29話:モンスター娘達との日常生活
――ボルカノメトロポリス西部エリアにあるモンスター牧場の一角。午前11時。事件はもう現場で起きている。
「ご主人! そのドラゴンはまさかっ!」
「きゅるるぅ! はじめまして私ホワイエットドラゴンのホワイエットだよ! よろしくね!」
「にぃぎゃああああああ浮気したなあアアアアアア!!」
「おいおいおいおいおいおいおいおい誤解誤解誤解誤解だってばよぉおおお!? その姿で追いかけてくるなってば!?」
――てかなんでモンスターが浮気っている言葉を知っているんだよっ!?
ホワイエットドラゴンこと幼女ホワイエットが今日。俺の管理するモンスター牧場の仲間入りになった。でっ、顔合わせで立ち会ってくれた先住モンスターのサンデーが、俺とホワイエットが手をつないでいるのを目の当りにして突如癇癪を起こしてしまい、元の姿に戻るなり、そのまま俺をガブリつこうと襲いかかって、そして追いかけてきたのだ。
「あわわわお姉ちゃんがいきなり変身して追いかけてきているよご主人様っ!?」
「うぉおおおおおおおおお!! 死にたくない死にたくない死にたくない!!」
ホワイエットの質問に答える余裕が無い俺は全力疾走で走る。まるで今の俺は、映画ジュラシックパークに出てくるTレックスに追いかけられている主人公のようだ。やめて死にたくないよ。
――10分後。
「ぜぇはぁ、ぜはぁ……ぜぇはぁ……」
「ふんっだ!」
息絶え絶えにもがく俺を尻目に、サンデーはプイッとそっぽを向いてしまった。
「ご主人、大丈夫?」
「ぜぇ、ぜぇ」
ホワイエットが俺の事を心配してくれている。普通に大丈夫とは言葉を返せそうにないな。彼女の背中から見え隠れしている白い鱗状の尻尾が垂れ下がっている。結構俺の事を思ってくれているんだな……。
「ふん、ご主人が勝手に連れてきたのが悪いのよ」
「いやっ、事前に伝えたの覚えているのだが」
――それは昨日のことだ。
「おーい、サンデー」
「がるる」
モンスター状態のサンデーに声をかけ、俺は柵越しからその場で手を大きく振った。俺の姿を見たサンデーは、そのままゆったりとした足並みで歩み寄ってくる。頭を垂れ下げたサンデーは、そのままフンフンと鼻を腫らして挨拶をしてきた。
「ぐるる?」
「よし、変身しろ」
――ボシュン。
「はぁ~、退屈だったぁ~」
その場で白煙と共に変身したサンデーはエキゾチシズムな美少女へと変貌した。
褐色の鱗肌に黒の短髪、顔立ちはシュッとしており、瞳はエメラルド色に二重の瞼をしていて、唇は藍色とエキゾチック。さらに彼女の容姿をひときわ演出するかのように服装はカンガという民族衣装を身に纏っている。服は俺が似合ってそうなモノを、いんすぴれーしょんと共に選んで用意し、そのままプレゼントしてやった。
「お留守番ご苦労さん」
「にぎゃぁ~、ご主人の言うことはちゃんと聞かないとね~」
「えらいえらいサンデー」
「とっ、当然よ! ご主人の言いつけは守らないとねっ!」
「ははっ、実に頼もしい限りだな」
「ふふっ、ありがとうご主人。褒めてくれて。それで。今日はどうかしたの?」
今日はサンデーに伝えておかなければならない事がある。
「あのさ。実はおととい。いつものように狩に行ってたのだけどさ」
「ふんふん。私を連れて行かずに狩とは。ちょっと焼き餅をやいてしまうにゃ」
「ハンターズギルドがお前の事を認めていないからな。今しばらくはそこで暮らしてくれ」
実に奇妙な間柄だと、よく街で会う同業者達にはそう声をかけられたりする。どうやらサンデーの一件で俺の名前はちょっとばかし有名になりつつあるのだとか。
「むぅ、メスの私だって足腰強いぞ。それにオスだって簡単に押し倒せる自身があるんだから」
「力自慢はよく分かるさ」
彼女なりのアピールと言ったところだろう。サンデーはメスだ。求愛行為をされる側として多少なりの自己防衛は嗜んでいるんだとか。こんな話を学者が聞いていたらさぞ喜んでいたに違いない。だがしかし世の中そんなあまくは無かった。
「今日もまた変な恰好のオス達がぞろぞろ来た。唸って追い返してやった」
「またか……」
最近になってよく学者の人達が足繁く通ってくる。肉食竜種のモンスターと人間が何故に主従関係になったのかと、その道の界隈の人達に興味を持たれてしまったのだ。
「あれだけ説明したのにまだ諦めてないのかよ」
「ご主人のことバカにしてたぞ。ジッケンでご主人の使ってるモンスターの餌を使って、同じように他の仲間にやっても全然懐かないってさ。その話を私の目の前でしてくるから頭にきて、んで一つ驚かしついでにやってやったのさ」
「おかしいな。ちゃんとやり方は教えたんだけどな」
てか、俺の信用なさすぎだろ。陰キャかよ。あっ、俺も元陰キャだった。
「まぁ、下手に真似されるよりはいいか」
「そうだぞご主人。私の好物を他のドラゴンに食べさせるだなんて駄目だ」
「食い意地はそこそこにな」
「さもないとご主人を食べちゃったりして」
「うん、ふざけてるならご飯は抜きだ」
「げぉっ!? 冗談だってばよっ!」
柵越しに手を伸ばして抱きついてくるサンデー。うん、野性の臭いがプンプンして何も思わないな。てか臭い。
「く、臭い! おまちゃんと水浴びしてるのか!?」
「メスにそんな事をいうのは良くないぞご主人!」
「ああぁ悪かったからそうやって頭に齧り付いてこようとするなよ!?」
「うがががががッ!!」
とあるなんとかさんバリに目を剥きだしにして、柵越しから噛みついてこようとしてきているご機嫌斜めなサンデーさん。人間の姿をしているけど噛む力はサンドフットドラゴンそのもの。サンデーのじゃれるスキンシップにもこちら側が気を遣わないといけないのだ。てかスイカが破裂する感じになるからヤバイ。
実際にこの目でサンデーが、大玉のボルカノスイカを口で丸々と頬張って粉砕するのを目の当りにしたのだから。ピンクの悪魔かよ。
「とっ、とりあえずだ。明日お前の元に新しい仲間が加わる。名前はホワイエット。ホワイエットドラゴンの幼い女の子だ。ちゃんと良くしてやるんだぞ。明日からサンデーはホワイエットのお姉さんだ」
「…………ぐる?」
――でっ、今に至るわけだ。特段俺、なにも説明を欠いていなかったと思うんだけどな……。
「あっ、ごめん2人とも。今からギルドって言う場所に行かないといけないんだ」
「ほぇ? 何するの?」
「それはな」
「狩かっ!?」
「それもあるが。ホワイエットの事を説明しに行かないといけないんだ」
――相手はこの街のギルドを統括する首領。ギルド長だ。
「とりあえずホワイエット。今から俺と一緒に来るんだ」
「うん、分ったご主人様」
「ちぇ、私はまたお留守番かよ。あーつまんなー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます