第8話 危機の収束と新たなる始まり

 動物同士の気合のぶつけ合いで負けを認めたと言う事は、もう敵意はないと言う事。すっかり気を抜かれたモンスターは、すごすごとパルに背を向けてどこかへと帰っていく。

 僕らは、その様子をただ見守る事しか出来なかった。


「今がチャンスだ! とどめを!」


 戦況が有利になった途端に、通信機から博士のモンスター倒しちゃいなよコールがひっきりなしに届く。戦う意志をなくしたモンスターを倒す気にはなれなくて、僕はそのメッセージを右から左にスルーしていた。

 その気持ちは実際に相手をしていたパルも同じようだ。去っていく巨大モンスターをただじいっと見届けている。


 あれほど敵意むき出しで凶暴だったモンスターは、パルに負けた事でまるで自分の役目を終えたかのようにそのまま研究所を出ていき、夜の闇の中へと消えていった。


 と言う訳で、こうして研究所の危機は去ったのだった。


 モンスターがいなくなったと言う事で、シェルターから職員さん達がぞろぞろと出てくる。モンスターが暴れた入口付近から戦闘を繰り広げた部屋までの損傷は激しかったものの、それ以外の部屋はほぼ無傷で、無事な部屋で仕事をしていた職員さん達はそのまま通常業務を再開させていった。

 仕事の出来なくなった部署の皆さんは、モンスターが壊した部屋の片付けや、入口付近でモンスターに倒された警備員さん達のフォローに回っている。


 いきなり騒がしさが戻って戸惑っていると、そこに岸田博士がやって来た。僕は疲れて眠っているパルを胸に抱きながら駆け寄る。


「あんなのがいっぱいいるんですか?」

「そりゃあもう。異世界モンスターの研究は一時期各地で行われていて、加減を知らない研究者が次々と制御しきれないバケモノを野に放ってしまっている。今回襲ってきたやつだって、確実に倒しておかないとまたいつどこかで暴れるか……」


 暗にさっきの決断を責める博士の口調に、僕は精一杯の抵抗を試みた。


「でも今までそんな話は……」

「今までは表沙汰にならなかっただけだよ。これからどうなるかは誰にも分からない。もしそうなってしまったら……」


 博士はそう言うと言葉をつまらせる。僕がモンスターを見逃したのはその姿に憐れみを覚えてしまったからなのだけど、博士は博士でモンスターが人を襲う危険性を第一に考えていたのだ。

 あんなバケモノが街中で暴れたら被害がどのくらい大きなものになってしまうか見当もつかない。僕は、自分の下した安易な決断を少し後悔する。


「……分かりました。モンスター退治に協力します」

「やってくれるかい! 有難う。感謝する!」


 博士は僕の協力の言葉を聞いて目を輝かせる。これで――これで、いいんだよな? 僕は流れでつい口にしてしまった言葉を何度も頭の中で検証していた。


「大丈夫。決して君達を危険な目には遭わせないよ。そのために最大限のフォローを約束する!」

「よ、よろしくお願いします」


 研究所内は僕らが戦う意志を見せたところで一気に祝福モードに変わる。近くにいた職員から次々に握手を求められ、頑張ってとか、負けないでとか、君だけが頼りだとか、まるで物語のヒーロー扱い。最後にはスーツの人も握手に現れて、その威圧的なサングラスを外してニッコリと優しそうな笑顔をみせてくれた。

 この人達の期待に応えなくちゃと思うと、何かすごく責任を感じてしまうぞ……。



 こうして僕達のモンスター退治の日々は始まった。そこから先も色んな出来事が待っていたのだけれど、それを語るのはまたいつか――。

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