52話:指名依頼クエスト『沼地の主・泥岩竜 マドロックドラゴンを狩猟せよ』その5

『ギュオオオオオオオオ!!』

「うぉいいきなりかよっ!?」

「ふんっ!!」


 エリア7、『開けた沼地』に到着した俺とミステルさんはいきなりマドロックドラゴンのマッドブレスによるお出迎え攻撃に遭い、隊列を分断されてしまった。右サイドにミステルさんで片方は俺である。


「おいおいマジかよ俺がターゲットかっ!?」

『ギュルルゥ……』


 会いたかったぞお前と言わんばかりに睨み付けてくるマドロックドラゴン。その巨体が視界を遮っており、俺は恐怖に震えていた。


「大丈夫かいカリトくん!」

「だっ、だだだいじょうぶでですぅ!」

「や、やせ我慢してるね。とりあえず落ち着いてマドロックドラゴンと渡り合うように意識をするのよ!」

「りょっ、了解です……!」


 そうだ。万が一俺に何かあっても向かい側にいるミステルさんがどうにかしてくれるはずだ。だったら俺も頑張らないと……!


『グィォオオッ!!』

「くぅっ! 来いよ化け物っ!」


 一発銃弾を撃って挑発。弾が着弾した箇所には泥が纏わり付いており、ダメージが通ってなさそうな様子だ。その直後にマドロックドラゴンのツノによる振り上げ攻撃が俺に襲いかかってくる。


「ふんっ!」


 左、左、右、前、とハリウッドダイブを繰り返してマドロックドラゴンの猛攻を避けていく。だが、


「くっそっ、足に泥が纏わり付いて思うようにうごかせない……!!?」

「無理にダイブ回避しないでカリトくん! 無駄に体力を消耗したらいけないわ!」

「りょ、了解です!」


 さっそく沼地の環境ギミックが俺に襲いかかってきている。悪路走破スキルを持ってしてでもこの身動きの取りずらさだ。別のモノに例えるならば巨大なクッションの上に立ち、その場でダイブ回避をしてやりづらいと感じるのと同じ感覚だ。それに加えて走りづらいときた。


 身軽な回避運動が出来ず、俺はマドロックドラゴンを相手に間一髪の防戦を強いられている。


「ミステルさん援護願います!」

「任せて。あと10秒待って。擲弾を使うから合図の後に目と耳を塞いで頂戴!」


 擲弾。つまり銃の銃口先に閃光擲弾を取り付けて使うのだろう。


「準備出来たわ! 塞いで!」

「――っ!!」

「発射ぁっ!」


――シュポン。キィイイイイイイイイイイイイイイン!!


『ギュアアアアアアアアアアッ!?』 


「急いで今のうちに移動を!」

「――っ!!!!」


 ミステルさんには感謝しないといけない。取り急ぎ俺はもたつく足場から離れるためにエリアの最奥地にある陸地まで向かって走った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 少し走った後に陸地まで辿り着いた俺はそのまま沼から上がり、一息つく事に。その間にもマドロックドラゴンはミステルさんの猛攻撃を受けてもがき苦しんでいる。まだ目を潰された状態で周りが見えていないようで、手当たり次第に暴れ散らしている。


「奴の視界が戻るまでの間だけでも撃つか」


 少し不格好な打ち方になってしまうが、あぐらを掻きながらマドロックドラゴンに狙撃を仕掛ける。


「うん、すこし右太腿に体重をかけたほうがいいか」


 組んでいる両足の向きを変えて再び発砲を繰り返す。そろそろ貫通弾のストックが少なくなってきたな……。さっき採取したヌマカブトで作れる徹甲弾はベースキャンプに戻らなければ使えるどころか作ることもできない。俺は万が一の考えて通常弾に装填し直して切り替えることにした。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「あ、キレたなあいつ」


 目を潰されたマドロックドラゴンの視界が元に戻り、その直後に怒号を上げて怒り心頭。突如、ミステルさんの前で足下に顔を突っ込んで吸い上げる仕草を始めた。


 ミステルは仲間の事前情報から目の前でマドロックドラゴンがおこなっている行為について、大技の『マッドブレス』を私に向けて仕掛けようとしていることを悟った。


「おいたは良くないわね。良かったらこれも一緒に吸い込みなさい」


 爆弾用のポーチに手を突っ込み、ミステルは手に取った最後の時限爆弾のタイマーを30秒にセットし、マドロックドラゴンの顔に向けて放り投げた。マドロックドラゴンは怒りに我を忘れており、彼女が投げつけてきたモノなど構いもせずにそれごと体内へと吸い込んでいった。


「なるほど。外がだめなら中から攻撃するといいのか」


 ミステルさんのやっているその行動をスコープ越しに見ていた俺は、彼女の考えを理解し、彼女が安全な距離で回避できるようにするため、立て続けにマドロックドラゴンの翼に狙いをつけて攻撃をしかける。 


――ブゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 爆弾のタイマーが残り10秒の所でマドロックドラゴンの大技『マッドブレス』がミステルに向けて放たれる。彼女は全力疾走で横に向かって走り続けて回避運動を取るも、マドロックドラゴンはその動きに彼女の背中から追従するかたちでジワジワと追い詰められていた。


「――っ!! どっちが力尽きるか根比べね……!! 嫌いじゃ無いわ!!」


 ブレスの動きに合わせてダッシュするミステルは爆弾が起爆するまでの計算を頭の中でしており、推定あと5秒だろうと思っていた。背中に迫ってくるブレスとの距離が約1メーターとなり、危険と隣り合わせとなりつつある。


「ふんっ――!!」


 残り2秒、距離30センチの所でミステルは防具の跳躍アップのスキルを使って全力のハリウッドダイブでジャンプ回避を前方に向けて行った。


――ドゴッ!!


『ぐぇぇっ!?』


 ミステルが跳躍した瞬間。マドロックドラゴンの体内に入り込んだ爆弾が起爆し、急激な激痛に見舞われたマドロックドラゴンはその場で口惜しげな苦悶の表情と共に気絶。


「おっしゃああああああ!!」「ふぅ……」


 サトナカとミステルはマドロックドラゴンの狩猟に成功したのであった。


☆☆☆☆


「ご依頼ありがとうごぜえやす。ここにサインおねげぇしますぜ」

「うむ。これでいいかな」

「確かにうけとりやした。おおい野郎共。可愛いお嬢様のご依頼だ。丁重にモンスターを処理場まで運ぶぞ!」

「「「「おおおいっす!!」」」」

「ははははっ、頼もしい限りだな」

「そうですね」


 マドロックドラゴンの狩猟を終えた後。上空に緑の発煙弾を打ち上げてしばらくした所でどこからともなく飛行船が飛来してきた。

 そして今現在、飛行船に乗っていた回収業者の屈強な男達が10人係で、麻酔投与、鎖で捕縛、飛行船に向けて青の信号灯を発光させて、クレーンを要請し、U字シャックルを使って宙に持ち上げてそのままマドロックドラゴンを檻の中に収容。それまでの間に要した時間は経ったの1時間で全てが滞りなく行われたのだった。

 対して俺とミステルさんの狩猟に掛かった時間は約2時間程度。一人だと恐らくそれ以上は掛かっていただろう。俺はソロよりもパーティーを組んだ戦い方の楽しさや効率の良さについて学んだ。


 マドロックドラゴンの回収作業を終えた業者はそのまま飛行船に乗船し、そのまま遠くへと去って行った。


「さて、ベースキャンプに戻ろうか。ホワイエットちゃんが君の事を思った寂しがっているだろう」

「はははっ、だったらちゃんと優しくしてあげないといけませんね」


 とその時。


――グウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!!!!!


 突然エリア9方面から正体不明のモンスターの遠吠えが聞こえてきた。 

 その声はまるでオオカミとライオンの吠える声をかけあせたような恐ろしいボイスだ……。ふとミステルさんが険しい表情を浮かべて。


「カリトくん。急いでベースキャンプに戻りなさい」

「え……何を突然……」

「いいから早くして。急がないと不味いわ」

「ミステルさん……は?」


 脳裏に焼き付いているあの声で上手く言葉を話せない。


「沼の王者が降りてきたわ」

「沼の王者……?」

「轟雷獣、サンダービーストよ」

「どんなモンスターなのか気になりますね……」

「バカを言うんじゃないのカリトくん! あいつは君の手に負えるような相手じゃ無いんだ!」

「知っているのですか?」

「ええ、なんどもギルド総出であいつを狩猟してきたけど。なかなかのくせ者で手強い奴なのよ」


 ついさっきまで安全兼だった下層エリアに恐ろしいモンスターが降りてきた。それも何故急になんだよ……?


「恐らく飛行船がマドロックドラゴンを連れ去っていくのを目撃したのでしょうね。それで縄張りが空白状態になっていると思ったのでしょ。偵察ついでに縄張りの範囲を大きくしようと考えて訪れて来たのかもしれないわ」

「や……やべぇ……」


 どう考えても狡猾な相手じゃん『轟雷獣・サンダービースト』っていうモンスター……。


「とりあえず」


――ボシュウ。


「君はベースキャンプでホワイエットちゃんと一緒に待機してて」

「ミステルさん……」

「大丈夫よ。あいつとはガチで戦闘はしない。あくあまでここの縄張りはハンターのモノだと見せつけてくるだけ。要するに撃退狩猟をしにいくだけよ」


 そう話しをして20秒が経過したところで。


――キュルルルゥ!


「ホワイエット」

『キュルルゥ!』


 上空からモンスターの姿でホワイエットが駆けつけてきてくれた。彼女は上空でバサバサと滞空しつつ、ゆったりとした動きで地に降り立つ。


「分って欲しいカリトくん。このまま放っておけば他のハンターや近隣の住人。この場所の生態系に多大な被害が及ぶわ。時間が無いの」

「わかりました……。ご武運をミステルさん」

「よし、ホワイエットちゃん」

『キュウ?』

「ご主人様を咥えてベースキャンプまで言って頂戴」

『キュウ!』

「えっ、咥えるって――」


――バクン!


「ヘブッ!?!?」


――バサッ、バサッ!


「あばばばばばっ!!」


 なんと言うことでしょう。ホワイエットはミステルさんの言うとおりに俺の頭にかぶり付いて、そのまま上空に飛ぼうとしているじゃないですかー。……なんかヌメヌメしてて気持ち悪いって……!


 抵抗も虚しく俺の身体は宙にプラーンとぶら下がったまま、上機嫌そうに鳴き声を上げるホワイエットと一緒にベースキャンプまで戻ったのであった。何この斬新な移動手段は。意味不明すぎるんだけど……。

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