13話:ハンターになるためには

「あっ、兄⁈」


 俺は思わず驚愕してしまった。


「あぁ、そうだ。カリト君。別に驚くことはないと思うのだけど?」

「あっ、いや、その、すみません……あまりにも突然の事だったので」

「そう落ち込む君のことを見ていささか変だと思うがまぁいいだろ。どうやら君はタケツカミと知り合いのようだし。ちなみに、兄とはどこで知り合ったんだい?」

「タケツカミさんと自分が出会ったのは初めてこの街に来た時でした。俺にとってタケツカミさんはハンターになろうと思わせてくれた憧れの人です」


忘れもしない。タケツカミさんと出会ったあの時の思い出を。俺はあの人と出会ってハンターになろうと決心したんだ。俺はミステルさんにその時までの出来事を語る事にした。


--1ヵ月前。寒冷地帯の村ナベル。


「気をつけて行くんだよ」

「うん、おばぁ。短い間だったけどお世話になりました」


  蓑笠に毛皮のロングケープ姿の小さな背丈の老婆こと、村長のムラ様がホッホッと小さなしゃがれ声で笑う。自分もその声を聞いて思わずじわっとした温かな感情を抱いて笑みをこぼした。


「カリト君。絶対に約束だよ! 一人前になって、有名人になって、それでね。偉くなったらまたこの村に戻ってくるのよ! 約束だから!」


  村長の隣にいた、村長の娘のミナさんが俺の返事を待たずに村の中へと走り去ってしまった。


「いゃぁ、ミナもスミにおけんやつじゃのぉ」


 ミナさんの言動を見てムラ様が嬉々としていらっしゃる。俺には何がスミに置けないのかがよく分からなかった。


「ミナさんのいう通りです。今の俺が出来る。一番大事な人生の目標で村に対する恩返しになれる事だと思います」

「ふぉっふぉっ、そうじゃな。お主には何か不思議な光を感じるのぉ」

「光……ですか?」


何やら異世界らしいワードが出てきた。


「うむ。そなたとの出会いは奇妙なものだった。万年の時が流れる極寒の寒冷地土地のど真ん中にそびえ立つ霊峰ことキリガミネ山。お主はそこで露わな姿で見つかった」

「ええ、そうです。自分はあの時偶然にも通りかかった男女グループの人達に命を救われました。奇跡的としか言いようがありません」

「して、お主はどうしてあのような場所でかようなことになってしまったのか思い出せないのじゃな?」


 まさか自分が異世界から来た人間だなんて言っても、俺の話はムラ様には通じないと思うので、俺は記憶喪失の青年という事でムラ様を含めて、この村の人達にはそう理解してもらっている。実際に転載時の後遺症で記憶が欠けてしまっているから、騙している訳じゃないしな。


「よいか。お主を養ってくれたリオルとケーティー夫妻には感謝を忘れるでないぞ」

「そうですね。あのお二人は自分にとって第二の両親です。おばぁ。俺、絶対に偉くなって2人を楽させたい。有名人になってみせます!」

「その言葉をここでリオルが聞けばさぞ喜んだじゃろうにのう。頑張るのじゃよ」

「はい! 頑張ります!」

「うむ、決意は固いとみた。名残惜しいがもう行くが良い」


 こうして俺は世話になった村を出ることになったのだ。それから1週間後。


「おっほぉ! ついに異世界の大都市についたぞぉ!」


 検問を通り過ぎて最初に目にした大都市の光景に思わず圧倒されて感極まる。

 ここは大都市ボルカノメトロポリス。観光案内所に衛兵が言うには、ここに住む人たちはボルカノという愛称で街の事をそう呼んでいるらしい。


「今日からここで俺の新しい異世界生活が始まろうとしているんだな……」


 思えば交通事故が全ての始まりだった。今も悔しいと思っているし無念だと思っている。


「最新作の狩ゲー。遊びたかったが。今思うと案外こんな生活もいい感じがするな」


 引きこもっていたこもあって視野が狭かったりとか、人とどう接すればいいのかなどで最初はかなり村の人達には迷惑をかけていたが。ミナさんが色々と尽くしてくれたおかげで、少しながらでも克服する事が出来た。


「ミナさんにもお礼が出来るように頑張ろう。俺は絶対に偉くなるんだ」


 そうこの場所で誓い。


「まずは生活費を稼がないといけないな。仕事を探せるハロワみたいな所を探さないと」


 俺が今持っている所持金は100ダラー。日本円で約10000円相当の金額になる。これでは当面の生活は無理だ。なので俺はこの場からハロワみたいな施設を探す事から始めることして。それから1時間後。ボルカノ職業紹介所受付前ロビーの待合席に座り。


「……はぁ」


 今の俺に出来る仕事がない事に落ち込んでいた。


『申し訳ございません。現在お客様にご紹介出来るお仕事は今のところございません』

『どういうことですか⁈』

『現状あなたの身分を証明出来るような書類をお持ちで無いからです』

『どっ、どうすればいいんだよ⁈』

『この街にするための必要な手続きをお忘れのご様子ですね』

『転入届けっていうやつか?』


 要するに俺は戸籍のない人間なので、その申請をお役所でして来いということになるのか。そうなると2度手間にはなるがいくしかなく、それから1時間かけてボルカノダウンタウンの役所を訪れて。


「では、ここに戸籍を登録する同意のサインをお願いします」


 手続きにあたって受付のお兄さんの話を聞き、俺はカウンターの上にある戸籍登録申請書に自分の名前の入ったサインを記入した。


「はい、これで正式にあなたはこの街の住人となりました。サトナカ カリトさん。ようこそ火山の大都市ボルカノメトロポリスへ。街を代表してお祝い申し上げます!」

「よ、よろしくお願いします!」


 緊張感のある時間を10分過ごして役所を去り、再び職業紹介所に通じる道を歩く中。袋の中にある手持ちのお金を数えていた。


「戸籍の申請であっという間に70ダラーになってしまったなぁ」


 これで自分の身分を証明出来るものが用意できた。お兄さんから身分証をもらえたので、またあそこに戻って仕事を探そう。ふと。


「すげぇ! またタケツカミが大物を狩って帰って来たらしいぞ!」

「いそげ! 他の奴らに場所取られるぞ!」

「ん?」


 後ろから行く道を走り去って行った二人組の若い男達が、去り際に何かに関する会話をしていたのを耳にした。直後、俺はその場で立ち止まって考え。


「タケツカミ? 日本人みたいな名前だな」


 少し興味が湧いたので俺は、彼らの向かった先に向かう事にした。すると、そこではワイワイ、ガヤガヤと大勢の人だかりが密集して出来ており、その人だかりを強引にかき分けて最前列に辿り着いたその瞬間。俺は目の前の光景に度肝を抜かれた。


「もっ、モンスターぁっ⁈」


 と、目の前にある全身赤色の巨大なカエルの死体に驚くと共にどこからともなく。


「きゃあーっ! タケツカミ様こっちをむいてぇ!」

「よっ、さすがタケツカミ。名うてのある名ハンター!」


 男女の黄色い悲鳴を耳にした直後。俺はその中のあるフレーズに興味を惹かれた。


「ハンター……」


 と疑問に思っていると。死体の側。周りの民衆に囲まれているタケツカミと呼ばれている人物が右手を軽く上げながら。


「みんな、驚かせてすまない。今日は村で悪さをしていたレッドフロッグの討伐に行って来た」


 そのように言葉を発して周囲の興味を惹き。その話を聞いた直後に拍手喝采と民衆達が湧き上がった。

全身軽鎧姿に、肩から紐を通して見たことのない形をした銃を背中にかけている男はさらに。


「さて、ここで少し。質問タイムを設けたいと思っている。何か質問のある人はこの場で挙手!」

「はい!」

「おっ、じゃぁそこのあんちゃんから」


 思わずと言うべきか。怖いもの見たさと言うべきなのか。俺は緊張しながらじっと笑みを浮かべているその男に言葉を投げかける。


「しっ、質問です!ーー」


 迷わず聞きたい事があった。


「どうすればあなたの様なハンターになれますかっ!」


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