47話:つかの間の明るい日常のひと時その3

 11の刻になってからようやく就寝につくことができ、それから目が覚めて外の様子を窓から見てみると既に外は夜に包まれていた。街の明りが煌煌と美しく広がっている。


「しまったいけねぇ……いま何時だぁ……?」


 モンスター牧場は夜なので既に閉まっている。今日、サンデー達と約束していたのに、俺はそれをうっかりしたことで破ってしまった……。


「サンデー。滅茶苦茶怒ってるだろうな……」


 あとホワイエットの事も心配である。数日の付き合いだけど、あの雰囲気と幼いしゃべり方の感じ的に寂しがり屋な女の子のような気がするから尚更だろう。


「うーん、うーん、あっ、そういえばモンスター牧場のオーナーってアルシェさんに変わったんだよな。だったら夜でも入れるはず」


 契約の変更(?)で前のオーナーからアルシェさんに変わったので、形式上はだめだけれど。俺なら許してくれるはず……。


「どうせ明日からのこともあるしな。会えるときにはあってやらないと」


 裏の仕事も大事だけど表の日常も大事だ。これから両立していかないといけない。


「まぁ、さっき寝たばかりだ。また寝ようにも寝れないしな。ちょっと身体を動かしてつかれて眠ろう」


 サンデーが適度に暴れてくれる事を何故か自分は期待していた。


「…………」


 扉をギィとならしながらそっと牧場の厩舎に侵入し、チラチラと周囲を確認してみると。


「静かだな……」


 寝息とか聞こえてもいいはずなのにシンと静まりかえっている。俺はそのまま中へと入り、頼りない足取りで奥へ奥へと進んでいく。


「んーっ、いねぇな」


 やはりここにはいないようだ。他にあの二人がいそうな場所はどこになるのだろうか? ふと。


「――人様。今頃どうしているんだろう……?」


 上から声がする。屋根か? 俺は別の出入り口から厩舎を出て建物の上をのぞき見た。


「あいつらあんな所にいたのか……」


 サンデーとホワイエットが隣に座り合って星空を見ながら話をしていた。俺の知らない、しかもとても清潔なパジャマワンピースをそれぞれ違ったデザインと、ゆったりとしたサイズを身に纏ってとても心地よさそうに笑顔で喋っている。


「……すまんな二人とも。ちゃんとした服をいつもプレゼントしてやれなくて」


 たまにしか新品をやれなくてごめんな。

 おそらくアレはアルシェさんからの贈り物だ。俺が普段に渡す衣服はどれも中古の古着ばかりで、あんな良い物を着させることなんて今の自分には出来ない。


 そんな二人の話している姿をその場で眺める自分。


「いつもの事だホワイエット。ご主人は私達のために知らない所で何かをしているんだよ」

「あいつ……」


 穏やかな表情をして、サンデーは星を眺めてそうホワイエットに言葉を返す。


「うん……そうだね……サンデーちゃん……」

「まぁ、もし帰ってきたときには思いっきり暴れてやるつもりだから。その時はあんたも思う存分あばれるんだぞ?」

「…………」


 今すぐここから姿をくらましたくなってきたおい。今日は居なかった事にして後日、完全武装であいつの相手をしないといけないな……。そもそもあいつ俺との約束を覚えているのだろうか?


「あぅぅ……サンデーちゃんだめだよぉ……ご主人を痛めつけちゃだめだってば……」

「ぅう、ホワイエットは優しいなぁ……!」


 暴力的なサンデーに対して、あまりそういうことが嫌な感じで彼女をなだめているホワイエット。今は出来ないけど、明日は思いっきり可愛がってやろうかな! 


――私だって……私だってあいつみたいにご主人に優しくしてほしかったのに……ぐすん……ふぇええええええええ!!


「…………まぁ、ああは言っているが。あいつも同じように接してやらないといけないか」


 あれから少しサンデーとの距離感というか、付き合い方について考えていた。一度だけ狩をしたキリだけど、あいつと俺は大事なパートナーだ。俺の勝手な考えであいつの扱い方を粗末にはしてはいけない。


――いいかいハンターサトナカ。モンスターテイマーは例えどんなモンスターでも愛を持って友情を育まないといけないんだ。いつ何時なにが起きるか分らない君の立場なら尚更だ。もっと大事に接してやれ。とくにサンデーちゃんが一番の例だね。あれはいわゆるひとつの君に対する愛情表現なのさ。それを嫌がってはだめだよ。


「……俺、出来るかな? アルシェさんに言われたとおりに」


 アルシェさんが想像する。つまるところのギルド長のような理想的なモンスターになれるだろうか? 


「もっと人付き合い。ちゃんとしておけば良かったな」


 死ぬ前に学校。ちゃんと行っておけば良かったな。後悔している。もの凄く後悔しかない人生だったな。子供部屋という殻に閉じこもって自分はなんて損な青春を送り続けていたんだろう。


「いつか。あいつらに俺の過去。話せるときが来たらいいな」


 そう思いながら朗らかな気持ちになって彼女達の姿を眺めていたのであった。


「さて、今日はもう遅いしホワイエット。もう寝ようか!」

「うん! また明日も星空をみようねサンデーちゃん! あっ、寝る前に旅のお話。またきかせてほしいなー」

「おうよ。サンデーの冒険の旅。今日はご主人と出会った時の話をしようじゃないか」


 えっ、なにそれ俺も聞きたいんだけど。てか、あいつら仲悪いのかなって思っていたのだけれど、案外あれで仲良くやっているんだな……。


「わー、ご主人様とサンデーちゃんが出会ったお話聞きたい!」

「よし、ここから地面まで滑っておりるぞー!」

「おーっ!」


 ん? いま滑ってここに降りるって……? ……まさかっ!? 


 思ったのもつかの間で、身体能力と決断力の早いお二人はサッとあっと言う間に俺の前に落ちてきた。


 楽しくウキウキと、屋根から地面に降り立ったらなんと、目の前にはギョッとした表情を身構えているご主人(様)がいた。サンデーとホワイエットはキョトンとしてそう思っている。


「やっ、やぁふたりとも……元気かい?」

「…………ご主人?」

「えっ、ご主人様が目の前に? おばけ?」

「いや生きてるからホワイエット! 俺は死んでなんかいねぇからなっ!?」

「ごぉしゅじぃいいいいいいんんん!!――グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 怒りのあまりに人間体からモンスターに戻って、サンデーは里中狩人をその顎で食らいつこうと襲いかかる。


「やめでっ!! まじで俺、シニダグナイがらぁっ!?」

「ガァアアアアア!!」


 夜に響き渡るサンドフットドラゴンの怒号。周囲に民家は無く、その声は街の中枢までと届いていた。


「ん? なんぁ? へんな声があっちから聞こえてきたぜ?」

「えーっ、気のせいでしょ? ただの飲み過ぎだってそれぇ~」


 折しも運悪く。ロッソとレフィアが酒場の帰り道にそれ聞いてしまった。2人ともかなりの量を飲酒しており若干泥酔状態である。


 なお、その後について。サンデーに追いかけられていたサトナカは、慌てて救出に向かってきたホワイエットの助力もあって空に飛び、そのまま人がいない小さな空き地へと降り立って救われたのであった。


「おまっ、人間の状態で翼だせたのかよ」

「うん。ご主人様が危ないって思って夢中になって助けたいと思ったらこんな感じになったの」

「……これはイケるぞきっと」


 次のミステルさんと一緒に行く狩猟で彼女は役に立つと、目の前で背中に生えている白い翼を、顔を振りながら見回しているホワイエットの姿を見て、里中狩人はそう確信していたのであった。

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