18話:事前視察
――狩猟解禁日まで後2日。
俺は今ボルカノ砂漠に訪れている。
今日は視察を兼ねて採取クエストに挑戦している所だ。今回はボルカノ銅10キロをギルドに納品するというお使いクエスト受けてここに来ている。
今日は狩をするつもりがないので軽装備で来ている。だが油断してはいけない。必要最低限の武器と、納品する商品となる荷物を持つときの重量を考えて極力無駄にならない、かと言って足りないとは言わない程度には装備とアイテムを持ち込んで不意のモンスターとの遭遇に備えている。
――今回の持ち物リスト。
・武器:古いボルトアクションライフル(攻撃力90)
・防具:ライトウェイトアーマーセット(防具効果:防御値+20、移動速度-10)
バックパックの中身。
・修復材✕10個
・エナジーサポートドリンク✕10個
・スコップ
・鋼のつるはし✕2本
・2Lサイズの水筒(ポカリみたいな液体が入っている)
・通常弾✕30発
・貫通弾✕10発
・乾燥干し肉✕2切れ
・カンテラ
・カンテラ用燃料
・鉱物の図鑑
・携帯型キッチンセット
・支給鉱物袋
「にしても最初のエリアで雰囲気がぶち壊しだったな」
それもそのはずか。ここには多くの炭鉱夫が足繁く往来しているフィールドだ。人ひとりくらいは必ずあっても不自然じゃないか。
「そういえばさっきあったおっちゃんが俺と話してたときに言ってたな……」
『ここ最近になって大型の肉食系のモンスター達が縄張り争いを繰り広げているみたいだ。ギルドの通達で、ライセンスのない奴らはしばらく中域と奥地に立ち入るのは禁止になるらしい。ハンターのあんちゃんは多分いけるかもしれんが。その恰好でいったら確実に警備している門番の警備兵に止められるかもしれんから気をつけるのだぞ』
「あのとき安請け合いではいとかいっちゃったが。そんなこといわれてもなぁ」
ハンターには常に危険な地帯にも立ち入れるライセンスが与えられている。ランクはルーキークラスからと規定があり、俺はつい最近になってルーキークラス1に上がったばかり。多少の制限があるものの、ひとまずは中域地帯までは入れる。
「でも、今回はボルカノ銅を集めるだけの簡単なお仕事だし。あまり行く気にはならないな」
必要最低限の装備とアイテムを今回は用意している。前回のグレゴールワイバーン戦で得た素材は全て売却し、軍資金に換金したので、それなりにアイテムを用意するのには困らなくなった。ただそれと引き換えに自分の装備はあまりいい物とは言えない物しか購入できていない。やはりモンスターから得た素材の防具と武器の方が優れている。
――1時間後。ボルカノ砂漠エリア7『大空洞』
ボルカノ砂漠のエリア数は全部で17ほどある。一般人が立ち入って良いエリアは1~5。ハンターはそれを含めて全部に入ることができる。だが、ランク事に分けられており、マスタークラスのハンター出なければ僻地と呼ばれているエリアまで立ち入ることが許されていない。
「そもそも僻地に入った瞬間に帰って来れなくなってしまうからな。あそこにはこのエリアを支配するモンスターが居座っているらしいし」
エリアボスという奴だ。このエリアの頂点に君臨する王者の中の王者。数多のモンスターが恐れる存在が住んでいるとのこと。この前にタケツカミサンが身につけていた『グレゴールアサルトsecond』の素材となるグラジャボラスも、俺のまだ見ぬフィールドのエリアボスなのだとか。
そう思いながら涼しい空気が立ちこめている大空洞で俺は採掘作業を行っている。エリア1~5で作業をやろうかと思ったのだが、今日は沢山の炭鉱客であふれており、まぁ立ち入り制限がかかっているから致し方ない。とりあえず俺がコミュ障な事もあるので人気の無い場所といったらここくらいしかなかった。
しーんと静かな空洞にぴちゃり、ぴちゃりと水滴が落ちる音が聞こえてきている。それに混じって俺は一身に目の前の岩盤を鋼のつるはしを使い、豪快に振って削り続けている。
「ふぅ……なかなか当たりがないな」
持ち込んだ図鑑の情報によれば、エリア7でもかなりのボルカノ銅が産出しており、多少の危険はあるものの、その上質な銅は高値で取引されていると書いてあった。
「高級品の銅を独り占めで採れるとかまじでラッキーな感じがするぜ!」
力任せに振った直後。
――ガッキン! ゴロ。
「おっし、1個目みっけ!」
どうやら鉱脈を掘り当てたのかもしれない。いま手にしたのはボルカノ鉄鉱石。俺の身につけているライトウェイトアーマーセットの素材によく使われる鉱石だ。
「うーん、なるべく大きな塊で持ち帰りたいな」
ちなみにクエスト外で入手した素材は全部持ち帰ることができる。ただし、持ち運べる限りの物となるので。バックパックの容量も考えてバランス良くといった感じになる。あと重すぎると歩けない自体になりかねないからだ。モンスターに遭遇したら泣きを見る羽目に。
「そういえば炭鉱夫の人達って基本小分けにして持ち帰ってるな。なんでだろう?」
すこし疑問に思うことがある。彼らはなぜあんな石ころサイズに分けて持ち運んでいるのだろうかと。
「まぁ、考えてみるか」
解らない事があったら自分で考えるか調べる。ミステルさんに教わった通りにやれば問題なくこなせることを、最近になって俺はその大切さを少しだけ理解した。
――2時間後。時刻:12時30分。
「そろそろ飯にするか……」
大空洞で掘り続けた結果。ボルカノ鉄鉱石が20キロ。ボルカノ炭石が2キロ。そして今回納品予定となっているボルカノ銅は2キロだった。あと8キロ足りていない。
「んー。ここじゃあニッチすぎたかな……」
俺が手にした素材は全部高級品ばかり。金にはなるけど、量的には不足している。こういった物量系納品クエストには不向きな事を初めて知ってしまった。
「まぁ、まだ他のエリアも探索していないしついでに視察もできるから気長にやろうか」
明日のお昼くらいまでには納品できれば問題ない。それまでの移動時間を考えるとこれくらいになるな。街まで戻るのに約3時間ほどの移動が必要となる。
「まぁ、考えすぎずにいまはお昼を楽しもうか」
丁度ここには誰も来ないし気にすることなく何でもできそうだ。俺はさっそく携帯キッチンセットと、干し肉1枚を取り出す。
「干し肉自体には味がないから簡単に調理して食うことにするか」
約550グラムの容量のある干し肉をまな板の上にのせ、備え付けの包丁を使って小分けにする。こうする事で口の中に入れやすくなるからだ。ふと、
「ん? あっ……なるほど……」
俺は炭鉱夫が鉱物を小分けしている理由についての疑問が晴れてしまった。
「こうする事で収納しやすくするって訳だったのか……なるほど……」
炭鉱の仕事って実に奥が深いんだと知ってしまった。
「よし、これくらいにして後は砂漠で採れたサンドパプリカを縦に切って。んで、油を敷いたフライパンを加熱させてからパプリカと干し肉を入れてっと。あとは備え付けの塩と胡椒で調味して盛り付けたら完成っと」
10分くらいで出来る干し肉とパプリカの炒め物。料理のレシピはなんとなく覚えていたので適当に作ってみたのだけど。案外いけてしまった。
「よし頂こう」
俺は最初にフォークを使って干し肉を口の中に入れてみる。
「…………なんか足りないな」
味自体はついてはいるが、なんか物足りなさを感じてしまう。なんだこの違和感は……? 無を感じてしまう。
「専門的な知識がないから解らねぇわこれは」
とりあえず食えないことはないのでしっかりと腹の中に収めていく。今度帰った時にでもレシピ本を買ってみることにしよう。これはさすがに食事が楽しくなかったらやっていけない気がする。
「ごちそうさん」
とりあえず水分補給の為にバックパックから水筒を取り出してゴクゴクと口につける。
「うん、ポカリだ」
のんでも不味くない味。これだけは安心感がある。だが、
「炒め物と相性悪すぎるわ」
文章で表現したら絶対に『WWW』が語尾にもれなくついてくる。
でもそれが逆に楽しくなってしまい。憂鬱な気分がスッと晴れた。
「じゃあ、さっさと続きをはじめるか」
もうちょっと頑張ってみようと思いながら午後の作業を始めるのであった。
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