30話:ハンターズギルドからの出頭要請
「ねぇねぇご主人様。どうしてご主人様はギルドっていう場所に行かないといけないの?」
「それはな――」
――『サトナカ カリト 本日中にハンターズギルド・査察管理部に出頭せよ』
それは俺に当てられた一通の電報から始まった事だった。いつものように朝を迎え、安宿のベッドで目を覚まして、そこから受付けの叔母ちゃんが預かっていたそれを手にし、紙を開いて読んで物語は始まったのだ。
「前の世界で言う次のメインクエストってやつか……」
「めいんくえすと?」
「そうだな。メインクエストだ。俺達に次にやってくる出来事のことなのさホワイエット」
「ふーん。そうなんだぁ。今から楽しい出来事が起きるのかな?」
「それはその時次第かな。あとはそうだな。俺達の立ち振る舞い方しだいかもな」
「たちふるまい?」
幼竜という事もあってか、ホワイエットは引っ切り無しに物事を吸収しようと頑張っているようだ。知識を欲しているのだろう。これは人間社会で生きていくのに、彼女には色々と教えていかないといけないと俺は思った。
「話すことや、その時に合わせた動き方とかで相手。つまり、これから会いに行く人にどう受け取られるかっていう。それが俺なりの立ち振る舞いっていうやつかな」
「うーん、難しくて分らないよご主人様」
すこし説明が堅かったかもしれない。ホワイエットが顔を少ししかめて悩んでしまっている。あわてて俺は簡単に要約して話をすることに。
「要するに変な事をいってしまったり、大人の人達が嫌だなって思うような行動をしないと行ったところだ! ホワイエットの場合は突然変身したりとか。怒って人を食べちゃったりとかかな」
「むみゅっ! ご主人様! 私は人を食べたりするのが嫌いなのッ!」
――えっ!? ホワイエットドラゴンなのに人間嫌いだと……?
「そっ、それは初耳だな。なら大丈夫かな」
「でも、ご主人様は好きだから食べちゃうかも」
「いろんな意味で身の危険を感じるわっ!」
そうこうしている内にハンターズギルドボルカノ支部の前にたどり着いていた。俺を食べちゃうかもだなんてホワイエットドラゴン。恐るべし。身の危険を感じながら気をつけないといけないな。
「ホワイエット。お店の中で少し待っててくれないか。お腹すいたらご飯を注文すればいい。教えたとおりにお姉さんに言って注文するんだぞ」
「うん、わかったご主人様」
大丈夫。俺はホワイエットの事を信じている。これも社会勉強だ。それに店のウェイトレスのお姉さんに事情を話せば分ってくれるはずだ。
「じゃあ行くか」
「うん!」
活気づいている店内を仕切るのれんをかき分けて、俺とホワイエットは中へと脚を運んでいった。
――ワイワイガヤガヤギャハハッ!
ギルド名物漢達の合唱。筋骨隆々な方達ばかりが卓上を囲み、その上に並べられている、豪華な肉料理を前にして、豪快に堪能している様はまさに俺達ハンターの日常そのものを体現していた。
「あうぅ……すごく怖い人ばかりだねぇ」
「大丈夫だ。根は優しい人ばかりだ」
俺もホワイエットのような反応を最初はしていたから気持ちは分るな。ふと、
「おっ。おぉいあんちゃん! 今日も仕事かい?」
「あっ、どうもユージン先輩」
バイキング姿のマッチョな男前こと、マッスルクランズのメンバーであるユージンさん。ハンターランクはミドル2。中堅のハンターで、軽機関銃使いの名手だ。よくここで休みは仲間と一緒にこんな感じの休日の過ごし方をしている目上の人だ。
「ん? そのちっさい女の子は?」
「あぁ、そのつい最近仲良くなったホワイエットっていう女の子です」
「…………」
完全にホワイエットが俺の背中に隠れてしまい、その場で怯えている。無理もないか。ハンターはモンスターに取って天敵だし、本能的に恐怖を感じているのだろう。いきなり連れてきたのが不味かったかもしれないな……。
「おいおい、ユージンの野郎。ガキを怖がらせちまったみたいだぜ?」
「んなっ! ちげぇよ! 俺はただ挨拶しただけだぞ!」
「すっ、すみませんユージン先輩。この子、この場所に来るのが初めてでして……、ははっ、結構人見知りなんですよ……」
ホワイエットが俺以外の人に対する接し方の一面を見て、俺はその場でフォローをしておくことにした。彼らにはモンスターと気づかれてはいけない。理由はまた今度語ることにしよう。いまは目の前の事に集中だ。
「そうかそうか。それはしゃーないさ。俺達だってちびの頃はこの場所にきた時はちびっちまったからなぁ。至って普通の反応ってやつさ」
「あ、ありがとうございます……!」
よかった。ユージン先輩にはそう思ってもらえた。
「いいさ。ほら、いきな」
「しっ、失礼します」
ちょっと気まずい感じで話を終え、そのまま受付けカウンターへと向かった。途中、ホワイエットを開いている席へと連れて行き、そこに座らせてからウェイトレスのお姉さんを呼んで事情を説明し、とりあえずホワイエットの面倒を見てもらう事となった。
「お客様のお嬢様ですか?」
「いえ、兄妹です」
主従関係だなんていったらおまわりさんよばれる案件になってしまう。ここはとりあえずホワイエットのことを妹と見てもらうことにした。
「さてと、すみません」
「ご来店ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「その、今日はギルドからの呼び出して来たんだけど……」
眼鏡に栗毛のショートの可愛らしい受付嬢。彼女に声をかけた俺は少しドギマギとしている。
「お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「サトナカ カリトといいます。査察管理部の方で呼び出しの電報をもらったのできました」
「少々お待ちくださいね」
受付嬢はそのまま席を外した。それから5分が過ぎて、
「お待たせいたしましたサトナカ様。もう間もなく面会の担当の者が来られますのでカウンターの近くでお待ちください」
ぺこり。その場で丁寧にお辞儀をし、受付嬢は次のクエスト受注希望者の案内を始めた。俺はとりあえずお姉さんの座るカウンターから離れた所で立ち、面会の時を待つことにした。
――10分後。
「サトナカ・カリトさんで宜しいでしょうか?」
「ん?」
黒髪のポニーテールに、黒縁眼鏡の真面目そうな士官服姿の女性が俺の名前を呼んで声をかけてきた。
「ええ、そうですが」
「お初にお目にかかります。私、ハンターズギルド・ボルカノ支部長補佐のアマーリエと申します。ギルド長が会議室でお待ちになられておりますので。このままご案内いたします」
――いよいよか。
この瞬間。俺の異世界生活に、新たな物語の1ページが刻まれたことを、その場で実感することとなったのであった。
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