16話:武器職人カミル

 気怠そうにカウンターテーブルの上で頬杖をつきながら、武器屋の受付嬢こと店番のカミルが話しを始める。


「それでミステル。こんな真夜中にうちの店に来たってことは、何かの依頼があってのことか?」

「うん、これとこれの武器の素材を集め終えたから渡しに来たの」

「前に言ってたグランドゴルドドラゴンのヘビーマシンガンと専用アーマーの件か。うちの店は金と素材さえ出せば依頼通りのものを作る事ができる。だが今回の依頼についてはかなりの金額を要求させてもらうからな。クオリティーを重視させてもらう」

「因みにいくらになるの?」

「ざっと見積もってこれだ」


 カミルはそう言って、手元に引き寄せた算盤を使い、ミステルさんに値段の提示をしてくる。


「700万ダラー……」


 思わず俺は心の声を漏らしてしまったが、数字だけでもすぐにわかる。


ーーこれは俺が聞いても意味のないお金の相談だと。


「700万ね。わかったわ。明日か明後日までには小切手を用意して持ってくるわ」


 セレブ。お金持ち。目の前の美女は俺にとって高嶺の花で雲の上の存在だと、彼女の言動で俺はそう感じさせられていた。


「よし、商談成立だな! これで親父も安心して仕事に専念できそうだぜ。ありがとうな。あんたの武器と防具は国宝級にも匹敵する素材を使った武具だ。そこらの安物の、そう、そこに突っ立っているひよっこが持っているような腐ったボルトアクションライフルを量産するのとは次元が違う」

「腐ったって……」

「カミル。カリト君はまだとれたてホヤホヤの新米ハンターよ。彼が選んで使っている武器にあれこれ悪い事をいわないの」


 例えを上げただけなのに酷く批判をされ、カミルはその場でまた『(´・ω・`)しょぼん』とした顔になる。


「おっ、俺だってちゃとした武器を使って狩猟がしたいよ! いっ、今はまだ金銭的に余裕がないからこのお古の武器を使っているだけであって。だから「あぁ、もうわかたったわかったから。そう熱くなるんじゃない」……」

「カミル。実は今日はもう一つ用件があるの」

「あん? まだなんかあるのか?」

「あぁ、そうだ。実は折り合っての相談だ」

「グランドゴルドドラゴンの件なら値引きはお断りだぞ」

「いいえ、それはするつもりはないわ。用件はそうじゃないの」

「じゃあ、なんだ?」

「この子。つまり。新米ハンターのサトナカ・カリト君に、彼のランクで現時点で作れる最高の武器と防具を仕立てて欲しいの」

「ミステルさん⁉︎」


 一瞬だけ俺の脳裏にお金という言葉がよぎった。その事に思わず俺はその場でガタッと動揺してしまう。


「それはこのひよっこからのオーダーか?」

「いえ、違うわ」

「じゃあなんだ?」

「これは私からのオーダーよ。ここのお店なら安心して武器と防具を仕立てられる。一見のお客さんはオーダーメイドでの武器と防具の製作依頼はまずできない」

「つまりなんだ。ミステルが紹介人になってこのひよっこがいつでもこの店を自由に使えるようにしたいと?」

「全部とまではいかなくてもいい。彼の将来に投資がしたいんだ。もうこれで貴方ならわかるでしょ?」


 そう言い聞かされてカミルは納得してニヤッと笑みを浮かべたものの、投資という言葉の意味がよくわからない自分には、ミステルさんが何を話したいのかがさっぱりだった。


「じゃあ、そうだな。このひよっこがどの程度の実力なのか興味が湧いた。私はこいつのことを見極めたい。つまり黒銀のミステルが気にかけたこの男がどの程度なのか」


 そう言ってカミルはカウンターの引き出しを開け、そのまま手に取った1枚の茶褐色の用紙を取り出して俺に差し出してくる。


『サンド・ライノスタートルの狩猟』


「これは……」

「こいつは私からあんたに対する指名依頼だ。この店を使うということはどういう事なのかを知る義務があんたにはある。ミステルの後押しがあるあんたにはもうこの依頼を拒否することは出来ない」


 メンツを潰すのは許さないというわけか……。言葉には出さなかった事に成長感を感じる。


「こいつは現段階でも倒せるモンスターだ。今回の依頼についてはよく読んで挑むんだな。人に聞く前に自分で調べて入念に準備をするんだな。これは私からのアドバイスだ」

「……ゴクリ」


 名前だけは聞いたことがある。噂では新米殺しと呼ばれているモンスターだ。それを俺が相手すると思っただけで、思わず俺は生唾を飲み込んでしまった。


「安心しろカリト君。もし困った事があれば私に頼ってくれればいい。指名依頼では他のハンターとの共闘は出来ないルールがあるから、戦闘でのサポートは残念だけど期待しないで欲しい。だが、助言を聞くのはいくらでもしていい。情報共有もハンターにとって大事な要素だからな」


 その言葉に俺は一人じゃないんだと感じるのであった。


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