53話:ランチタイムでバーベキュー大会
ベースキャンプに辿り着き、ホワイエットに咥えられていた俺はその場で地面に優しく降ろされた。
地面に座りながら俺は頭に被っているヘルメットを外して側に置く。対してホワイエットはモンスターからいつもの姿に戻り、あうあうとまごついて俺を心配そうに見てきている。
「あぁ……身体が滅茶苦茶ヌルヌルするな……」
「あぅ、ごめんなさいご主人様。えと、ミステルさんだっけ……?」
「うん、ミステルさんだ」
「うんご主人様。ミステルさんが。ご主人を咥えても良いって言ってくれたから嬉しくなってつい思わずやってしまいました……ごめんなさい……」
「うん、別にその事はいいのだがな。唐突に俺にかぶり付こうとするなよな」
「はぅ……」
「あぁ、まあ。最近お前と遊んでやれなかったから。今回は許す」
「本当に……?」
「ああ、本当だ。ホワイエットに寂しい思いをさせている自分が悪いからそう落ち込むなよ」
「うん、分ったご主人様!」
まぁ、モンスターの状態で彼女がスキンシップをする手段といえば咥える以外ないから、もっと別の手段を教えてやらないといけないな……。身が持たないぞ自分。
「さてと。とりあえずミステルさんは轟雷獣っていうモンスターを相手に今頃は戦っている頃だろうだし。俺達は先に飯を食うことにしようか」
「ご飯? 今日は早いね」
「ああ、そうだ。今日は早く食べることにしよう。もちろん一緒にだ」
「わぁーい! ご主人様と一緒にご飯だー! 久しぶりだから嬉しくてまた――」
「うおっ!?」
――カプ。
「うーんおおきいよぉ……ふがふが」
人間の身体で俺の頭にかぶり付いてくるホワイエット。何の愛情表現なのやら。やれやれ。
「ほら、そうやってるとご飯食えなくなるぞー。てか、早く服着なさい」
今まで黙ってやっていたが……。モンスターの姿から人間の身体に戻っていままでの間。ホワイエットは俺と話すことに集中しすぎて全裸でいろいろなことをしていたのだ。
「あわわ。これはいわゆるアルシェちゃんの言っていたデリカシーっていう言葉なんだねご主人様っ!?」
「ああ、そうだホワイエット……。デリカシーのかけらもないことだな」
「分った。直ぐお洋服に着替えてくるよ!」
そう言ってタタタタとテントに向かって走って行くホワイエットであった。
「んー。とりあえず何作ろうかなー」
今回持ち込んできた食材は二つだけだ。大草原カウのもも肉1キロと、野菜類もろもろだ。俺の頭で考えられる調理方法は焼く以外はない。となるとあれかな。
「バーベキューでもするか。タレ無しだけど」
クエスト中にバーベキューをするだなんていつ以来だ? こっちの世界に来る前くらいだろ。しかも小学生の夏休み限定だったけどな。
「調味料は……ネイビーソルトとサンドペッパーか」
やっぱりタレが欲しくなる。……どうしたものかな。
「ご主人様ーお着替え終わったよー」
「あー、偉いぞホワイエット」
「ふふん、嬉しいなー。ご主人様に褒められると嬉しくなっちゃうよー」
と、言いながら背後からムギュウーと抱きつて来るホワイエットである。
「なぁ、ホワイエット」
「ん?」
「今からバーベキューなるものでもしようかと思っているんだけど」
「なにそれー?」
「ようは肉と野菜を網で焼いて食べるっていう料理だ」
「肉っ!? オールドディアーのステーキが食べられるのっ!?」
「高級志向だなおい。いや、今日は市販の大草原カウのもも肉でやろうかなって思っている」
「ふーん。そうなんだー」
「いや何急にテンションさがってんだよ。それはまた金が入ってからにしてくれ」
路頭に迷ってまで高いステーキは食いたくは無いからな……。別のモノに例えるならば貧乏なのに、高級車を買うのと同じアホさ加減だということだな。
「大丈夫だ。俺が美味しく作ってやるからまかせろ」
「わかったご主人様。期待してるね」
ということで俺とホワイエットでおこなう二人だけのバーベキュー会を開くことになった。
――ジュゥゥ。
「ふんふん、生でも美味しそうだったけれど。焼いてみると凄く良い匂いがするね」
即席のバーベキュー台の上で焼かれている肉に対し、ホワイエットがちょっとおませなかんじで感想を述べている。
「ほら、冷めないうちに食べろよ」
出来上がったばかりの串刺し肉を皿にのせてホワイエットに差し出す。
「はーい! あぐ……ふぐ……んんっ!?」
「どうした?」
「美味しい!」
食べてビックリしたのかと思えば歓喜に満ちた表情でそうホワイエットが言葉を返してきた。なんだそりゃ。
「ふっ、もっとあるから焦らずに食べるんだぞー」
「うん!」
モグモグと美味しそうに食べてくれているので、作っている側としては気持ちが良いな。
「さて、俺も合間を縫って食べることにしようか」
「おいしいよご主人様っ! 一緒に食べよー!」
塩胡椒でも意外と味がつくもんだなと思いながら、俺は久しぶりのバーベキュー料理を堪能している。うまいな……!
「あー、ここにバーベキューソースがあれば最高だったのになぁ……」
と思いながらもどんどんと網の上に串刺し肉を置いていき、そのついでに薄切りカットした野菜も乗せて豪華にしていく。
「ねぇねぇ、バーベキューソースってなに?」
「んー、この料理をもっと美味しくしてくれるソースの事だ」
「ご主人様は作ることができないの?」
「んー、そうだな。レシピが分れば良いのだけどな」
だって、普通にスーパーとかに売っていたから作るという発想はなかったわけだしな。
「見つかるといいね。またバーベキュー料理いっしょにしようよ。あっ、そうだ! 今度はサンデーちゃんも混ぜてあげてご主人様と一緒に囲んでやろうよ!」
「ははっ、それもいいな」
ホワイエットが楽しそうにしていると、さっきまでの緊張感が無くなって安らいでくる。
とりあえず。ミステルさんが無事に帰ってきてくれたらいいなと頭の片隅に置きながら、ホワイエットと一緒にランチタイムを楽しんだのであった。
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