34話:新種モンスターの双刀甲虫を調査せよ。2

 ご機嫌斜めなサンデーをよそに、俺はその場で朝ご飯を作ることにした。とりあえず、キャンプの収納箱を漁ってみて見つけた食料を使って焼き料理をつくことに。


「…………タマゴ食えるか?」

「…………食べる」

「…………ソーセージ食えるか?」

「食べる」

「…………んん」


 困ったな。これはしばらく口を利いてくれなさそうだ。肉とかタマゴとかは食えると聞いたし。そもそもこいつ肉食竜種のモンスターだ。野菜は……食うのだろうか? パンダとかそうだし。


「赤い木の実は食べれるか?」

「ご主人に任せる」

「あははっ」


 どうしよう。爽やかな朝が早々と重苦しくてヤバイ。とりあえず備え付けのスキレットに、専用の土台とたき火を使って調理を始めることに。


――カンカン、カパ、ジュー。


「スンスン……」


 目の前でタマゴが音共に焼けていく臭いにつられて、ご機嫌斜めだったサンデーの顔がみるみる笑顔になっていく。俺は学習した。こいつ。食べ物でつれるぞと。


「まってろ。もうじきうまい卵焼きができるからな。ほいっと」


 このついでにソーセージを2本投入する。調理の手間を省く工夫だ。


「これ食っても良いのか?」


 機嫌良さげな声で俺に食べたいと言ってくるサンデー。


「お前にはとびっきりうまいやつをやるから待ってろよ」

「早く、早く!」


 サンデーにはとろっと美味しい半熟をあげよう。


「よし、できた」

「待ってたぜ! いただきまー」

「ちょっ、待つんだ! 火傷するから!」

「や、け、ど?」

「そう火傷だ。だからそのスキレットに伸ばそうとした手を引っ込めろって。怪我するぞ。ほら、皿で渡すから少しくらい我慢しろよ」


 ぶつくさとサンデーを叱りながら、俺は側に用意していたプレート皿に、ヘラを使って焼きたてホヤホヤの目玉焼きとこんがり焼けたソーセージをよそって移し、フォークを添えてサンデーに手渡した。


「おっほぉ!」

「あっ、こら手で食べようとするな!」


 遅かった。彼女は手づかみで熱々の目玉焼きを口へと放り込んでしまった。でっ、


「あっちゃああああぁっ!?」

「言わんこっちゃない」


 勢いよく頬張ったこともあり、目を大きくウルウルと涙目になりながらサンデーは、その場でおおきジタバタと転がり込んでしまった。なお、プレートに残ったソーセージは、俺が素早く皿ごとキャッチしてセーフで事なきを得た。食べ物は粗末に扱えないからな。薄情だと思わないでくれよサンデー。


「……そういえばお前。人間の料理を食べるのは初めてだったな」


 となると俺にも否がある。ちゃんと食べさせる前に作法を教えておくべきだったことを深く反省する。


「ご主人! 熱い! なんかないのぉっ!?」

「ほら、水だ。手に持ってゆっくり飲めよ」

「どうやってそれを飲めば良いのよ! わかんない!」


 あっ、そこまで細かく教えないといけないのか。


「ほら、こうやって飲むんだぞ」


 俺はいつも通りにコップを使った水の飲み方をみせた。


「早くくれよご主人! 口の中がヒリヒリして痛い!」


 必死に飲み物を求める姿に可愛いなと思いながらも、俺は手に持っている半分だけ残った水入りのコップを差し出した。


「――んくっ、んくっ、ぷはぁ……。あぁ、死ぬかと思った。人間の料理怖い……」

「ごめんよちゃんと食べ方を教えなくて。ほらこうやって食べるんだぞ」


 俺は片手に持ち続けていたプレート皿にあるソーセージをフォークで突き刺し、そのまま口元まで運んで齧り付く。


「いっきに頬張って食べるものじゃ無いんだ。ゆっくりと噛んで飲込む」


 俺のやる仕草をジト目で見つめながらも、サンデーは口をもごもごと物欲しそうに落ち着かない様子でいる。可愛いなこいつ……。


「うん、うまい。ほら、俺のやったこと真似してみろ」

「むぅ……ご主人私の餌を横取りした……」

「いやっ、不可抗力だから! こういうことになってなかったら食べてないからなっ!?」


 と、突っ込みをいれつつ彼女にプレートを差し出した。そしてサンデーは俺が教えたとおりにフォークを使ってソーセージを食べていく。


「……おいしい」

「だろ?」


 とりあえず彼女の朝ご飯は終了だ。今度は俺の番だ。とはいえ同じモノを作るので特段代り映えは無い。


「よし、出来た」

「うまそう……」


 なにやら目の前で邪な気配を感じるがとりあえず、腹が減ってはクエストは出来ぬ。栄養をつけて挑まなくては。そう思いながらプレートの上にあるソーセージを突き刺して口の中へと放り込もうとした瞬間。


「よこせ!」

「あぁっ!? お前なにすんだっ!?」


 たったコンマ0.5秒の差。俺の突き立てたフォークよりも先になんと、サンデーの瞬発力を生かした手づかみで、目の前の美味しそうなソーセージが残像となって消え失せてしまった。


「ご主人! 私の餌を食べたからお相子だ!」

「おっ、お相子ってよくそんな言葉知っているな。って、さっき教えたばかりだろっ!? お前のやっている事は人から見たら滅茶苦茶行儀悪いから! 恥ずかしいから!」

「知るか! 私は誇り高きえと」

「サンドフットドラゴン」

「そう! 私は誇り高きサンドフットドラゴンのメスだ!」


 人間の名付けたモンスターの名前を大層気に入っているサンデーなのだが、未だに自分のモンスター名を覚えきれていない。てかそもそも誇り高きっていうなら手づかみせずに行儀良く食べてくれよ。


 そんなこんなで朝食を終えた後、俺は出かける準備にとりかかった。こんな姿でジャングルにサバイバルしに行くだなんて、スネークじゃあるまいし。装備と物資はぜんぶ現地調達っていう縛りプレイはゲームの中で勘弁願いたい。


「……あぁ、防具が……俺の自前のサンド・ライノスタートルの素材で作ったライオットスーツが……ないぃ!」


 防具がしまわれているであろうチェストボックスにはなんと。ギルドが用意してくれたのだろう。明らかに駆け出しハンターが着用している布製のジャングル迷彩服上下1式と、身動きのしやすいように、ウェストバック、支給用ピストルホルスター、ピストルマガジンポーチが2個、メインウェポン用のマガジンポーチが4個、ケース入りの水筒がセットになった弾帯ベルトセットが中にしまってあるだけだった。どれも全部オリーブ色の布製で固めてある。俺の防具はそこにはなかった。


「お、おれのライフルはあるんだな……、ん?」


 ふと、ボックスの中に一枚の手紙があって、


「……なんだと……?」


『拝啓 ハンターサトナカ氏

 今回、あなたの着用していた防具はギルドが預かることになりました。調査クエストでは規定上、戦闘を前提としたスキルのある防具の持ち込みは原則禁止となっております。しばらくはそちらの支給品をご活用ください。

 武器に関しては制限はありません。くれぐれも自衛の為にお使いください。調査対象を討伐したり、捕獲したりの行為はクエスト失敗とみなし、降格処分が下される場合があります。あくまで目でみたモノを紙に記録して資料に纏めて頂ければ充分です。

                 アマーリエより敬意を込めて。』


「追伸……酔ったあなたを強引に馬車に詰め込んだのは私です。あやまっておきます。……って、えぇええええええええええええええええええええええ!?」


 あのアマーリエさんが!? 俺を酔ったままこんな場所に送り出しただとっ!? 何かの冗談かと思ったが、手紙とかクエストの用紙をみただけでそうとは言い切れなかった。……えぇ。


「ご主人、なにビックリしてんだ?」

「あいや、なんでもない。とりあえず着替えるから外でまってろ」

「あいわかったご主人!」


 なんの仕草なのだろうか。右手で敬礼みたいなことをしてきたサンデーは、そのまま背を向けてタタタと嬉々とした様子でたき火に向かっていったのだった。


「もしかして俺、ブラックな職業の職人になっちまったのかな……?」


 ギルド長を含む、組織の人使いの荒さを我が身で実感するのであった。 

 

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