56話:撃退狩猟クエスト『沼地下層エリアに現れし轟雷獣を撃退せよ』その3
「さぁ、もっと食おうぜホワイエット! 俺達は食べ盛りだからな!」
「ミステルさんのお肉はあるの?」
「なぁに心配するな。ここら辺にはいろんな草食系のモンスターがいるんだ。現地で調達すればそんな心配なんて無用さ」
「うん、わかったご主人様っ! 沢山食べるね! はぐはぐ、うーん美味しいー!」
「おう、いいぞー」
俺達のバーベキュー大会はまだまだ盛り上がっている。とりあえず追加の肉をテントにある保冷箱から取り出して等分にカット。切り分けた肉を皿に盛り付けてからバーベキュー台に持っていって焼いていく。今度は薄くスライスして食べていく。こういった場所でのキャンプをしながらのバーベキューは乙なもんだな。
『グゥオオオオオオオオオオオオ!!』
「はわわっ!?」
「んっ?」
エリア1方面から聞き覚えのある咆哮が聞こえてきた。どうやらミステルさんと轟雷獣・サンダービーストの激戦が繰り広げられているのだろう。野球中継を観戦しながら飯を食うみたいに同じ事ができたら面白そうかも。
「だいぶ激しい戦闘が続いているのかな?」
「うん、ちょっと怖いね」
「大丈夫だ。ミステルさんが頑張って戦ってくれているから安心しろ。さっ、続きを楽しもうぜ」
「うん……」
さっきまで上機嫌だったホワイエットが何か心配そうにしている。
「さっきのぐぅおーんって声。ミステルさんに怯えているような声だった」
「そうなのか? 俺にはよく分からんが」
モンスター同士で何か通じるモノがあるのだろう。そう思いながら焼きたての肉を頬張っていく。
「ご主人様ももう少しお勉強してほしいかなーって」
「ん? んん?」
彼女が何を言いたいのかがよく分からんが。鳴き声で感情を読み取れるようにしろと言いたいのかな? その変は人間の俺だからなぁ……。
「きっとあのモンスターは怖いけど、戦わなければ殺されてしまうって思いながらミステルさんと相手しているんだと思うの」
「本能的な生存欲求っていうやつか?」
「ご主人の難しい言葉は分からないけれど。私はそうだと思うよ」
「うーん。意外とモンスターの生態って奥が深いもんだなぁ……」
まぁ、立場が逆だったら同じだよな。そう感慨にふけていたところ。
――ブワッ!!
「へっ――?」
風を切る音と共に突如空が真っ暗になった事に気づき、俺は反射的に上を見ようとした瞬間。
「ご主人様! こっちに逃げて!!」
「うわっと!?」
――ドシャン、バキバキメキキキ!!
俺はホワイエットに片腕を掴まれて引き寄せられてしまい。持っていた皿ごと正面から地面にずっこけてしまった……。
「ててて……」
「あうぅごめんなさい。みてあれ……」
「んー、ったくなんだよ……って……えっ」
表情を強張らせている彼女が指さす方向に顔を振り向くと。テントがぺしゃんこに潰れており、その上には……。
「なんだあのモンスター!?」
「あうあうわからないよぉ!?」
まったく見たことも無いような、明らかに肉食系のモンスターがその場に立っていた。一体全体なんだっ!?
そのモンスターはオオカミと熊を掛け合わせたような姿をしており、全身の毛並みは金に白のラインのカラーをしていて、甲殻は白銀色、竜のような形の尻尾、四足歩行で立っている。碧眼の左目は何かの怪我で失明してしまっているようだ。
モンスターは俺達を見て声を低く鳴らして威嚇してきている。
「分らねぇ……! あいつは何だよっ!!!?」
一瞬だけ目の前のモンスターがサンダービーストなのかと俺は思ったが、見た目だけでは断言できない。
「何しにここまで飛んできたのかな……ははっ」
「ご主人様……うん……私も分からないかも……あうあう……」
ベースキャンプにやってくるだなんて俺の知っている限り、横にいるホワイエットの時以来だぞ。てか、目の前のモンスターに餌を与えたような覚えがないんですけどねぇ……。
『ガウッ、ガウッ、ガウッ!』
「私たちの事を別の人と間違って恨んでいるみたい」
「おまっ、わかるのか?」
「ちょっとだけね」
警戒心丸出しに俺達を睨み付けくるモンスターは、誰かと間違えているらしい。
――ジュゥ。
『ガウ。クンクン……』
「ん、何してるだあいつ?」
モンスターがバーベキュー台の上で肉が焼けている音に反応した。奴はそちらに興味をもち臭いを嗅ぐ仕草をしている。
モンスターはゆっくりとした足並みでバーベキュー台に近付いていく。更にそこで立ち止まってクンクンと同じ仕草をした瞬間。
――ごりゅ、ごりゅりゅりゅ!!
「へっ? 何だ今の音?」
「すっごくおっきな音だったねご主人様……。多分あの子のお腹の音だとおもうの」
「あいつよだれを垂らしてやがるな。なるほど」
腹減っているのかあいつ。しかも、とびっきりの空腹状態のようだ。なにか激しい運動でもしていたのだろうか。うーん。
『くぅぅん……』
――バタン!
「あっ!? 倒れちゃったよご主人様!! 大変だよっ!!」
「おいおいマジかよっ!? おい、しっかりしろ!!」
『あぅぅん……』
とても辛そうだ……。このままだと力尽きてしまうじゃないか……!!
この前アルシェさんに教えてもらったが、モンスターは1日何かを食さないと餓死するのだとか。
「餌が手に入らなかったんだな。大丈夫だ。今すぐお前の飯を作ってやるからな!! しっかりしろ!!」
モンスターテイマーとして目の前で死にそうになっているモンスターを見過ごすわけにはいかないからな……!!
とても辛そうだ。近くで見ると全身がキズだらけで、恐らく何かに襲われてここまで逃げ延びてきたんだろう。見て分る形で衰弱しているのが覗える。俺は咄嗟の判断で自分達が食べていた串刺し肉の残りを、串を抜き取った状態でありったけ皿の上に載せ、そのまま目の前のモンスターの口元に寄せて差し出してみた。すると。
『ガゥッ!』
「怖がるなよ……」
無理もないか。
だがそれでも俺は根気よくモンスターにに差し出し続ける。
俺のとる行動に最初は警戒と共に戸惑う仕草をしていたモンスターだったが、
「大丈夫だよ。美味しいから食べてみて。お腹空いているんでしょ? いいよ。私達は沢山食べたから大丈夫だよ。ご主人様のつくる料理は美味しいんだから!」
ホワイエットが優しくニコニコと笑顔で接してきたので、モンスターは彼女の姿を見て何を感じたのだろう。舌先をペロリと少し出して毒味をした。
『――あぅんっ!?』
「美味しいでしょ?」
「どうやら口にあったのかな。よかった、よかった」
美味しいと感じたのだろう、モンスターは驚いた表情を浮かべた後に上半身をゆっくりと起こしたので、俺は皿を地面に置いてみると、直後にモンスターは皿の上の肉をガツガツとしてペロリと食べてしまった。
肉を全部食べ終えたモンスターは少しだけ元気と共に力を取り戻したようだ。おぼつかない動きをしながらも中腰の姿勢で立ち上がると、
『グワン!』
「んんっ?」
「もっと欲しいって言っているよご主人様!」
ほんの少量では物足りなかったようで、俺に顔を向けてひと吠えしてもっと寄越せと言ってきているらしい。
「あーわかった、わかった。直ぐに新しいの焼いてやるからな。ホワイエット。すまんが手伝ってくれ!」
「はーい!」
俺とホワイエットはモンスターの対面に回り込んでモンスターのために肉を焼く作業を始めた。とりあえず食べやすいようにサイコロ状にしてやろうかな。
『グルル……』
モンスターは俺達の調理する様子をマジマジと見ながらじっとお座りをしている。まるでその姿は飼い犬がご主人の作っている物を見ている時と同じような感覚に近い。
俺はもくもくと肉を焼き、ホワイエットは出来上がった肉を串を使って器用に取り、片手に持つ大皿に盛り付けていく作業をしている。
『ガウッ』
「メッ! 駄目だよ! フライングは駄目ってご主人様が言っているでしょ!」
『クゥン……』
「あーっ、駄目だって言ってるでしょーもう! ご主人様ー! この子なめちゃったー!」
「ははっ、卑しん坊だなこいつ」
『ガウン』
また食べられると思ったのだろう。モンスターが皿に向かって顔を近づけて肉を食べようとしたのだが、彼女の制止を前にしてピタッとなり、悲しそうな表情を浮かべながらお預けをしないでと訴えかけてきた。
だが、それでも諦めきれなかったようで舌先を出してペロリと、焼きたての肉の味を楽しむ所は犬と同じだ。面白い奴だな。
てか、俺の喋っている言葉が分かっているようだな……。
それからしばらくモンスターは夢中になって食べ続け、次第にその虜になってきた所で。
『アヴッ!?』
「どうしたっ!?」
「あーっ、ご主人様! あれだよ! あれ!」
「アレって……んなまさかっ!? ――うぉっ、眩しぃっ!?」
唐突の事だった。モンスターがしゃっくりと共にビックリした表情を浮かべ、その直後に身体から眩い雷光を放ち、そのシルエットを次第に人の姿へと変えていった。えぇ……また俺やらかしたぞ……。
どうやら俺はモンスターテイマーのチート能力で新たな仲間を増やしてしまった。
「ワンぎゃー!? なんだなんだ一体あたしに何がおきたんだっ!?」
「変わった最初の一声だな」
「わー可愛いお姉ちゃんだー」
「んー? なんだあんた達。もっと肉をつくらんかえ。あたしは腹がとても空いているのじゃよ」
「すまんが、もうお前に全部あげたので最後だ。あとは狩りに行って調達しないといけないんだわ」
「なぬっ! このあたしに暇を作らせるとは無礼者! あたしはサンダービースト族の王女であるぞ! なんという失礼なオスであるか!」
「あー、はいはい、えらいえらい王女さまなんですねー」
「ぐぬぬ! おぬし。あたしをバカにしておるな」
「あうう、あんまりからかわないであげてよご主人様。本当の事を言っているみたいだよ……? 多分」
「そうじゃぞえ。そこの童のいうとおりじゃぞ。てっ、多分とは失敬な」
「あのな。お前は俺の下僕とかじゃない。立場は俺が上なんだけどな」
「うん、そうだよお姉ちゃん。この人はお姉ちゃんのご主人様なの」
「なにを不可思議な事をもうしておるのか分らぬが。サンダービースト族は他人に媚びたりせん。そもそもあたしは王女であるぞ。どこぞの馬の骨とも分らぬオスに侍るようなあたしではあらぬわ」
なんか高飛車なお嬢様が新しい仲間になってしまったようだな。んっ?
「なぁ、お前の種族はなんて言うんだ?」
「聞いておらぬのか憎き奴らの恰好をしているオスよ。あたしはサンダービースト族の王女であるぞ」
「ええええええええええええええええええええええええええっ!!!!?」
その言葉を聞いた瞬間。俺はその場で盛大に声を上げて驚愕した。嘘だろっ!? 目の前のお嬢様がサンダービーストだって……!? じゃあ、ミステルさんは……。
「と、とにかく細かい話は後にしよう!? いっ、いまはその裸をどうにかしないとなっ!?」
サンダービースト族の王女改めて『サビ』。彼女はとりあえずテントの布で作った即席のポンチョ服を着せてやった。最初はもの凄く嫌がっていたけど。ホワイエットのフォローもあってとりあえずは承諾してくれた。
「なんか。アマゾネスの王女さまって感じな奴だな……」
身長は約170センチだろう。容姿はショートヘアーの髪を下ろしたツンツン頭、その上にとんがり頭の耳が生えている。白髪に金のラインが入ったツートンカラーの髪。顔立ちは二重のつり目に碧眼、クールな相貌が特徴的だ。左目は深手の傷で閉じたままだ。失明してしまったのだろう。ミステルさんとの戦いで失ったと思われる。
肌は白銀のように白く、体つきに関してはしなやかで筋肉質のスレンダーボディーである。背中かから覗くように髪と同じ毛並みをした竜のような尻尾が生えている。
「はぐはぐ。うむ、美味であるぞ主殿」
採れたて新鮮のヌマカタメロンを両手に、サビは食後のデザートを楽しんでいる。意外にも果物も食べられるのか……。
「変わったしゃべり方だなサビは」
「ぬーっ、そうであるかえ? 幼き頃からずっとこうであるからよいではないか」
「すまん。気にするな。聞き慣れないしゃべり方をしている奴と初めて出会ったからそう思っただけだ。今後は気をつける」
「うむ。よい心がけであるえ」
「ねーっ、ご主人様。サビちゃんはサンダービースト族の王女様なのよね。だったらミステルさん。怒るんじゃないのかな?」
「…………やっべぇ、他の事でいっぱいだったから。それまったく考えてなかったわ!!?」
「ふむ、そのミステルとは何者ぞえ?」
「あいやっ、今日ここの狩りに来た仲間なんだけど。けっこう強者で。俺の先輩なんだよ」
「センパイ……ツワモノ……ほう」
がぶりとメロンにかぶりつきながらつり目を細くして上目遣いになり、
「興味深いぞえ」
「……ゴクリ」
と、サビは王者の風格を感じさせるような言葉を返してきた。
「ご主人様……。ちょっとミステルさんの事をごまかした方がいいかもしれないよ」
コショコショとホワイエットが耳打ちをしてくる。確かに。
「やぁ、カリトくん! やっと戻って来れた! ただいま……って」
「あっ」「あー」
「ぬ?」
ホワイエットと相談に夢中になっていたところに、ミステルさんが音も無く俺たちの側に現れて声をかけてきた。でっ、彼女は俺達ではなくサビの方を見るなり……。
「なんか風変わりな女の子が増えてるっ!?」
その場でザザッと後ずさりをし、ミステルさんはホラー目の当りにしたと言わんばかりに引きつった表情を浮かべていらっしゃる。ですよねっ!? そうなりますよねっ!? 俺も同じ立場だったらそうなったから分りますっ!!
「お前は……っ!!」
「あっやばいっ!」
「だっ、駄目だよサビちゃん!」
「グルルルルゥ!!」
「なっ、なんだいきなり私の顔を見るなり怖い顔なんかして……」
ミステルさんは分っていないが、サビは分かっている。自分を痛めつけ、そして左目を奪った仇が目の前にいる事を彼女は理解していた……っ!
「オマエをコロス!!」
「なんだあの跳躍力はっ!? 尋常じゃない人間離れした動きだぞっ!?」
その場からバッと宙高くに跳躍し、両腕両足を使っってサビがミステルさんに襲い掛かろうとしている。このままではミステルさんが大変な事になってしまう!
「サビッ!! 止めろ!!」
「止めるな主殿!! あたしはこの時をまっていたのじゃぁっ!! 父上と母上から授けられたこの大切な身体を無下にし、あまつさえこの美しき目を1つ。母上と同じ目をあやつは奪いおったのじゃぁっ!!」
「――ッ!!」
ミステルさんが銃を構えて戦闘態勢に入っている……!! 駄目だッ!! せっかく救った命が目の前で消えてしまうなんて嫌だっ!!
「この分からず屋があああああああっ!!」
その場で俺は叫び、一心不乱にミステルさんに向かってタックルをした。
「がっはぁっ!?」
「すみませんミステルさん!! 今は抑えてください!! 自分が何とかします!! 撃ないでください!!」
ミステルさんを地面に押し倒して強く彼女に訴えかける。すると。
「……なっ、なにを……い……いきなり……するかと思えば……」
「えっ……?」
怒りの感情がシュンと冷めていく。でっ、ミステルさんが恥ずかしそうにしているのを目の当たりにしてしまい、次の瞬間に俺の顔が一気に熱くなって。
「ああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「……ばか……」
「あわわわ、ご主人様が!?」
「――ッ!?」
俺は大変な事をしてしまった……。いやそっ、それは後だ……!!
「サビッ!! モンスターテイマーであるサトナカが命令する。その場で大人しく伏せろ!!」
俺は新たなモンスターテイマーの能力に目覚めたことに気がついた。誰にどう説明すればいいか分からないが。いまは自分の手にした力を行使して二人の争いを止めなければっ!
「はんっ、そんな戯けたことをぬかすとは。主殿の命令など聞かぬわ――えっ――アブッ!?」
「あちゃーいたそー」
「…………自業自得だバカ野郎が」
「なっ、なぜじゃっ!? 身体が動かぬぞっ!?」
伏せろと命令を受けたので、彼女はそのまま地面にビッターンと落ちてしまった。現在、俺の命令で彼女を支配しているので、うつ伏せで身動きのとれない彼女にとっては何が起きたのか理解不能に陥っているようだ。
「サビ。いまからそこで伏せたまま反省していろ。俺達がベースキャンプの片付けを終えるまでだ」
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