14話:武器屋にて
ミステルさんとの食事を終えて、俺はそのまま支払いを済ませようと思い、受付の綺麗なお姉さんに伝票を渡したら。
「先程お連れ様がお支払いを済ませてお帰りになられましたよ?」
「えっ」
「はぁ、全くあの男は……。余計なことをしてくれたわね」
なんとタケツカミさんが俺たちの代わりにお代を支払ってしまっていたのだ。さらに。
「それとサトナカ様にお連れ様から言伝をお預かりしております」
「言伝ですか?」
「はい。同業者の仲間入り。心から歓迎するぜ。君にはもっと世界を広く見てもらいたい。その想いを込めて、それは俺からの餞別だ」
それは憧れのタケツカミさんからのお祝いのメッセージだった。俺は思わずその場で、
「だっ、大丈夫かカリト君⁉︎」
「うぅっ……ありがとうございますタケヅガミザン‼︎」
嬉し泣きをしてしまったのだ。
「えと、追伸がございます……ははっ」
「まだカリト君を泣かせるような伝言があるのかっ⁈」
「うぐっ、ダゲヅガミザン‼︎」
「これが私の仕事なので許してくださいっ⁉︎」
戸惑いを隠せないお姉さんは、鬼気迫るミステルさんに胸ぐらを掴まれており、俺は泣きながら背中に両腕を伸ばしてミステルさんを羽交い締めにした。まるでこれは女同士の痴話喧嘩に男が必死に泣きながら仲裁をしようとしているようにしか見えないだろう。
ーー5分後。午後10時30分。
店での一悶着が終わり、俺は今日の宿探しをしようと考えていたのだが。
「ねぇ、カリト君。これからどうするの?」
その言葉に思わず俺の童貞センサーが敏感に反応した。
「えと、こっ、これから今日の宿探しをしようかと思っております」
いきなりのシチュエーション。俺は知っているぞ。この後の展開はおそらく。
「なるほど。でもこの時間帯は宿を押さえるのは難しいと思うわ」
「えっ、でもこの時間でも空いている宿はあると思うのですが」
「そっ、そうなのか?」
彼女の少し動揺した表情に対して、俺は彼女がこの街の宿屋事情に詳しくないのかなと感じた。
俺は思った。彼女は俺を誘っているのかもしれないと。なのでここは里中狩人の一世一代の大勝負をしてみよう。
と、思ったのはいいのだが。
「ミッ、ミステルさん!」
「なっ、なんだいきなり大声で⁉︎」
「すっ、すみません!」
今まで女性経験が皆無な自分にはこれが限界だった。
だが、このまま何も話さなかったらミステルさんに変な印象を与えかねない思い、俺は頭の中で思い浮かんだ話題を振ることにした。
「お、大声を出してごめんなさいミステルさん! そのなんと言いますか。えとですね……あははっ」
「うっ、うん……」
完全にミステルさんから変な奴と思われいる。俺はもう田舎に帰りたくなってしまった。
「その、なんだ。カリト君が緊張している理由はよくわからないが。君の言動から察するにその……」
「その……なんです……?」
ダメだ! これ以上は聞きたくないという気持ちで一杯だ!
「わっ、私とこれから行きたい場所に一緒に来てくれると思ってもよっ、よいのだなって……」
「それってつまり……」
「うん……。君の想像に任せるよ……」
「おうふ……」
今のは息を飲む瞬間を体現した言葉だ。異世界に来て俺はついに童貞という呪いから解放されるのだと、この時を境に俺は疑心から確信へと変わったのだと、目の前でモジモジと顔を紅潮させているミステルさんを目の当たりにして、俺はそう感じ取ったのだ。そして。
「わっ、わかりました! ミステルさんの為なら俺、どこまでもついて行きます!」
「いや別にそこまでしなくてもいいのだぞっ⁉︎」
「大丈夫です! ミステルさんの為なら自分。なんでもします!」
「今、なんでもするって……。ふっ、ならばその言葉通りに私の言うことを聞きなさいよね。男のあなたに二言目はないわよ」
「はい!」
なんでもするって言うの。少し間違った言葉遣いだったかもしれないと、俺は少し後悔していた。
でも、彼女とエッッッッ‼︎ なことが今から出来るならそれもどうでも良いよね?
という訳で俺はミステルさんと一緒に、夜の輝く繁華街を歩く事になるのであった。
ーー10分後。10時40分。
「ついたぞ」
「えっ……」
「どうしたカリト君。そんな豆鳩みたいな顔して」
「あいやその、何でもないです……」
おかしい。完全におかしいぞっ⁈
「さっ、中に入ろうか」
「あちょっと待ってくださいよミステルさん⁉︎」
スタスタとミステルさんは俺を置いてけぼりにして、そのまま目の前の建物の中へと入って行ってしまった。
「はははっ、どっからどう見てもエッッッックス!な事なんて出来る場所じゃないな……」
『〜銃器屋・ボルカノ〜』
ミステルさんに連れてこられた場所はなんと、この都市のシェアの半数を占めている有名な武器屋だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます