33話:新種モンスターの双刀甲虫を調査せよ。
=1=
余計だけど必要な武器を手に入れてしまった俺は、そのまま夜のバイトの仕事をやろうと道を歩きながら考えていた。この時間帯からとなると土木工事か、警備の仕事になるだろう。今日は休暇だった事もあったので、明日の朝は仕事のつもりだったが急遽休むことにしよう。
「うーん、どっちの仕事がいいかな……」
「ご主人様。今からどこにいくの? もう夕方で暗くなるよ?」
ホワイエットをモンスター牧場に預けに行かないといけない。
「そろそろ帰る時間でお前を預けに行くんだけど。ちょっと仕事があってな……」
「お休みなのにお仕事なの? どうして?」
そう言われても、俺がお金を無駄使いしたからとしか言えない。
「ちょっと急にお金を稼ぎたいなって思ったからさ」
モンスターであるホワイエットにお金の話をしても分ってもらえないけれど。彼女達が住んでいるモンスター牧場はお金がかかる。本当ならば家を買って一緒に住みたい。だが、俺みたいなルーキーに家を売ってくれる不動産屋はなく、どちらも同じく貸し屋でレンタルしなければ、彼女達は路頭に迷ってしまうことになる。
実をいうと俺もそうなのだが。
「とりあえず。ホワイエットは牧場で大人しくしてるんだぞ? 明日までには帰ってくるから心配するな」
「うん、わかったご主人様。お仕事、頑張ってね!」
その日。俺の見た中でホワイエットの笑顔は一番最高に輝いていた。
=2=
「誠に申し訳ございません。ハンターズギルドとの取り決めにより、お客様の兼業は認められておりません。恐れながらですが、そちらのギルドの方で夜のお仕事をお探しになられた方がよいかと思います」
「ま、まじか……」
俺は今にも膝から崩れ落ちそうな感覚に囚われていた。うそだろ……? このご時世。公務員でも兼業しているんだよ……?
「はい、ですので今日はお引き取りを……」
「わ、わかりました。お騒がせしてすみません。とほほ……」
職業紹介所? なにそれ職業ハンターは兼業しちゃいけないってなにそれ? アルシェさん。あんたなんていう取り決めを締結しちゃったのさ!?
半ば門前払いという形で職業紹介所を出て行き、俺は言われたとおりにハンターズギルドの集会所に赴くことにした。
――ワイワイ、ガヤガヤ。
「ぁあ、酒飲まずにはいられない!」
俺の年齢は17。この世界ではとうに成人扱いなわけで、こうして樽ジョッキ片手にハイボールみたいな酒を飲んでもお咎め無いわけで。今日の鬱憤をこうして晴らしているところだ。うん、やっぱここが一番居心地が良いぞ……!
「はい、おまちどおさま。アンチョビンフィッシュのチップスよ。今日もまたナンパしにきたの? 妹さん置いていって」
「ひっ、ひと言おおいってばお姉さん!」
あぁ、すんげぇ気まずい。目の前で料理を持ってきてくれた茶髪でボブカットが似合う可愛いウェイトレスのお姉さん。実は前に食事のお誘いをした事があったのだが、あえなく即答で嫌がられてしまった歴がある。
「まぁ、夜道は気をつけてかえるのよ~。もしかすると背後から襲われたりして。ぷっ、クスス」
「…………」
やべぇ、どっちの意味で煽られてるのか分んねぇ。そう思いながらテーブルの上にあるチップスを手に取って齧り付く。アンチョビンフィッシュというのはおそらくアンチョビのことなんだろう。イタリアだっけ? そこの料理がこの世界でもあるようだ。味はほろ苦くコクのある塩気のきいたフライドチップスだ。樽の酒とよく合う。
「――んくっ、ぷはぁ……! あぁ、仕事どうしようかなぁ……」
夜の仕事。ルーキーランクで受けられるクエストは限られている。大半はフィールドの保全活動がおおい。凶暴なモンスターが場違いなエリアに来てないかを見回る仕事だ。他には新規開拓したばかりのエリアの土木作業とか。ってなると、職業紹介所で言われた言葉もうなずける。
さっき見た限りではそれが俺の今できるクエストになる。だが、報酬が活動日数と割に合わない。どれも安すぎる。100~300ダラーでどうしろと。
「うーん、討伐クエストとか捕獲クエストはないのかよ」
そう聞いても受付嬢のお姉さんは、
「ルーキーランクのハンターは受ける資格がありません」
曰く、安全協定でルーキーランク4までのハンターは夜間のクエストには制限が設けられているのだとか。
ていうやりとりをして、結果的に俺はここで飲みにあけているわけだ。現在2本目。
「ほひぃ~。んぁ、なんだあんたぁ?」
軍服姿のお姉さんが俺の前にいつのまにか立っていた。
「サトナカ カリトさん。あなたに仕事の依頼がしたいのですが。お時間宜しいでしょうか?」
「ぁあ~? 僕は安い仕事はうけつけないぞぉ~」
用件を早く言ってくれないかなぁ。酒がまずくなっちまう。
「報酬ははずみます。どうぞこちらへ」
「あぁ……わかった」
ちょっと酔いのせいでふらふらするが。ちょっと見た目は美人でどこか知っている人に似ている気もするが。まぁ、仕事をくれるならいいか。
「こちらにお入りください」
「うーん」
夢見心地な気分だ。目の前には今日見たことのある会議室の風景が見えているぞ。……ん? 会議室?
「どうぞ、お座りください。……酒臭」
「ありがとうございます……」
軍服のお姉さんに罵られながら俺は席に座った。ちょっと眠気がきたぞ。
「……というわけでして……あなたに……をおねがいしたいの……す」
「あぁ、わかりました。10000ダラーくれるっていうならやりますね」
話の内容が途切れ途切れで分らないけれど。高額の報酬がもらえる仕事らしい。だったらやるしか無いじゃん。10万ダラーをポンと暮れるんだから。あれ、10万だっけ? まぁいいや。
「じゃあ、装備と必要な物資を現地まで送ります。ハンターサトナカ。どうか無事で」
「だぁい丈夫ですって」
「そうですか。では馬車までお送りいたします」
どうやら仕事の話は終わったみたいだ。これから馬車でホテルまで送ってくれるらしい。……飲み過ぎてちょっと吐き気がする。
「ではご武運を」
=3=
その後の記憶はなくて。目を覚ますと俺は日差しの照る木々の元で横になっていた。どうやら酒が回りすぎて身体が勝手にこんな所まできてしまったようだ。うーん、何をしていたのだろう。フィッシュのチップスを貪りながら酒を楽しんでいたのは覚えているけれど。それ以降の記憶が無いんな……。なんだろう10万ダラーをくれる仕事……? そんな中途半端な記憶しかない。
「……ててて、頭がガンガンする」
体感したこの無い頭痛と身体のだるさを感じている。これが二日酔いというやつか……。
「ってかここどこだよ……?」
――ポウポウポウ――ピィー、ピィー――ガー、ガー。
鳥のさえずる音。当たりを見回すと一面密林みたいになっている。
「…………んんっ?!」
何故か俺はジャングルにひとりぼっちでいた。それもインナー姿で。武器は背負っていない。食料や水などの物資も身につけていない。あれ、買ったばかりの防具と銃は!?
「えぇ……おれ、何してんだよ……!?」
なんてことだ。俺は酔った勢いで見たことも聞いたことの無いジャングルにこの姿で足を運んでしまっていたようだ。
「んっ?」
ふとその場で立ち上がると、なにやら足元に一枚の汚れた羊皮紙が落ちていた。それを拾い上げて目をとおしてみると……。
「なっ、なんじゃこりゃああああああああああああああああああぁ!?」
『指名クエスト:新種のモンスター双刀甲虫を調査せよ
依頼主:アルシェ・カーナ・エルドラゴン
難易度:ハンターサトナカくんだけ!
報酬金額:10000ダラー
制限時間:3日
フィールド:ボルカノ大密林
依頼主のコメント:はぁい! ハンターサトナカ。調子はどうかしら? 突然だけど。君に新種のモンスターの調査を依頼したいの。お仕事の内容は簡単よ。新しく見つかった新種のモンスターの双刀甲虫の生態を調べて欲しいの。あっ、そうそう名前は仮で名付けているから、自由に命名していいわよ。以降、そのモンスターはハンターサトナカが名付けた名前でクエストとか図鑑に載るからそこんところよろしくね。
追伸:なんだかよく分からないけれど、ハンターサトナカのモンスター(見た目が美人で嫉妬しちゃいそう)が勝手について行くことになっちゃったみたいだから。これは内密にね。頑張れ~』
「なっ、なにが頑張れだふぅっざっけるなぁ!?」
その場で勢いよく地面にクエストの用紙を投げつけるのであった。
「見た目が美人って……あいつしかいねぇわ」
この密林のどこかにサンデーがいるようだ。現在はぐれて行方が分らない。てか、安全を確保しないと……。まさかここにきてサバイバル生活が始まろうとは思いもしなかった。
「ははっ、まぁ街に帰っても同じことか」
似たようなものだと割り切ろう。いまはベースキャンプがある場所を探さないと……。絶対に生きて帰れそうに無い……。
「ジャングルか……」
テレビでも見たことあるけれど。砂漠とつづいて危険な自然環境で知られている場所だ。前の世界だったらトラとか、ワニとか蛇とか危険な動物がいることで知られている所だけど。ここは異世界。しかもモンスターがうじゃうじゃいそうな場所だ。
「ぜってぇ帰ったらアルシェさんにラ○○ーキックを食らわせてやる……」
ただの跳び蹴りだけど。
「てか、どうやってここまで運ばれたんだ俺?」
だめだ。記憶が曖昧で密林にどうやって来たのか分らない。てか誰がここに送り出したんだよ。
「あぁ、酔った勢いで俺。とんでもないクエストを受けてしまったみたいだな。しかも、指名クエストって。どう考えても準備無しで受ける仕事じゃ無いって……あっ、それでも受けたのは俺か」
自問自答で納得しつつ。俺は道なき道を歩いて行く。時折茂みがチクチクと肌を突いてくるので煩わしい……。本当、ここは何処だよ……。周りは木々ばかりでさっぱりだ。
「あぁ、裸足であるくとか地味に痛い」
常時足つぼマッサージを受けている感じだ。って、そんな語りをしている場合じゃない。
「……なにか奥にいる」
自前の気配スキルが敵の気配を探知した。慣れれば半径50メートル。これくらいならモンスターとかの気配を感じ取る事が出来るようになれる。
「…………」
出来るだけ音を最小限にし、そのまま茂みに身体を埋もらせて、ギリギリのところで顔を覗かせると。
「……あれは」
その目先に見えているのは、
「がぁあああ、ご主人何処だぁあああ!! お腹がすいたぞぉお!!」
「…………」
パチパチと燃えるたき火を中心に、テントとキャンプ道具が周りを取り込むように設置してある。ベースキャンプだ。なんという幸運なのだろうか……!
そしてたき火の側にある切り株の上で座り、人の姿をしたサンデーが……その場でジタバタと……、お腹すいたと盛大に大声で暴れていらっしゃった……。呼ばれているのでとりあえずその場から立ち上がって茂みから出ることにしよう……。
「おう、呼ばれてきたぞサンデー」
「あがぁ! 何処行ってたご主人! って、なんだその恰好はご主人!」
「いや、こっちが聞きたい方だわっ!? って、なんでおまえ。ここにいるんだよ!」
「そ、それは……うがが……」
後頭部に手をあてて苦笑いをするサンデーさん。思わず俺は、
「うががって、あははみたいなしゃべり方だな」
「やかましいがぁ! ご主人があのドラゴンと仲良くしているのをみてて腹が立ったから後をついてきて怒ろうと思ってここまで来たんだぞ!」
「…………はっ? いま、お前。後をついてきたっていったよな……?」
「悪いか!」
「悪いもなにも……」
これって滅茶苦茶やばい大事の事態じゃないか……!?
「おまっえぇなんてことしてくれたんだよぉおお!?」
「ぐぇっ!?」
乱心と共に全力でダッシュからの、サンデーに詰め寄って胸ぐらを掴み、そのまま彼女の頭をグングンと振り回し。
「モンスター牧場から脱走するだなんてなんてことしてくれたんだよぉおお!」
「ぐりゅしぃご主人! は、な、せ!」
「ホワイエットは!?」
俺の脳裏にホワイエットの姿がよぎる。
「あ、あいつならおとなしくスヤスヤと寝ていたぜ……なぁ、ご主人……。そろそろその両手を離してくれないか……? 首が絞まって苦しいんですけど……」
「いやだ。お前がごめんなさいって言うまで俺はこの両手を離さないからな」
そして間伐いれずにまたサンデーを振り回す。
「ぎゃあああああああごめんなさいご主人!」
「矢継ぎ早に謝っても意味ないから! 意味ないからな!」
「あぁああああんごめんなさいご主人様ぁああああ!!」
「うっ……」
そこまで謝られると良心が……。
「はぁ……来てしまったのは仕方が無いな……」
諦めることにしよう。俺は掴んでいた手を離した。
「ゲホッ、ゲホッ」
「……で、サンデー。ホワイエットをひとりぼっちにさせて何がしたいんだよ」
ホワイエットをモンスター牧場に預けに行ったときにはサンデーはいた。すこし不機嫌な顔と態度をしていたが、まさかそんな事で機嫌を損ねていたとはな……。
「私だって……私だってあいつみたいにご主人に優しくしてほしかったのに……ぐすん……ふぇええええええええ!!」
「ちょっおまっ」
話が途切れ、突然その場で崩れ落ちで号泣し、サンデーが泣きだしてしまった。えぇ……。
それから1時間くらいだろうか。泣きわめくサンデーをなだめて続けていた。
「なぁ、謝るからさ。機嫌直してくれよ……」
「……ふんだ!」
今度は俺が謝る立場に入れ替わってしまった。とりあえず……お互い腹減ったし、とりあえず朝ご飯つくろう……。
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