48話:指名依頼クエスト『沼地の主・泥岩竜 マドロックドラゴンを狩猟せよ』その1

 サンデーに追いかけ回される出来事が起きてから2日後。今日はネメシスの仕事を休んで、俺は次に使う新しいボルトアクションライフルに必要な素材を集める為、ここボルカノで唯一あると言われている『ボルカノ沼地』に訪れていた。現地入りは昨日で済ませており、今日は本番。制限時間は8の刻~16の刻までと短い期間でターゲットを狩猟しなければならない。現在位置はベースキャンプ内の焚き火台に3人で囲んで座っているとこだ。


「よし、今の時刻は7の56の刻だね。あと少しで狩猟開始の発煙弾を上空に撃つよ。心の準備はできているかなカリトくん?」

「もちろんですミステルさん。それに今日は頼れる助っ人が二人も同伴しているのでとても心強いです!」

「はぅぅ……あまり戦うの好きじゃないよぉご主人様ぁ」

「昨日みさせてもらったが驚いたな。まさか私の知らない世界があったとは……。まったく身近にこんな事があるだなんて改めてビックリしたよ」


 昨夜のベースキャンプにてミステルさんにはホワイエットの本当の姿を見てもらった。


「こう幼い少女の姿をしているが。あの人食いドラゴンで知られているホワイエットドラゴンだとはいまでも想像が付かないな……」

「あぅう、私人間食べるの好きじゃいよ。好きなのはそーしょくりゅーしゅのお肉だよ!」

「うん、ホワイエットは人間を食べるのが嫌いで群から追い出されたんですよ」

「そうか……。それは辛い事を思い出させてしまったな。すまなかった」

「うん。でも今はご主人様とサンデーちゃんが一緒にいるから寂しくはないよ」

「よかったらその。私も君と友達になってくれないか……?」


 俺は、これはもしかしたら異文化交流に繋がるのではないかと直感で感じ取った。


「うーん……」


 ホワイエットはミステルさんの誘いに少し悩んでいるようだ。


「別にいいんだぞホワイエット。今からこのお姉さんと一緒にモンスターを狩に行くんだから仲良くしても損はないとおもうぞ」


 俺の言葉にホワイエットがあうあうと迷い始めている。命令と聞き取って自分で決められない様子だ。まずかったかな?


「まぁ、今すぐにとは言わないわ。これから一緒に戦って。君の意思で私に言葉で伝えてくれれば良いさ。その方が良いでしょカリトくん。この子の為にもなると思うし」

「教育的な意味合いを込めてでしょうか?」

「そうだね。誰かに指示されて動くだけでは狩は上手くいかないわ。副団長をやっているからそれはよく分っているのよ。こうして二人の新人ハンターがいるから。今日は私が出来るだけの配慮と指導をさせてもらうから心して掛かってくれ」

「わっ、わかりました!」


 大手クランである『緋の与一』の副団長を務めているミステルさんに指導してもらえるだなんて滅多にないことだ。今日は頑張って認めてもらわなければ……!


「説明をするその前に。発煙弾を発射するわね」


――ポシュッ!


 上空に青い火の玉が煙を引きながら飛んでいく。狩猟開始の合図だ。いまから8時間の制限時間で狩猟をおこなわければならない。


「うん、段取りはこれくらいにしておこう。じゃあ、今日のモンスターについて説明するね」

「はい! よろしくお願いいたします!」

「はう、よろしくお願いいたします!!」

「うん、返事は合格だね。マドロックドラゴンは今から渡す資料をもとに読んでくれ。口答で説明をするとかなりの時間を費やしてしまうからな」

「了解です! ホワイエット一緒によもうか」

「うん、わかったご主人様」


『マドロックドラゴン』

・全長:約5935ミリメーター

・全高:約2470ミリメーター

・幅 :約2120ミリメーター

・体重:約5トン

・モンスターの種類:中型雑食竜種。主食は沼地に生息する小型の甲殻種(ヌマガニ、ヌマヤドカリなど)、ごくたまに石を複数飲込んだりする。

・生息エリア 5(乾燥地帯) 7、8、9(浅瀬の泥沼地帯)

・固有生態:エリア5にいる場合は日光浴と日干しによる寄生カビの駆除の為に定期的に訪れていることが多い。

・天敵:大型肉食竜種のモンスター(沼地限定:轟雷獣)


・容姿:全身が泥岩状の皮膚に覆われている。船首のような顔の形に、鼻の先には泥をかき分けてスムーズに進めるように、三角錐の形をしたツノを持っている。

 翼は背中にあるが退化しており飛べる形状をしていない。

 通常は二足歩行で歩き、素早く動くときは両手と両足を使って動き回ることができる。

 尻尾はイバラ状になっており鞭のように動かす事もできる。


・攻撃手段:泥水を大量に吸い込んで土石流のブレスを敵対する者に浴びせる。パターン(直線、右なぎ、上による泥の雨)

 四足ダッシュからの飛び込みスライディングで地を滑りツノを使った突進攻撃。

 ローリングプレスアタック。

 爆音ブレス。

 尻尾による限定的な範囲での鞭攻撃。

 

・防御力:泥まみれの状態では銃弾を当てても威力が減衰してダメージになりずらい。

・弱点:身体に纏う泥が渇くと皮膚が極端に脆くなってダメージを受けやすくなる。急所は腹部と退化した翼(部位破壊可能)。尻尾は切断可能。

 ツノは爆発系の弾を使っての場合のみ破壊が可能。

 蓄積よろけは乾燥時のみ。                 以上。

 

「どうだ。ざっと事前に調べた限りではこんな感じだ」

「す、すごいです……ここまで詳しく書いてあるとは……」

「これくらいは出来て当然と言うべきかな。この前にも教えて上げたと思うけど、狩猟するモンスターに対する情報収集は怠るな。これは結論から言えばクエストの結果に繋がるわけだからね」

「……心して勉強させていただきます!」

「はううご主人。文字がおおくてよくわからないよぉ」


 ちょっと目を回して知恵熱を出しているホワイエットの姿が可愛らしく見えてくる。そんな彼女の頭を撫でてやる。


「大丈夫だ。俺がお前の分も読んで理解してやるから安心しろ」

「すこしホワイエットちゃんには早かったかもしれないかな。とりあえずマドロックドラゴンを狩る上で大事な事は立ち位置を常に意識することが重要となる。沼地はどこで深くなっているか分らない。この私でも予測不可能なエリアだ。幸い今回は浅瀬型の沼地エリアでの狩猟なのでさほど気にはしないが、2人は初めてだからな。足元を泥沼にすくわれないように気をつけるんだぞ」

「わかりました!」

「わかった!」

「うん、じゃあ。今度は沼地のエリア事を歩きながら私がガイドすることにしよう」

「よろしくお願いいたしますミステルさん!」


 ガイド役を買って出てくださるだなんて正直嬉しすぎるぜ!


「あ、そうそう。既に知っていると思うが。今日は安全日だ。思う存分マドロックドラゴンを狩猟できるぞ」

「ちなみにこの場所でヤバイモンスターってなんです?」

「その流れだと出てきそうだから言わないでおくことにしよう」


 どうやら俺の質問はフラグだったらしい。って、余計に気になるじゃないか。


「ちなみに。今回カミルの店が要求してきた素材について覚えているかな?」

「はい、重量弾を使用する銃には必ず強力な反動を抑制する為に『泥岩竜の吠喉袋(はいこうたい)』という素材が必要だとメモでみました」

「うむ、そうだ。今回相手するモンスターがその素材をもっているからだ」

「あとはその素材で防具とかが作れたら良いのですが」

「うーん、マドロックドラゴンは学者ギルドでも調査対象のモンスターに指定されているから、あまり素材の融通はしてもらえないかもしれないかな。こちらが指定している素材以外は時の運に任せることにしよう」

「なるほど……」


 うん、学者ギルドなんて嫌いだ。あいつらまだモンスター牧場に無許可で不法侵入してこようとしてきているのだからマジでムカつく奴らだ。


「とりあえず。地図を見てくれ。今回私達がギルドから許可を得ている侵入可能なエリアは1~12の間までとなっている。それ以降は私のようなマスタークラスのハンターのみ許されている場所になる。ちなみに私のランクはマスター5だ」

「マスター5……」


 聞くだけで天の上の存在のクラスじゃないか……。それが目の前にいるだなんて……。


「そういえば君のランクは確かルーキークラス2だったよね?」

「あいえ、違います。既にルーキー3に昇格しております」

「ん? そうだったのか。いつのまにか成長したんだ……」

「ん? 変ですか?」

「ああ、まぁ。一般的なルーキークラスのハンターよりも昇格が早いなって思ってね」

「えとですね。色々と強いモンスターの指名依頼クエストをこなしてきたから。その功績が認められてギルド長から無条件昇格の許可が下りたみたいなんです」


 これも全てアルシェさんの仕組んだ事である。主に俺がネメシスの仕事をやりやすくするためにという福利厚生の一環とかで、こうやってハンターの仕事をしていなくても、アルシェさんが認めればランクが上がるようになってしまったのだ……。


 正直いいたい。真面目にランク上げがしたかった……! 俺、なんかこう楽ちんに上がっていくのって嫌な人間なんだよなっ……!!!?


「まぁ、その。ギルド長の手紙には、真面目に仕事をしないと降格もあると書いてあったので……」

「周囲のバランスを考えてのことだろうな。そうしないとハンターの質の問題にも繋がる話しになるからな。過去に楽ちんに多くのハンターのランクを上げた時期があって、結果的に死傷者とかが出たりして大変な時期があったから尚更だ。ギルド曰く。一手不足解消の一環として試験的に行ったというらしい。馬鹿げているわ」

「そうなんですか……」


 ハンター業界もいろいろと大変な時期を得て今があるんだな……。てか、ギルド長ってアルシェさんじゃん。死傷者だしてまで何やっているんですかっ!?


 それから少し込み入った話をしつつ10分が過ぎた辺りで、


「じゃあ、そろそろ狩猟に入ることにしよう。フィールドインする前の最終準備に入ってくれ。入ったら戻るのはお昼くらいだ」


 午前の実働時間は約4時間か……。どこまで相手を追い込む事ができるのだろうか。まぁ、今回は最強ハンターのミステルさんのサポートもあるから早めには終われそうだな。それに万が一の事があればホワイエットにはある事をしてもらうつもりでいる。既に彼女にはこう話してある。


――『赤の発煙弾』を打ち上げたのを見たら直ぐに変身して降りてきてくれ。


「万が一何か会った場合の脱出の手段なんですけど。一応ホワイエットにはベースキャンプ内で待機してもらっておいて。打ち合わせ通りに赤の発煙弾を空に打ち上げたら脱出の合図ということで、ここまで連れてきてもらうことにしましょう」

「ええ、いいわよ。ホワイエットちゃんの実力を見せてもらう良い機会になりそうだわ」

「はぅ、戦うのは嫌だけど。ご主人様がピンチだったら飛んで助けに逝けばいいんだよね?」

「そういう事だ。あとは背中にのせるなり掴むなりしてここまで飛んで連れてきてくれればいいからな」

「うん、わかったご主人様!」


 ホワイエットvsマドロックドラゴンの大怪獣バトルが見てみたいけど、彼女は非戦闘員のモンスターだ。サンデーとは正反対の性格で、考え方も違う。そこを尊重してやらないとモンスターテイマーとしてアルシェさんに言われることになってしまうからな。それに俺の為にもならないことだし。


「うーん、サンデーもつれていけたら良かったんだけどなぁ……」

「サンデーちゃん。ぬまのどろどろが嫌って言ってたからね」


――『ご主人。この前の事は謝るから無理矢理に私の服の襟を掴んで沼地に連れて行こうとしないでくだしゃい……!! おねがいだがらゆるじでぇぇっ!? ああああああああああああああああああああああ!!!!』


 訳を聞いたら泥を吸い込むと、カビアレルギーとか、泥の主は大嫌いな奴で大変なことになるからとかで泣叫びながら嫌がっていたからな……。

 で、あとで俺達のやりとりを聞きつけたアルシェさんがモンスター虐待反対とか言ってきて。結局というか。まぁ、最初から考えていたけどホワイエットを連れて行くことにした経緯がある。


「うん、雑談はこれくらいにしておこう。続きは歩きながら話せるからな」

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