキングが実現できるのだ。
って、聞かれても俺がなんでこんな事を知っているんだよと言葉を返したいな。もしかしたら転生の時に神様特典でそう言った知識を与えられたのかもしれない。じゃあ、あの夢に出てきた男の人はなんだろうな……。疑問ばかりが浮かんでくる。
「弾倉マガジンには弾は入れないのか?」
「あっ」
そういえば設計図には着脱式可能なマガジンって書いてたな。
「すみません。いつもこうやって弾薬を装填してたから癖でつい」
「大分様になってきた証拠だなははっ」
「ですねー」
というわけで改めてマガジンを銃から抜き取って装填作業をした。なるほど。こうやって斜めにお尻をスライドさせながら押し込むのか。
「装弾数は大体どれくらいです?」
「そうだな。10発はあれば充分だろうなって思って作ってみたぞ。とりあえず撃ってくれ」
良い感じだ。それくらいあれば継続して戦闘ができる。
「いきすね。安全装置解除します」
「どうぞー」
トリガーの重さはどれくらいだろ? いつも使っているやつは柔らかくて軽かった。
「…………」
的は草食獣種の立像模型。狙う箇所は頭部だ。スコープマウントの上にある『♀』型のアイアンサイトを覗いて集中する。
――ズダン! ガチャ、チャキ。カラン。
「うーん。トリガーが重いかな」
「一応分解してテンションは変えられるようにしてある」
まるで乗り立てのMT車のクラッチペダルと中古車の違いのようだ。堅さが違う。引き金のあそびをひき終えた辺りで急に反発があるな。
俺はその感覚をカミルさんに伝えて改良して欲しいと伝えた。
「じゃあ、次は徹甲弾を使ってみてくれ。こいつはどうだろな?」
貫通弾の上位弾にあたる弾薬だ。いまのお古ではとうてい使えない代物なのでちょっと気になっている。
「的に最適なのは……あれかな」
俺は次にサンドライノスタートルの立像模型に照準を合わせて引き金を引いた。
――ダァンッ!!
「――ッ!?」
かなりの反動が肩にガツンときたぞ!? ヤバいな……。重量弾はどうなるんだよ……?
「どうだい。初めての徹甲弾は。見た限りだとかなりのリコイルで銃が跳ね上がったな……。リコイルを相殺できる何かが欲しい所だな……」
「そうですね……リカバーしてから次弾を撃つのにかなりラグありますねこれは……」
素早く動く的に対しては結構なディスアドバンテージだった。
「銃の先端にブレーキみたいな役割を果たしてくれるものがあるといいかもしれませんね……」
「ふむ。圧力を分散する為にか。なるほど。一応いくつか作ってみることにしよう」
「あとこのバレルなんですけど」
「ああ、どうした?」
「質感が悪いですね……」
「ああ、言い忘れてたすまん。それはジャンク品の工房製の物を仮組んでいるんだ」
「それが反動の相殺を妨げていることはあり得ます?」
「あるな……」
といってカミルさんが悩み始めた。
「機関部はどんな素材を使ってます?」
話題を変えてみよう。
「ああ、マドロックドラゴンの吠喉袋と相性のいい鉄素材を組み合わせた合成材料で作ってあるぜ。安心しろ。簡単には壊れない。思う存分に重量銃弾をつかっても問題ないぞ」
カミルさんの話と俺からのフィードバックを元に色々とセイバーライフルのブラッシュアップをおこない、それを総合して言えたのだ。
「ほぼ完成形に近い感じですね。あとはいろいろな問題点を解決して反映していう流れになりそうですね」
「そうだな。ただ、この銃の一番の欠点がな……」
「適切なバレルでないと強力な反動が殺せない点ですよね……」
俺達はいまその問題に悩まされている。どうしたらいいだろうか……。
「あとはそのバレルの耐久性も加えていくとなると。解決策になるモンスターの素材は……あいつしかいねぇな……」
「あいつ……ですか……?」
カミルさんの頭の中で思い浮かべているモンスターが何かは分らない。
「ああ、だが。今のあんたの腕だと勝てる見込みのないモンスターになるな。それとランク問題も絡んでくる」
「ルーキーランクより上のモンスターですよね」
「ああ、ミドルクラス4でようやく狩猟解禁になるやべぇモンスターだ。そいつは古い闘技場を住処にして好む面白いやつなんだ。そして強い」
「闘技場に住むモンスターですか……」
パンチングマシーンやサンドバックで鍛えてそうなイメージがある。スパルタンなモンスターなんだろう。
「そいつの名は『豪気決闘獣・ゴルドデュエルベア』と呼ばれている牙熊種のモンスターなんだ。両腕はパンチグローブをつけたみたいにデカくて、尻尾には三つ又状の剣のような竜の尻尾を生やしているんだ。こいつの持っている全部の素材がバレルには必要なんだ」
なんか噛みそうな名前をしたモンスターだなと思いながらも。拳と剣を使って戦うモンスターという事は分った。名前に違わない奴なんだろう。
「ということだ。あとはそうだな今回の銃器開発で掛かりそうな費用なんだけどな。見積もっておよそ7000ダラーになりそうだ」
「なっ、7000ダらぁーっ!!!?」
俺の貯金は現在3000ダラーのみ。どう考えても予算オーバーしているって……!
「まぁ、その反応みて察したわ。どうだ。ここは3回の分割で取引しないか? それ以上は金利を頂くぜ。4回目以降は4ダラーを上乗せさせてもらうことになるぜ」
「高っ!?」
これは素直に応じないといけない気がしたので、俺はその場で誓約書を交して取引を成立させたのであった。
「とりあえず。1年以内には完成させようぜ。それまでは上手くやりくりしてろよ~。くれぐれも踏み倒しはなしだからな?」
「いや、もう前金支払っているんですからそんな怖い顔しないでくださいよ……」
お金にはうるさい商人の鏡であるカミルさんだった。
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