39話:仕上がってる堅い筋肉はお好きかい?
「ふんっ! ふんっ! アァンッ! ワタシのおっぱいがはち切れそうだわぁんっ! はぁんっ!」
通路の奥から変な喘ぎ声が聞こえてきている。なんだかいやらしい。
「アタシだってリリィちゃんよりおっきなおっぱい持ってるんもん! ワタシの方がおっぱい大きいわ! こうやって鍛えれば大きくなるわっ、ふんっ!」
物凄く対抗心を燃やして何かに励んでいる声が聞こえてきている。何をしているのだろう? 中性的な声で喋っているので性別がよく分らない。
「あら、あれがいるのね」
「というと?」
「基本的にはトレーニングルームは自由に使えるのだけど。メンバーの仲で特にアレがそこを使っているわけ」
「アレがそれですかなるほど」
なんとなく言っている意味は分る。要するにトレーニングを利用する客の中に常連がいて、そのメンバーの中で特に常時利用している先輩がいるというわけだ。うん、レフィアさんの短い説明でよくここまで理解できたな自分。
「というわけで到着ね」
「とても清潔ですね」
「当然よ。ここの主と化しているあいつが綺麗好きだからね。無駄に汚したら怒られるわよ」
レフィアさんの指さす先の女性。ゴツいバーベルを両手にベンチで寝転がりながら上下して上半身を鍛えている様子。がたいはガッチリしていてマッチョだけど、女性らしい顔つきとロングの黒髪が魅力的だ。ちょっと声が中性的というか、力むと男の声が混じっているので間違って男性だと思えてしまいそうだ。てか本当にガッシリ体型だな。俺とは段違いだ。
「あの先輩の名前はなんですか?」
「あぁ、あいつはルナっていうらしいわ。本名は知らないけど。偽名でたまに名乗るスタッフもいるのよ」
「ルナさんですか。ちょっと憧れますね」
「あなたも男なんだから頑張ればあいつみたいな体形になれるわよ」
「いやいや、努力というよりも長年の経験の差が物語っていると思うんですよ」
「そうやってつべこべ御託をいわないの。あなたハンターでしょ? 暗部に属するモノに弱音という言葉はなしよ」
「あ、すみません……」
よ、弱音に聞こえちゃったのかな……? まぁ、それは兎も角だ。俺とレフィアさんはそのままトレーニングルームに足を運んで入室し、鍛錬中のその人に声をかけることに。
「ふんっ!」
「あの……」
「んんっ! ちょっとぉ、いま大事なトレーニング中なの! 邪魔しないでくれるかしら!」
「ルナ。レフィアよ。トレーニング中にごめんなさいね。今日入ってくる新人を連れてきたわよ」
「あら、何年ぶり以来かしら? リリィちゃんが入って以降まったくなかったからちょっと意外かも。アルシェのねーさん。今度はちゃんといい男を連れてきたわよね?」
「そんな事を私に聞くくらいならボスに直接聞きなさい」
「んもぉ、そんな分りきったことは承知済みよ! あなたの目でそこの新人ちゃん……って、あら……」
「ん、なによ?」
「そこの男の子……だよね……? あの人の大切なお方と同じ……モンスターテイマーの力を持ってるって……」
話を振られている感じがしたので、そのまま短くはいと答えてルナ先輩に言葉を返した。
「ふぅん……なかなか良い感じの男の子じゃない……」
そう言い終え、ルナ先輩は両手に持っていたバーベルを懸架台に乗せ、そのまま上体を起こしてこちらに顔を向けて俺を見つめてくる。身体から弾け飛ぶ玉のような汗が照明に照らし出されて美しく輝いている。中性的な体つきにガタイのいいマッチョ筋肉はまるで男の様にも見えてくる。さわやかだ。
そんなルナ先輩は俺をマジマジと観察する素振りを見せるなり、
「あんた。いい男じゃない。嫌いじゃないわ……っ!」
好印象で認めてくれたようだ。ちょっと顔がにやっとしているのは……なんだ……? 少し背筋が寒くなるのは……なんで……? 女の子だよね……?
「あ、ありがとうございます」
「よかったじゃない。良い戦友になりそうね」
「せ、戦友ですか?」
「ええそうよ。うふふ、私の専門は狩猟。暗部でしかおえないやっかいな相手を狩るのだけど。将来的には貴方とも一緒に仕事をする事になるからよろしくね」
暗部で活動する同業者のハンター。一体どんな戦い方をするのだろうか。体格的には重火器を扱ってモンスターと対峙するのかもしれない。
「よ、よろしくお願いいたします! ルナ先輩ッ!」
「元気が良いわね。嫌いじゃないわ!」
ニッコリからのニカッと八重歯を覗かせながら笑顔で右手の親指を立てるルナ先輩。男気あふれる姿に対し、俺は憧れを抱いてしまった。
「じゃあ、そろそろ次の場所に案内するから。えと、いまからオフィスルームで1時間後にミーティングするわよ。遅れないようにね」
「わかったわぁっ! ふん!」
再びベンチに寝転がってバーベル上げを始めるルナ先輩を見るのを最後に、そのままレフィアさんの後に続いて次の場所に向かうのだった。
道中レフィアさんは言った。
「ちなみにさっき紹介したルナはね。あの子、ああ見えて男だから」
「えっ、それってつまり」
「オカマよ」
ルナ先輩は筋肉モリモリマッチョの男の娘だった。
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