28話:指名依頼クエスト『砂漠の臆病者 サンド・ライノスタートルを狩猟せよ!』♯8


 サンド・ライノスタートルを狩猟し終え、俺は亡骸のあるエリアで信号弾を空に向けて撃ち放った。


「ふぅ……とりあえず監視所の兵士には危険が去ったと伝えたし。あとは運搬業者が来るのを待つことにしようか」


 運搬業者と一緒にくるのはギルドに所属している鑑定スタッフ。彼らは狩猟を終えたモンスターの様々な鑑定を行っており、フィールドには必ず1人は常駐している。


――15分後。


「お疲れ様でしたハンターさん。さて、運搬を業者さんにしてもらう前に。さっそくそこのサンド・ライノスタートルの鑑定を行いましょう」

「よろしくお願いします」


 紺を基調に紫のツートンで、金色のラインの刺繍が施された学者服を着用している聡明そうな眼鏡の男性スタッフが和やかな笑みを浮かべている。


「ふむふむ、なるほど。これは……おどろき……って、えぇぇっ!?」

「ど、どうしたのですかっ!?」


 死んだライノスタートルの亡骸を鑑定していたスタッフが突然に驚愕し、その場で驚愕と共に後ずさりをした。


「あ、あの不躾で申し訳ないのですが……」

「は、はい……?」

「このサンド・ライノスタートルを狩猟したのはあなた様でお間違えないでしょうか……?」

「えっ……? そうですけど……?」

「なんと……!」


 いや、どう考えても目の前で死んでいるモンスターを討伐したのは俺だってば……。何をそんな大層に驚いていやがるんだよこのスタッフは……。


「さっき信号弾上げた本人がここに居るじゃないですか。それで分らないわけないでしょう?」

「た、確かにそうでしたね……ははっ」

「でっ、何がそんなに驚いたわけなんだ?」


 嫌みをスタッフに言いつつ、俺は質問を問いかけた。すると、


「そのですね。端的に申し上げますと……。この個体は名前付きの個体で。それに加えて上位種個体に分類されているモンスターだったのですよ……。このモンスターのあだ名はカワード。臆病者と知られているサンド・ライノスタートルの中で特に臆病かつ、窮鼠猫を噛む潜在能力をもったモンスターだったのですよ」


 説明がなげぇな……おいおい……。転生しても学者みたいな人ってこう話すのは変わりがないようだ。


「つ、つまりなんだ……。俺が狩ったモンスターにはそのカワードっていう名前がついていて、それを俺みたいなルーキーランクのハンターが狩ってしまったという事に驚いているっていうわけなんだな……?」

「おっしゃる通りですぅ……」


 めちゃくちゃ弱腰気味に返答してきたスタッフ。その事実を知った俺は、


「ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛?゛」


 その場で思わず腹の底から叫んだのだった。


――20分後。


『と、とにかくこの事はギルドに報告いたします。わっ、私は私の仕事を務めることにしましょう。恐らく十中八九でギルドからなんらかの呼び出しはあるかと思いますが。正直に説明をすることに頑張ってくださいね……!』

『誰が嘘ついて喋るかよっ!?』


 スタッフと別れる間際にやりとりをした内容が頭から離れないでいる。いや、ギルドからお呼び出しって学校の生活指導室かよ。


「はぁ、日も暮れたし。今日はキャンプに戻って寝よう」


 エリア1に歩き着いた俺は、夜空の星々を見上げながら小さなため息をついた。ここに来てドッと津波のように極度の疲労が来ており、もうこれ以上は動きたくない気分でいっぱいだ。


「それにしてもまさか俺が相手していたモンスターが上位個体で名前付きだったなんてな」


 どうりで銃弾を弾かれるばかりなわけだ。俺、どんだけ罠とか爆弾を駆使して戦ったわけよ。


「はぁ、考えても仕方がないや。やってしまったことはもうアレだし、事の成り行きに身を任せることにしようか」


 ここで考えても何もならないし時間の無駄。なわけでとりあえずキャンプで飯食って、それでテントに籠もって寝るのが先だ。


 そう思いながら設営したキャンプへの帰路を歩いて行くのであった。


――その日の真夜中。


――バサァ――ダッ――『クルルル』――ズザ、ズザ、ズザ。


「……んっ? んんぅ、なんだぁ……?」


 ミステルさんとバラの花園で楽しくお茶会をしている夢を見ていたら。


「……外?」


 外の変な物音に強制的に起こされてしまい、俺はベンチベッドから身を起こすことになってしまった……。風か……?


「……んんっ」


 暗くて何も見えないけれど。とりあえず寝ぼけたままテントの幕を開け、そのまま顔を突き出した状態で外の様子を伺うことにした。


『キュゥッ!』


――ブホォ。


「うぇブッ!?」


 頭をテントから出した直後の事だった。それは甘い鳴き声と共に襲いかかってきた生暖かい風。突然の事で意識がはっきりとし、閉じていた目を開いて前を見たら。


『キュルルゥ!』


――バクッ!


 目と目が合う瞬間にバックとかぶりつかれてしまった。ホワイエットドラゴンに――



――翌日。いつものようにボルカノカフェのテラス席にて。時刻:15時00分。


「それで。真夜中に突然現れたホワイエットドラゴンと顔を合わせるように見つめ合ってしまって。そのままバクッと。挙げ句の果てに懐かれちゃって空を飛んで帰ったりと裏山死刑なことになったわけね」

「なんでミステルさんがそれを知っているんですかっ!?」

「えっ、普通にこの業界で誰もが知っている話よ? なにか?」


 完全にミステルさんにまた妬まれている気がするなぁ……。イスに座る彼女はコーヒーカップを片手にご機嫌斜めだ。てか、この業界の情報網ヤバくね……? 田舎のネットワークかよ。


「正直冷静に言わせてもらうと。あのホワイエットドラゴンがあなたになついてしまうだなんて。前例の無かった異例の事態よ。普通ならあっと言う間に命を落としてしまう恐ろしい竜なのよ?」

「俺にもよく分かんないですよ……。サンド・ライノスタートルを探していたら出くわしてしまった。その場を凌ごうと思って干し肉とサンドパプリカとその……あれを混ぜたモンスターの餌を作って……」

「それが災いして懐かれちゃったのね。てか、アレって何を混ぜたのよ?」

「それは企業秘密です」

「キギョー秘密だと?」


 自分の問いかけにそう答えられてしまい、ミステルさんが怪訝な表情を浮かべて不思議そうに首を傾げた。俺はその場でお茶を濁す事にした。


――はぁ……。もうあんな事はもうごめんだ……。


 思い出したくもないあのツルザラとした舌の感触。頭に絡みつてくる暖かな唾液。すこぶる気持ち悪くてもう無理。幼体のホワイエットドラゴンがかぶり付いてくるのは、奴なりの愛情表現らしいから経ちが悪い。いわゆる甘噛みなのだとか。学者の男性スタッフ曰く。


――あれで甘噛みとか笑えんわ。

 

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