54話:撃退狩猟クエスト『沼地下層エリアに現れし轟雷獣を撃退せよ』その1

 ギルドはこの事を予測していたのだろうか?


「どう考えてもあちらの手際の悪さが表に出てきたとしか思えないわね」


 この前のレイドクエストでもそうだった。旅団を形成してさぁ旅にでようとしたら馬車の数が合わなかったとか。あまりにもふざけた展開に団長である、普段は気さくで飄々とした兄のタケツカミが怒ったほどだ。結局の原因は業者の手違いだった。サービスの質の悪さに呆れてしまった。


「ふぅ、昔を思い出しても無意味か。とにかくこの武装でどこまであいつと渡り合えるだろうか?」


 肩書きはマスター5で緋の与一の副団長。いつも使っている結晶竜の鎧は自宅に置いてきてしまっている。愛用のヘビーマシンガン『剛気竜の咆哮』も同じくだ。どれも轟雷獣を相手には不足のない代物ばかり。しかし、今はこの装備であいつと挑まなければならない。特に防具が心配だ。属性の相性が悪すぎる。


「手を焼かせることをしてくれるものねサンダービースト」


 とりあえずここのエリアを離れて次の場所に向かうことにしよう。おそらくまだエリア10にいるはずだ。警戒心と頭の良さがウリの、四足歩行型の剛獣種のモンスターだ。推奨ランクはミドル7とマスター1相当だ。


「今のカリトくんには戦えない相手だ。ここでなんとか撃退に追いやって元の巣穴に戻さなければ」


 先輩ハンターとしての責務だ。可愛い後輩があのケダモノの餌食になるのは見たくはない。


『グルゥゥ』

「予想通りだわ」


 エリア10『入り交じる沼地』に辿り着くなり轟雷獣・サンダービーストがいた。奴はエリア中央で周囲を見回して警戒する素振りを見せている。こちらの気配に気づくのが早いわね。


 全長は竜のような尻尾を含めて約3000ミリメーターくらいだろう。全高は約2000くらい。幅は約1900ミリメーターくらいになるかしら。全体的にスリムなスタイルをしている。

 顔は牙熊種(ガユウシュ)と牙狼種(ガロウシュ)が混じった顔立ちをしている。体つきも顔と似たようなもので、しなやかさと雄々しさが感じられるわね。

 鱗状の白銀色の甲殻には、金に白のラインが混じった毛並みが生えている。あの鱗ひとつひとつには発電機関が備わっており、身体を動かすごとに高圧の電気が蓄電されていくという珍しい仕組みが備わっている。

 四本の両手と両足は牙熊種ゆずりの太さをしており、その巨大な両手には強靱で知られている牙狼種に近い爪をしている。

 このモンスターは見た目は二種類のモンスターを掛け合わせた様な姿をしているがそうではなく、古来から姿形を変えずに何世代も生き続ける、古来種に分類されているれっきとした固有個体のモンスターなのだ。



「…………」


 無言のまま相手の出方を伺いつつ、銃の最終点検をする。アサルトライフルは連射武器の為、丁寧な整備が要求される銃器だ。今から相手するのは柔な相手じゃない。相手は素早い動きと共に周囲に高圧の電気をまき散らす恐ろしいモンスターなのだから。


「いくわよ私」


 最初に仕掛けるのは私だ。閃光擲弾を銃の銃口先端に取り付けて狙いを定めて、サンダービーストの顔にめがけて引き金を引いて発射する。


『ガゥッ!?』

「よし」


――タタタタタタタタン、タタタタタン、タタタタタン!!


『グルゥッ!!!?』


 ファーストアタックは成功。ここまでは順調なのは当然のことだ。次かその次の段階で状況が厳しくなっていく。


「出来るだけ相手に傷を負わせなければこちらがやられる一方だわ……!!」


 弾倉が空になれば素早く地面に捨てて新しい弾倉を銃にさしこんでリロードする。そして再び引き金を引いて相手の弱点部位を容赦なく狙って弾を撃ち込んでいく。それを続けて30秒が経過したところで。


『グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』

「うっ――!?」


 サンダービーストがその場で怒りの雄叫びを上げた。どうやら視界を取り戻したようだ。その直後に私の姿を目に捕らえて何をしてくれたんだと言わんばかりにギッと睨んできた。


「はぁ、はぁ」


 先ほどの近距離での雄叫びを直で耳にしたことで、頭の中でキーンと耳鳴りがしてうっとうしさが半端ない。これなら轟音スキルの耳栓を用意しておけば良かったと自分の未熟さを痛感する。


『グゥオオオオオオオオオオオオン、グゥオオオオオオオオオオオオン』


「今度はアレか――!!」


 上空の雲が段々とサンダービーストの声に合わせて黒くなり集いだしてきている。落雷による波状攻撃だ! 一発でも当れば重傷ものだ……!


「させるか!」


 私は奴の攻撃を阻止する為に弱点の頭部を狙って弾幕を張り続けていく。


『グルゥ!』

「よし、あとはこのまま」


 落雷攻撃をそしてする事に成功した。あとはこちらが機動力を活かした足り周りを駆使してジワジワと追い詰めていくことにしよう!


「うそ、邪魔されたからってサンダーブレスの準備するわけっ!?」


 上半身を地面すれすれに低くとり、顔を私の方に向けつつ口を大きく開けている。口腔には青光りのプラズマがビリビリと鳴っており、どう考えても私を殺す気満々のようだ。


 必殺わざである極太の『サンダーブレス2(セカンド)』は、どんなモノでもあっと言う間に消し炭にしてしまう威力をもつ、轟雷獣・サンダービーストだけが所有する凶悪な咆撃技だ。これを素早い動きで横1周に回りながら掃射する事もあり、マスターとミドル7のハンターの力が必要とされているのはこの技があるからである。まぁ、その過程に辿り着くまでに似たようなモンスターもいるのだけれど。


「くっ、閃光擲弾のストックがない!」


 対処方法はある。あいてに目くらましをすれば解除できるが、先ほどのモノと、マドロックドラゴンで使ったので切らしてしまった。


「絶体絶命? そんな分けないわよ」


 カリトくんだったらここでそう思っていたに違いない。けど私は上級クラスのハンターだ。勝ち目の無い狩猟なんてないしさせない。


「グレネード!」


 投擲武器であるグレネードを5個顔に向けて投げつける。それからまた銃弾の弾幕を顔に向けて放ち、丁度相手の咆哮が始まる瞬間に合わせて。


――ズドドドドドン!!!!


『アヴッ!?』

「そのまま怯んでなさい!!」


 グレネードが立て続けに爆発したことによる大ダメージがサンダービーストに追い打ちをかけていく。ブレスを出せなかった事に不満を感じながらサンダービーストは顔からくる激痛にもがき苦しんでいた。


「あっ、部位破壊成功ね」


 サンダービーストが痛みを堪えて立ち上がった瞬間。奴の顔には大きな生々しい縦傷ができていた。どうやら片目を失明したようだ。


『グルルルゥ……!!!!!』

「どうした? まだ私と戦うつもり?」


 出来ればこれ以上は引いてもらいたい。だが人の言葉を理解できるような相手じゃないのは重々承知しているわけで。


『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオンン!!』

「今度は帯電チャージランね」


 こちらを脅威と判断したようだ。こんどは私の周囲を縦横無尽に走り回って身体に電気を溜める事を始めた。


「確かアレだっけ。ミーちゃんの言ってたこいつの動きは……」


『まったくだよミステルさん。あの野郎。高圧の電気をため込んで、そのエネルギーでこちらの銃弾をブロックしてしまうんですよー。おかげでそのせいもあってお手上げ状態です。その日の狩猟は断念してしまいましたー』


「防御態勢に入ったわけか」


 仲間の言うとおりならこれは面倒な状況だ。どう状況を打破したモノか……。


「……動いて電気を溜める。となると動きを阻害するようなトラップを仕掛ければ相手はそれに警戒して思うように力を発揮できないはず」


 そう結論に至った私はすかさずバックパックから思い当たるトラップアイテムを複数取り出した。


「最初はこれで邪魔するわよ」


 円盤状の投擲アイテム『粘着地雷』だ。これに近付けばたちまちどんなモンスターでもその場で身動きがとれなくなってしまう。


「相手の癖を見極めましょう」


 サンダービーストの動き方を見ていると、以外にもシンプルな機動をしているようだ。ジグザグから始まり、左右に動いて、そして、


「私に向かってきたわね!」


 タイミングが丁度良い。走りついでに突進攻撃を仕掛けてきたサンダービーストにめがけてトラップを投げつけた。


――ブチャァ!


『アヴッ!?』

「かかった!」


 ちょっと遅かった。既に相手はある程度の防御力を手にしており、こちらの放つ銃弾が届いて折らず、高圧の電気で全てが塵に変えられてしまっている。


「このままだと弾の無駄遣いになるか……!」


 銃がだめなら次は爆発物だ。


「くらいなさい擲弾よ!」


 銃口に擲弾を取り付けて複数発射する。


 電気に反応した擲弾がその場で爆発を起こして相手の甲殻に傷をつけていく。狙いはコレだ。対処方法も分ったしあとは、


「戦略的撤退!」


 逃げる! 一度足りなくなった物資の補充に向かわなければ!


 もう一度粘着地雷をサンダービーストに投げつけて、私はそのままエリア9からベースキャンプへと向かって後退していく事にした。


「…………ちょっと長丁場になりそうね」


 



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