51話:指名依頼クエスト『沼地の主・泥岩竜 マドロックドラゴンを狩猟せよ』その4


 今回俺とミステルさんが対マドロックドラゴン対策に用意した防具はどちらも沼地では欠かせないバフスキルが付与されるモノとなっている。


 ミステルさんは今回『密林蛙のライトアーマー』と呼ばれるジャングルフロッグから採れる素材で構成された、形状は緑色の滑らかなウェットスーツに、同じカラーのライオットアーマーがセットになった防具を身につけている。

 バフ効果としてはどれも沼地に効果的なモノばかりで、『対スリップ、悪路走破、跳躍力アップ、水の呼吸1、耐水、水圧耐性1』と、水の呼吸や水圧耐性スキルは泳ぎのモノだけど、それ以外のスキルはこの環境に適していると言える。


 俺の方はスパイダーソードマンティスの件以来、迷彩柄の防具が好きになってしまい、今回の場合は『湿地迷彩のスナイパーアーマー』という工房製の防具を身につけている。

 ベージュと茶色のまだら模様の迷彩服に同じカラーのライトアーマーとスナイパー用のフルフェイスヘルメットといった構成となっている。

 バフ効果としてはミステルさんよりは劣ってしまうが、『環境適正ステルス、精密狙撃支援2、対スリップ、悪路走破』となっている。環境適正ステルスで身の安全を確保してヘイト管理しつつ、精密狙撃支援で照準のブレを抑制して銃を扱いやすくし、沼地で必要な最低限のスキルを2つ備えた構成だ。


 そしていま俺はエリア5にある丁度良い感じの小さな丘の高台を発見し、そこで腹這いになってマドロックドラゴンに狙いを定めながら銃を構えつつ、ミステルさんの動きに注視しているところだ。


「話だと最初に時限爆弾を仕掛けて先制攻撃しつつ、アサルトライフルで弾幕を張って一気に全身の甲殻の耐久力をまんべんなく削いでいく作戦だったな。丁度いまここは乾燥地帯だし、イケそうな感じがするな」


 そして俺はお古のボルトアクションライフルを使ってマドロックドラゴンの弱点を突きつつ、ミステルさんの動きに合わせて狙撃による援護を行う。

 既に銃の薬室には貫通弾が装填された状態でスタンバイしてある。出来るだけ貫通できる状態でダメージを狙っていかないとな。


「そろそろかな?」


 鮮やかというべきだろう。ミステルさんは無駄のない動きであっという間に、睡眠中のマドロックドラゴンの懐に潜り込んで爆弾を仕掛けている最中だ。仕掛けた数は四つ。いっきに腹部の部位破壊を狙っているに違いない。あとは底に狙いをつけてアサルトライフルの弾幕でダメージを与えていくのだろう。


「俺も相手が怯んでいる隙に羽を狙って撃とうか」


 俺の頭の中でいろいろと手順を整理していく。よし、あとはスタンバイするだけだ。


「ここからの距離は400メーターだな。風はまぁ、右よりか。ちょっと着弾にばらつきがでるけれど。精密狙撃支援がカバーしてくれるし、スコープのダイヤルはイジらなくていいかな」


 といった具合でそのまま狙いをつけてまつこと2分が経過し。ついに戦いが始まる。


――ドゴォオオオオン!!!!


『グィァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?』


「始まった。…………すぅ」


 全身の力を抜いて息を吸い込む。そしてそのまま狙いをマドロックドラゴンの羽に狙いをつけて引き金を引いた。


「命中。ただちょっと跳弾したっぽいな……」


 次段装填。引き金を引いて翼に攻撃を仕掛ける。


 一方ミステルさんの方は膝立ちの状態で銃を構えて、小刻みよい音を鳴らしながら攻撃をしている。ちょっとカッコいいかも……。


「おっ、そろそろ起き上がるな」


 悲鳴を上げながら悶絶してダウンしていたマドロックドラゴンが、その巨体を起こして立ち上がる。


『グィォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 エリア中にマドロックドラゴンの怒号が響き渡る。ミステルさんはそのごう音にあてられた影響で両手で耳を塞いでガードしている。


「まずい。あのままだとやられるな」


 遠方にいたのでこちらには特にその影響はなく、すかさずミステルさんの再起を支援するために弱点部位を集中的に狙って狙撃する。


『グルゥッ!?』


「おっ、意外にも早く片翼が壊れたぞ」


 目に見える形で翼の甲殻が盛大にぼろっと剥がれ落ちた。その事に驚いたマドロックドラゴンが周囲を見回して俺の存在に気づきだしている。いまは存在をかき消すことに専念して撃つのは控えておこう。


 マドロックドラゴンが周囲を警戒している隙に、ミステルさんが再起。そのまま彼女は地面に落としたアサルトライフルを拾い上げて腰だめうちで再び戦闘を再開した。


「ダイナミックな動きすんなあのモンスター」


 巨体を活かした突進攻撃。その巨体をうねらしてローリングによるプレス攻撃。ツノを左右に振り回しての打撃攻撃。そして極めつけは尻尾による鞭攻撃。どれも躍動感のある反撃ばかりだ。


 だがどれもマスター5のランクを持つミステルさんの前では無意味だった。彼女は持ち前の機動力を活かした一撃離脱戦法による射撃とカウンターを織り交ぜながらマドロックドラゴンを追い詰めている。それに追い打ちをかける形で俺が狙撃による援護で相手の生命力を奪い尽くしていく。


 マドロックドラゴンは焦っているようだ。自分の得意な地形ではない場所で人間相手に追い込まれていると。


「君の事を少し興味があるけれど。ごめんな。いまは君をテイムする事はできない。俺の為にその命をもらうな……」


 慈しみを持ちながら狩をするように。アルシェさんから教わった事だ。


「おっ、さすがに状況が悪いと感じたようだな」


 マドロックドラゴンが唐突なタックルからの尻尾による鞭振り攻撃をミステルさん仕掛け、その直後にエリア7の出入り口に向けて、その巨体からは想像できないような身のこなしで逃げていった。


 静まり変えるエリア5。俺は中央で待機しているミステルさんと合流する。


「お疲れ様でミステルさん。あっちに逃げたとなるとエリアは……」

「7だよカリトくん。今日のマドロックドラゴンは少し頭が良いようだ。こちらのやり方に応じてああやって逃げていったからね。これは少し気を引き締めて狩猟に専念しないと」

「了解です。じゃあこのまま追撃しにいきましょう」


 次の戦場はエリア7。沼地だ。マドロックドラゴンが得意な地形環境で、こちらとしては厳しい戦いになりそうだな。


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