002 日常2
森を抜け、視界が開けた。
辺りが明るくなったせいで、つい、眉をしかめてしまう。
そこは、森の一分がぽっかり空いた空間で、森の中なのに草原の様になっている。
周りは木々に覆われているというのに、異様に明るい。
真上に太陽が見えている訳でもないのに、陽の光が、この空間を満たしているのだ。
そして、体に力が溢れてくる様な感覚がする。
詳しい事は分かっていないらしく、こういった場所特有の現象らしい。
場所によって状況は異なるのだが、ここには陽の光が溜まりやすい場らしい。
少し先に、二人の姿が見えた。
そして、二人の手元にあるものを確認する。
ラビが両手で握っている、身長ほどの長さのある、薄い刀身の、片刃の剣。
アキの右手に持たれている、一回り短い刀身の剣。
武器と呼べる、物騒な物を構えている二人は、既に戦闘態勢だった。
その様子確認した俺は、腰を少し落とし、拳を握りしめて、目線を前へ向け、いつでも戦闘が起こって良いように身構えた。
緊張しない訳では無い。
辺りを確認し、深く息を吸って、早る気持ちを落ち着かせる。
少し遠目に、こんもりとした物体が、もぞもぞと動いるのが見えた。
あいつの事は、よく知っている。
こんもりとした物体に見えるのはあいつの体が、蔦や木の葉だけで、出来ているから。
もぞもぞと動くように見えるのは、蔦や木の葉が揺れているから。
そいつは、ゆっさゆっさと左右に揺れながら、こちらへ近づいて来ている。
何を感じて、何を考えているのか、全く想像が出来ない。
こちらに来るのは、本能的な反応なだけなのかもしれない。
もしかしたら、意図があるのかもしれない。
話が出来たらなんて考えてみたこともあるけど、植物の気持ちが理解できるのか不安になって、考えることをすぐに止めた。
そいつ。草の化け物は、顔という物があるように見えない。
此方に近づいて来ている事だけは、はっきりとしているのだけど、誰を目掛けて来ているのか、分からない。
ただ、経験上知っている事がある。
その、草の化け物は、一番近くにいる相手を優先的に襲う。
この場合、一番近くにいるラビが、真っ先に狙われるだろう。
視線をだけラビへ向けると、後ろ姿しか見えないラビが、軽く頷いた。
そして、一歩前に出た。
腰のあたりで、武器を横向きに構えているラビ。
その姿勢からからは、普段の、大雑把な性格からは想像が出来ない、洗練された雰囲気を感じる。
「じゃ、いつも通りな!」
「変な事、しないでよね」
武器を構えたアキが、2,3人分ほどの距離を空けて、心配そうにラビを見つめている。
その日の気分や、調子によって行動が変わるラビにはハラハラさせられっぱなしだから、気持ちはものすごく理解できる。
それが、戦闘中に顕著に現れるのだ。
その尻拭いをするのが、俺とアキ。
いつもの事だから、良くも悪くも何も感じていない。
何か起こりそうだったら、最善を尽くすしか無い。
俺達の戦術として、最善の方法なのだ。
正常に機能してしまっているのだ。
実際、そんな、ラビの性格に助けられている事が多いのから、嫌に思うことが殆ど無い。
「その強さ、俺の瞳に、焼き付けてみせろよ」
「あ、また、始まった」
ラビは戦闘が始まる間に、いつも、この台詞を言う。
本人は格好つけているのだろうけど、聞いているこっちがむず痒くなるから止めてほしい。
そんな事を考えていたら、ラビが突進するように走り出した。
一瞬、ヒヤッとしたが、今回は、相手が一体だから、ラビ一人に任せても問題ないだろう。
変に手を貸そうと近づいたら、逆に危険な場合もある。
ラビが持っている剣は、刀身が長いため、振り回したときに、誤ってこちらが斬られる場合もある。
戦闘が慣れていない時は、度々、危険な目に合わされた。
「ここだ!」
素早く相手の懐に潜り込んだラビは、剣を相手に突き立てた。
鋭い剣が、草木をかき分け、貫いた直後、相手の内側からブワッと風が溢れ、ちぎれた草木が宙を舞った。
「結局、瞳に焼き付けることは叶わなかったな……っと、こんなもんだろ」
ラビは、こういった化物の核となる物が見えるらしい。
目は閉じられているのに、そのような物が見えるのは不思議でしか無いが、見えるらしい。
一度聞いた事があるのだが、閉じている状態でも、俺たちの見ている風景と同じものが見えると言っていた。
目を開けると、目に映る物とは別に、何かが余計に
言っている事が理解できなかったが、物語の主人公の様で、正直とても羨ましくなった。
「あ、不味いかも。他のがこっちに近づいて来てる」
「お。なんだ? 俺はまだやれるぞ」
草の塊の化物が、数体、こちらに近づいてきていた。
その様子をみたラビが、前へ進み出る。
「待てって。この一体で十分だろうし、無駄に狩ったら次が無くなるぞ」
俺に肩を掴まれたルイが、こちらを振り向いた。
「コイツ、俺が持つから、二人は殿をお願い」
俺は、足元で倒れている化物を両手でつかみ、持ち上げ、背中にくくりつけた。
首元に触れる草の感触が気持ち悪く、今にも投げ飛ばしたい感覚になるが、そんな場合ではない。
素早く担ぎ上げ、その場から駆け出した。
「アキ、置いてくぞ!」
「あ、待ってよ!」
ちらっと後ろを振り返ると、しゃがんで、何かをつまんでは拾い上げていたアキが、立ち上がってこちらに走ってくるのが見えた。
きっと、今回の目的である、背負っているコイツから落ちた実でも拾っていたのだろう。
二人が、後をしっかりついて来ることを確認した後、再度前を向いて、全力で走り出した。
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