44話:仕事の終わりは寝るのが一番ですか?

「みんなお疲れ様。どうだったかな?」


 明け方のオフィスルーム。先輩は各々の席に座りながらルーノ職長の労いの言葉に耳を傾けていた。みんな夜勤明けのサラリーマンみたいにとても眠そうだ。特にリリィ先輩が大きなピンクの兎のぬいぐるみを抱きかかえながらもう夢の中に入りつつある。なんだこの可愛い生き物は……。


「結果は上々と言ったところでした。詳しくはリリィの調書を元に読んで頂けると助かります。さすがに多勢を相手に銃撃戦をすると疲れが……」

「珍しいねレフィアくんが弱音を吐くだなんて」

「これも全部。新人のサトナカが私に押しつけてきたのが原因なんですけどね。負担が半端なかったって……!」

「うぅ、すみませんレフィア先輩」

「室内戦で狙撃銃ぶん回す芸当なんてレフィア以外はできない話だぜ? そこは多めにみてやれよ。とにかく新人はもっと場所にあった武器を用意するんだ。レフィアばかりに負担をかけさせるな」

「狙撃銃以外で使える武器ですか……」


 正直いつもの武器以外で慣れてる物ってないぞ……?


「そうだねサトナカくん。時にはいつもの様には行かないことだってある。実際に君が今日体験した事は今後の経験へと繋がっていく事になる。もし、武器で困っていることがあるなら遠慮はしなくていい。ここには素晴らしい先輩達がいるんだ。気を遣わずに聞くのも君の仕事のひとつだ」

「ルーノ職長……」


 その言葉を聞いて俺の見ている回りの世界が一瞬にして変わった気がした。目の前にいる先輩達。とても個性的で変わった人達ばかりだけど、俺にとって頼りがいを感じる方達だ。俺に向けられている数々の視線が形は違えど温かみを帯びているのがとても分る。


「散弾銃のことならこの俺。ロッソ先輩に任せろって! 狙撃銃と相性は抜群だぞ!」


 ショットガンか……。ちょっと興味があるかも。


「何言っているのよロッソ。狙撃銃と相性が良いのは拳銃。それも回転弾倉式のリボルバーに限るわ!」


 あれ、俺のせいでお疲れだったのにも関わらず、レフィア先輩が嬉々とした表情で勧めてきているぞ……? でも、ありかも。コンパクトでかさばらないのは魅力的だ。


「だめよ。そこはあたしのオススメするサブマシンガンが最強よ! 筋肉に任せて相手をねじ伏せる。これがサブマシンガンの魅力なのよ!」


 いや、もうそれ脳筋ごり押しで銃弾の雨をばらまけっていってますよね!? てか筋肉とサブマシンガンにどんな因果関係があるというのか……。気になるぞ……サブマシンガンの魅力よ……!


 ちなみにリリィ先輩もまわりに便乗して『股間に隠せるデリンジャーが一番よ♥』と、眠っていなかったのか……? わざわざ下ネタを言うために目を覚まして勧めてきたのかよ……? と聞きたかったのだが。既にもう夢の中にリリィ先輩は誘われているようで、問い掛けずらいな……。


 いや、男の俺が女性のリリィ先輩に下ネタですかって聞いてしまうと、下手をすればセクハラになりかねないので止めておこう。


「ふっ、皆個々の得意な武器を勧めてきているようだね。じゃあ、私も数ある武器の中からオススメの物を紹介することにしようか。1ヶ月後に」

「長っ!?」


 えっ? そこは自然に直ぐ紹介しようっていう感じの展開じゃなかったのですかっ!? 長すぎませんかルーノ職長ぉっ!?


「ま、まよいますね……」


 それもそのはず。ルーノ職長が原因だ。もしかして気を引くための作戦だったりして。


「さて、皆。今日はもう遅い。明日は休日だから今のうちに体内時計を調整することにしよう。仕事終わりはやはり寝るのが一番だ。今日は思いっきり惰眠を貪ることにしよう……。では私はここで失礼させてもらうことにしようかな……」


 といって職長席でルーノ職長は寝る態勢を取り始め、そのまま眠りに就いてしまった。はやっ!


「うぃーす」

「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ」

「はぁぁ……。ちょっとスキンケアしてから寝るかしら。あっ、そうだ。新人、あとで私のスーツ洗っておきなさい。ここに戻ったら汚れた衣類渡すから」

「あっ、はい。そうでしたね……」

「あぁら? 新人君。さっそくレフィアちゃんの雑用係の仕事を任されちゃったわね。大丈夫。もし困ったらお姉さんが手伝ってあげるからね!」「だっ、大丈夫です! ルナ先輩のお手を煩わせるわけにはいきませんので……」


 といった感じで今日初めての出勤日の仕事は終わったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る