第3話
「だから、それは今からでは分かりっこないんだ。僕たち――高峰君はそれでいいかな?――は、自分で何をするかという人生のコントロールを自ら行おうとしていて、それが偶然にも公共の場で行わなければならず、それが偶然にも犯罪なだけであって、そうだ。たしか福盛君は高校時代に部活の先輩に唆されて万引きをしたでしょう? ばれなかったのは幸いでしたね。まぁそういうわけで、かつての人が設けたようなことなどを完璧に護って生きているなんてことはできません」
「どうしてあんたが、俺のことを知っているのかは不問にしておくよ。でも、あんたが今言っていることなんて、ただの詭弁、いやそれ以下だ」
佐賀辺はまるで流し台に捨てるかのように、赤ワインをラッパ飲みした。すでに五本は空けているが顔色が変わるどころか、言葉使いも普段のそれと全く違わない。
「未共有の論理について語り合うのは不毛でしょう。高峰君はクリスマスツリーを燃やしたいということしか言ってませんし、それが為された後は警察やら世間やらの批判にさらされるでしょうけれど、まだ何もしていないのに咎めるのはおかしいでしょう。ツリーを燃やす自由が、彼にはあるのですよ」
「そんな自由は無い」
「快楽を、お前らのために捨てるつもりはない」
「そうですよ。他人のことを気にして譲歩するというのは非常に息が苦しくなりますね。何をすべきかという答えはいつも自分の頭を悩ませて考え抜いて見えてくることで現れるんですよ」
「じゃあ聞くけど」と健一はようやく口を開いた。「どうして燃やしたいんだ?」
「どうして知りたいんだ? 関係ないだろ」
「頭を悩ませたすえに駅の広場に飾っているクリスマスツリーを燃やすことにしたんだろ?」
「この世界にあるツリーは、燃やさないとならない。渇望というか飢餓感というか、とにかくそうなんだ」
「でもお前は、その欲望を自分では説明できていない」
「それは、この俺の脳でなければシュミレートできないからだ。あんたらみたいな、この欲望の熱もないのに無理に理解しても、そこに何もない。空焚きした風呂みたいなものさ。俺のこの感覚の器とこの欲望があってこそなんだ」
赤くなった高峰に対し、依然と素面のままの佐賀辺は缶ビールを飲み始めた。健一の冷蔵庫にあったものだ。
「すまんが、トイレを貸してくれ」といって、福盛は嘔吐をこらえながらふらつく足取りで立ち上がった。
ユニットバスなので密閉は十分されているから、彼があの中でどれだけ無茶苦茶になっても声は聞こえないだろう。
「所詮」と増田が口を開いた。「高峰はクリスマスを破壊して悦に浸るだけしかできない。貧しい享楽しか知らない」ここで一呼吸挟んだ。「空虚な目的しか知らないだけなんだよ」
高峰は酒の入っていたグラスを握りつぶした。破片が刺さり流れた血と酒が混ざった液体が彼の手の内側をつたった。
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