3話:タケツカミ

 この異世界には幾つものギルドが存在している。俺の知っている限りでは10くらいは確認している。前の世界でいう所の会社組織みたいなところか、または商工会みたいな組織だと思う。


「とりあえず今日は建築ギルドに行って仕事を斡旋して貰わないとな。良い仕事ないかなー」


 そう思いながら朝日の差す街中を歩きながら、誰も通りすがる事がないので独り言を呟く。小鳥のさえずりが耳心地よく聞こえてきている。

 俺が向かおうとしている場所は建築ギルドがある事業所だ。


「あそこなら良い感じに報酬がもらえると思うし。しばらくは気楽に過ごせそうかな」


 この街で1位、2位を争う高額な報酬をくれるギルドだ。日雇いの労働をするのにはもってこいだろう。そう思いながら道中を歩いていると。


「よう、あんちゃん」

「ん? あっ」

「元気にしているかい?」


 通りすがりのちょっとお高い喫茶店のテラスから声をかけられて振り向くと。俺のよく知っている先輩ハンターであるタケツカミさんが、コーヒーカップを片手にゆったりとした様子で優雅に座っていた。

 

「おはようございますタケツカミさん!」

「名前を覚えていてくれて嬉しいよ」

「いやいや、俺にとって先輩ハンターですので挨拶をすることと。名前を覚えることは後輩ハンターの大事な仕事なので!」

「ふっ、そうだな。俺はなんといっても超がつくくらいに。最高にして最強ハンターだからな……っ!」

「いやぁ、もうそうおっしゃる通りですよ! 実にうらやましい限りです!」

「ふっ、お世辞でもかまわんさ」

「謙虚なところも貫禄があってさすがです……!」


 容姿端麗、腕も立つ有名ハンターの1人で、現在トップランカークラスのランキングでは1、2位を争う実力者なのだ。今日は黒のインナータンクトップに緑のカーゴパンツというラフな格好で朝を過ごしていらっしゃる。

 タケツカミさんの特徴と言えばやっぱり、細身でありながら筋骨隆々の体つきに、ツンツンとした金髪ショートヘアー、端正のとれた顔つき、サファイアブルーの瞳と二重の瞼、耳には緋羽のイヤリングを下げているという、まさにイケメンを象徴するお姿が魅力的な所だろう。

 それにこの方のおかげで俺は今の仕事にありつけたわけだし、感謝しきれない程の恩が先輩にはある。まぁ、兎も角だ。


「そういえば。今日はルリアさんとはご一緒じゃないんですか?」

「あぁ、あいつは近くにできた商業施設に買い物に行っているところだ。俺はあとで迎えに来て荷物持ちだ」

「こうやって英気を養っているところなんですね!」

「ははっ! そういう所だな!」

「さすがモテる男は違いますね」

「ふっ、そういうお前も早くいい女をみつけろってな……! わっはっはっ」


 タケツカミさんの爽やかな笑い声が周りによく響き渡る。ハンターの仕事をしている人って大抵声が大きいんだよな。連携を取るときに苦労しなさそうでいいな。


「すみません先輩。いまからアルバイトにいかないといけないので失礼しますね!」

「おう、頑張って稼いでこい! 明日は月に1回の緊急クエストだぜ新人。専用のクエストが沢山張られる日だからな。それに向けて準備は怠るなよ?」

「ええ、そのつもりで頑張っておりますので」


 陽気そうに見えるけど、今話している時だけはタケツカミさんの表情がプロを感じさせられる顔をしていた。

 俺はその場で上手く言葉が見つからず、ただそう建前でしか答えられなかった。


(俺だってタケツカミさんみたいにゆっくりと朝からくつろぎたいよ……)


 お金のない自分にとって、休日でも仕事をしないといけない。休みなんて今は出来ないんだから。


「じゃあ、この辺で」

「おう、いってこい」


 タケツカミさんの前では俺の弱いところは見せられない。俺は彼の前で笑顔を取り繕いながらお辞儀をして、そのまま建築ギルドに向かって立ち去ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る