55話:撃退狩猟クエスト『沼地下層エリアに現れし轟雷獣を撃退せよ』その2


 エリア9からベースキャンプまでの距離は約10キロメーターだ。大したことはないし別に途中で息切れして立ち止まったりはしない程度の長さよね。長丁場のでの狩りでは当たり前になっている事で、常識だ。


「それにしてもあのホワイエットちゃんが空を飛んでカリトくんをベースキャンプまで送るのって。最初は理解して話を聞いてたつもりだったけれど。あの子、私を含めていままで考えられてきた常識を変えてしまうような事をするんだから凄いわね本当に」


 空に飛んで戻ることが出来るって、少し羨ましいかも。極端に言えば効率よく合理的に帰還できるのだからこれほど良い移動手段はない。しかも彼が使役しているのはホワイエットドラゴンだ。敵対モンスターが襲いかかることなんて滅多にないモンスターだわ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息を継ぎながら走り続けて10分。そろそろエリア1に辿り着く頃合いだ。地形を見渡す限り沼地の森林が見えているのでこの場所はエリア3~2に該当する辺りだ。


「追撃はないわね。相手もこちらの存在を脅威と感じたのかしら?」


 狡猾な相手と聞いている。分が悪ければ追いかけるのは消耗になってしまうと奴は本能的に感じたのだろうか?


「今頃2人は何をしているのかしら?」


 そう思いながら着々と来た道を辿って進んでいくと。


「――! まさか!」


 茂みを抜けた瞬間。


『ガウゥウウウウウ!!』

「私より先回りしてきたというの!?」


 何を考えてサンダービーストが私の目の前に広がるエリア1に居るというのか!? 何度か同じ個体と戦った事はあるが、このタイプは初めてだ……!


「相当な場数を踏んできたのかしら。同じようなハンター達と戦ってきた事で、奴には私達がどこから来てどこに逃げているのか……となると……不味い!」


 カリトくんとホワイエットちゃんが危ない!! このまま逃げ込んでしまってはベースキャンプの位置が露見してしまう!!


「彼らと近いけれど。おそらく私の事しか見ていない感じにみえるわね」


 それもそうね。あれだけ自分を傷つけてきた相手ですもの。このまま逃がすわけにはいかないわよね貴方にとって、私の存在は親の敵にも等しい存在なのだから!! だったら私も、多くのハンター達を苦しめてきたあんたに答えるしか無いわね!! 


「お前なんかには負けるわけにはいかないのよ!! こっちには3000人のクランメンバーの命を預かっているんだから!!」


 ミーリアはサンダービーストの咆撃で片足を失って現役引退に追い込まれてしまった。そのことがきっかけで彼女はクランの参謀班に鞍替えすることになってしまったのだから!! あれだけ狩りが大好きだったあの子をあんな目にあわせたお前を許すわけにはいかない!!


「緋の与一副団長ミステル。お前にミーリアの無念と私からの引導を渡すわっ――!!」


――タタタタン、タタタタン!!


『ガァアアアアアアアアアアアアアア!!』


 私の銃声を受けて帯電状態のサンダービーストが真っ直ぐに襲い掛かってくる。飛び込みからの爪による切り裂き攻撃だ。


「そこは変わらないわね! はぁっ――!」


 先ほどの攻撃は他の個体と変わらないようね。知能が少しうわてくらいだろう。さらに銃で応戦するも、相手の纏う電気がこちらの攻撃を受け付けないように妨害をしており、状況的には分が悪すぎるわね。どうしたものかしら。


「一部の物好きなハンターだったらこの状況をどう上手く対応したりするのかしら。一人でもいいか腕利きの奴をスカウトしておけば良かったわね」


 いつも使っている銃ならあの防御なんて糸もせずに貫通させることが出来るのに。こういう時に限って制限が煩わしく感じるわ。


「ちょっと弾数が厳しいところかしら」


 手持ちの弾数が50パーセンターまで下がってきている。しかしこのまま戻れないわ。


「となると。相手の帯電解除を待ちながら。いやでもあいつが動いている限りはチャージしつづけるはずよね?」


 もう少しそこら辺の情報が欲しかった。となれば現場で戦いながら欲しい情報材料を手にするしかないわね……!


 そうしばらく相手の動きに合わせながら回避からカウンター射撃の流れを繰り返していくと、状況が一変してきた。


「なるほどね。しばらくすると防御するのに電気を放出した分だけ蓄電量が減って電気を纏わなくなるのね」


 銃弾を数十発程撃つことで、どうも相手の甲殻は電力を失うようになっているようだ。未確定だけれど、手持ちの弾丸を無くす覚悟でただひたすら打ち続けることで戦っていくことにしよう。時間は掛かるけれど、相手の防御手段を無くせるのならば、それでもいいわ。


『――!! クンクン……』

「あっ、まて!」


 突如サンダービーストが別のエリアに向かってこの場から離れて行ってしまった。奴が向かった正確な場所はわからない。何処に行ったのだあいつは? 何か私には分からない何かの臭いを感じて向かっていったみたいだが……。


「…………」


 追撃を考えようかと思ったのだが止めておくことにした。ミーリアの仇と出会うことが出来たのだけれど、今はこの下層エリアの治安を維持するのが優先すべき……だよね。……悔しいけれど、ここは一旦身を引くことにしましょう。


 静寂のエリア1『始まりの沼地』にいた脅威は去って行った。それだけでいいわ。私は物資の補充の為に、そのままベースキャンプがある道へと引き返すことにした。




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※改稿のお知らせ。『46話:つかの間の明るい日常のひと時その2』

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改稿内容:改めて読み返しまして、自分の思っているリリィのキャラ設定と反したセリフと言動が一部あったので修正いたしました。

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