17話:砂漠の臆病者『サンド・ライノスタートル』


 『臆病者』と呼ばれている性格を持つモンスターのほとんどは、この大自然での中で一番賢い生き方をしていると、俺は手元にある図鑑を読みながらそう思っている。


 どの世界でも同じだ。食うか食われるかの単純な弱肉強食の世界でどう生き残るべきか。臆病な性格の生き物達は敏感に危険を察知する能力に長けており、肉食系のモンスターにとって難しい捕食対象でもある。

 あまりにも無茶振りなサバイバルとも言えるかもしれない。


 昔の俺だったら臆病者の真似をしてもすぐにやられていたと思うな。実際にいじめっ子の奴らにやられていたし。


 だが、それは転生する前までの話だ。

 いまはこうしてハンターズギルドが提供している公共の狩猟大図書館に足を運び、椅子に座って目の前の机の上に分厚い図鑑を置き、迫る狩猟日までに備えて必要な知識を頑張って吸収しようと努力をしているからだ。


「これも全てミステルさんの為になんだ……」


ーーこの子。つまり。新米ハンターのサトナカ・カリト君に、彼のランクで現時点で作れる最高の武器と防具を仕立てて欲しいの。ーー


「このチャンスを物にしたいんだ!」


 図書館なのであまり大声で豪語は出来ないけど、俺はミステルさんにもらったチャンスを活かして今後のハンターライフを充実させたいと考えている。


「あわよくばでいいが……自分の寝床が欲しいなぁ……」


 今までずっと安宿でのそのひぐらし。プライベートなものって、今身につけているものくらいしかないな。

 流石に日用品に関しては預かり屋にあるロッカーをレンタルして保管してはいる。だが、レンタル料を考えるとあまり長くは使いたくはないな。


 とりあえず今は情報収集に勤しむ事にしよう。


ーー1章『ボルカノ砂漠地帯について』


 ボルカノ山脈に隣接する砂地地帯。地脈が地下に通っている為、とても肥沃な土地柄である。ただし、火山地帯が直ぐ近くにあり、地熱の影響で年中を通して暑く、そして太陽を遮るような地形がないため、日差しがとても強い。降雨も年を通して1回くらいだろう。開けた土地柄故に木々や果実の育ちには適しておらず、半ば不毛の地帯として人々から認知されている。


 しかしそんな不毛の地帯とは言いつつも、地下空洞には多くの鉱物が眠りについており、年中を通して採掘者たちが絶えずに足繁く往来している側面もある。


 ただし、砂漠といえども気を抜いてはいけない。その肥沃な大地をテリトリーにするモンスター達が存在する事を忘れてはならない。


 土壌に住みつく微生物を餌にする甲虫種。

 甲虫種を好んで食する爬虫竜種。

 爬虫竜種や草食獣種を求めて縄張りを張る肉食系のモンスター。


 大まかに分けると、砂漠で確認されているモンスターはこのように部類することができる。


 2章『ボルカノ砂漠で採れる素材について』ーー


 これはまぁ、採取活動するときにでもいいかな。一応ざっと見た感じ。ボルカノ鉄とかボルカノ銅とかの鉱石が採れるって書いてあるくらいだし。そこまで深く読まなくてもいいような気がした。


 狩猟をする上で最低限の必要な知識を持って、今回のターゲットであるサンド・ライノスタートルとの戦闘に臨みたい。特に俺は戦闘面での知識を重要視している。


「素材とか食料とかなんておまけみたいなもんだしな」


 水はともかく食事に関してはギルドから支給される携帯食で十分だ。ていうか俺は料理ができない。頑張れば具なしのおにぎりくらいは作れるが。それじゃあ力が入らないわけなんだよねぇ。


 とりあえず狩猟に役に立ちそうなものは隅々まで目を通し、後はページ数が多すぎて読む気にならないのでとりあえず流し読み。


ーー10分後。


「あぁ……ラノベが読みたい……」


 俺は完全にホームシックになってしまった。だって……文字が大人すぎて読むのがしんどいもん……。


 俺が図鑑だと思って手に取った分厚い本には絵とかあまり載っておらず。全部が文章での表現ばかりだ。絵師さんとかいないのかと思えてくるレベルの話だこりゃ。


 とりあえず目が疲れてきたので今日の勉強はこれくらいにしておく事にした。










 

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