40話:光があれば闇もある

――午後。オフィスルームにてネメシスの定例ミーティングが行われている。


 それは突然の依頼だった。だが周りの先輩達は上長こと、ルーノ職長の話をいつもの様にニコッとした表情で耳を傾けている。


「的はこのボルカノで急成長しつつある犯罪者組織。奴らは猟犬と名乗る若者グループだ。ポリスとは違い、どちらにも属している厄介な相手だ。だが、俺達はそんな事などどうでもいい。頼み人の恨みを晴らす事が今回の仕事だ」

「そういうことよ。あたし達は裏に身を置く者達よ。礼儀を知らない輩達をのさばらせてはメンツというモノがあるわ」


 さっき会ったばかりのような感じでは無い、柔和ながらもピリッとした立ち振る舞いをするルナ先輩の物言いにすごみを感じる。


「あの、ポリスってなんですか……? 警察みたいなのでしょうか……?」

「いいえ、違うわ。ポリスは歴然とした犯罪者組織よ。暴力と金とありとあらゆる裏稼業で裏の社会を牛耳る者達の事をそう言うの。そういえば貴方の経歴を拝見させてもらったけど、雪山の村育ちだったわね」

「なるほど、どうりで田舎者のような言動をするなと思ったわけだ」


 レフィア先輩の丁寧な解説の後にロッソ先輩の納得と言った言葉を受ける自分。なるほど、この世界ではマフィアとかヤクザみたいな組織がポリスと呼ばれているのか。


「だったら、その若者の犯罪者組織の名前はギャングと呼んでみるのはどうでしょうか?」

「ギャング? 意味は?」

「端的に言えばポリスに従わない荒くれ者という意味合いを込めた名前です」

「と、新人のサトナカくんが言っているが。他のモノは何か意見はあるか?」


 ルーノ職長が俺の意見を聞いて周りに案を求めてくれた。


『私はどちらでもいいよ~♥』


 と、エッチな表情を浮かべてリリィさんが筆談で書き上げた画用紙を両手で掲げ、やたら俺に見せつけてきている。なんかエッチだっ!?

 なお、リリィさんはその特技柄の事もあって、声を使って会話をする事が制限されているようだ。これについては事前にレフィアさんから説明を受けている。


「俺はどちらでも構わないぜ。むしろ語感がよくて喋りやすいぜ」

「あ、ありがとうございます!」


 ロッソ先輩から褒められた。さっき田舎者とかバカにされたがチャラにしておこう。


「サトナカの意見は基本的には通らないけれど、ルーノ職長からだったら受け入れるわ」

「要するに賛成って言いたいわけだね。ツンツンしちゃってぇもうぅ、恥ずかしがり屋さん」

「んなっ!?」


 ルナ先輩に茶化されてしまったレフィア先輩が頬を赤くして動揺している。そんな姿を目の当りにしてこの場にいる全員が笑った。多分リリィさんの笑い声が混じって聞こえているので、殆どがそれにあてられて更に上機嫌になっているようだ。かという俺もそれを耳にして何だか嬉しくなってしまっている。


「はいはい、とりあえず全員が賛成と言うことだな。ではこれからどちらにも属さない犯罪者組織の呼び名をギャングと呼称することにしよう」


 こうして今回の的の呼称をギャングとよび、改めて『ギャング組織猟犬』を相手とした仕事の話が大まかに進められていった。



「事の発端は手元の資料にあるとおりだ。若い新人ハンターに非合法の仕事を騙した上で無報酬でやらせ、それで得た利益を組織の活動資金として収益をえるという悪徳ビジネスを展開する奴らだ。で、そのギャングにメスを入れるきっかけとなったのが、その被害者の息子の母親からの依頼だ。これはネメシスの非公式の仕事になる」

「…………」

「ターゲットは7人。首謀者の組織のボスならびにそれ以下の3人の幹部や構成員を相手することになる。情報では背後に大物貴族がバックアップをしているとの事だ。普通なら一介の市民の依頼を我々は受けることはない。だが、相手が相手だ。貴族が汚職をしているとなると王国としても立場が揺らぐことになる」


 なるほど、非公式の仕事とはそういうことだったのか。話を深く聞いていくと、いろいろな派閥が見え隠れしながら動いているということか。


「要するに事無くして公にならないように闇討ちをしろと王家の連中が指図してきたわけか」


 ロッソ先輩も俺の考えにたどり着いていたようで、顎に右手をあてがいながら思案した様子だ。何を思っているのだろうか……? 俺には全然今の話を聞いてそれ以上の事は分らない。


「で、あまり情に流されて欲しくはないのだが。その被害者の母親は俺達に手紙を渡した後に亡くなられた。飛び降り自殺だ……。息子も同じように飛び降りて……」

「えっ……」


 息子の自殺を追いかけるように自分も自ら……。


「そして彼女が託してきた手紙がこれだ。読み上げるぞ」


『どうか 私の息子を殺した犯罪者を地獄に落としてください』


 こんなのタダの敵討ちじゃないか……。ふと、リリィさんが俺に再び画用紙を掲げて、


『仕事柄よくそういう顔をする人を見ているから言わせてカリト君』


 と見せさらに、


『それはタダの他人事だから出来る偽善よ。組織に入った貴方も組織の片棒を担ぐことになるの』

「…………」


 そしてまたリリィさんは笑顔になり、


『だからせめて私達のやり方で無念のまま無くなった人達を安らかに眠らせてあげましょう』

「…………」


 詭弁だそんなの。リリィさんは間違っている……!


「とりあえずそれぞれ担当する現場のスタッフを決めるぞ。レフィア。今回の仕事は新人を連れて言ってもらうことになる。サトナカくんはレフィアの後ろについて現場の見学とアシスタントをしてもらう」


 今日は楽に出来るのかなと思っていのだが。そうは問屋が卸してくれはしなかった。いきなり最初の仕事が人殺しの現場をレフィア先輩の同伴で見ているだなんて……。てか、俺。銃撃戦とかできないんだけど……?


 そうこう思うっている内に話が進んでいき、最終的に俺とレフィアさん、そしてリリィさんのペアで首謀者のボスを相手することが決まった。


「さてと、グループ会議するわよ。二人ともこっちにきて頂戴」

『は~い。やったぁ、今日は運命的な日になっちゃったわぁ♥ よろしくねカ・リ・ト・くん♥』

「よっ、よろしくお願いいたします」

「そこ、なに色仕掛けしてるの。あまり新人に対してイタズラしないで頂戴。私の監督責任問題になるからやめてよリリィ」


 リリィさんのイタズラな微笑みに対し、俺は思わずドキッと胸の高鳴りを感じてしまった。どうやらリリィ先輩は小悪魔属性の設定を持っているようだ。アイドルみたいな顔して小悪魔だなんて……。レフィアさんがいなかったら危うく俺、そのままリリィさんの魅力に堕ちちゃってたぞ……。ありがとうございますレフィア先輩ッ!! そしてリリィさん恐るべし破壊力……ッ!!! 筆談で本当に良かった……!!!




 

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