第7話 モンスターVSパル

 それで本当にうまく行くのかはまだ半信半疑なものの、やるだけはやってみようと僕はパルに向かって大声で叫ぶ。


「パル、いけーっ!」

「みゃうーっ!」


 パルは僕の声を聞き取り、大型モンスターに飛びかかった。心なしか、さっきまでの単独で戦っていた時よりも動きが早くなったような気がする。

 対するモンスターもただ黙って攻撃を受けてくれるはずもなく、大きく前足を振りかぶると、向かってくるパルを叩き落とそうとした。


「ウボワォーッ!」

「キシャアーッ!」


 パルはモンスターの動きよりも早く懐に飛び込むと、すかさず鋭利な爪を出してモンスターの腹部を掻っ切った。これによってモンスターの体液が派手に飛び散る。お約束の緑の血ではなく、もっと蛍光色な体液が部屋の床を汚していく。

 この一撃で勝負がつけば良かったものの、さっきの攻撃は浅かったようだ。


 モンスターは痛がる素振りは見せるものの、まだまだ機敏に動き、体に傷をつけたパルを執拗に狙う。どうやらもっと強い攻撃か、同じ威力なら複数回の攻撃をヒットさせなければ倒せそうにない。

 長丁場のバトルになる可能性を考え、僕はゴクリとつばを飲んだ。


「キシャアァー!」

「ウヴォオーッ!」


 一旦距離を取った2体はそのまま威嚇合戦を始める。子猫の大きさで象程もあるモンスターと互角に叫び合っているのだから、それだけでもかなりすごい事だ。

 そこからは、まるで達人同士の戦況の読み合いのように2体は一歩も動かなくなってしまった。あ、これ先に動いた方が負けるとかそう言うやつだ。

 この対戦を見守っていた僕も、緊張感で目が離せなくなってしまう。


「ウゴオオオオオ!」


 先に動いたのはモンスターの方だ。やった! これで勝てると僕が思っていると、パルはこの突然の動きに一瞬だけ対応が遅れてしまう。

 どうやら、今回は先手を取るのが正しい選択だったらしい。


「ギャウンッ!」


 モンスターからの素早い一撃をパルはモロに受けてしまう。体格差もあったのか、まともに攻撃を受けたパルはそのまま部屋の壁に激突。辛そうな声を上げて、そのまま床に落下してしまう。

 その雰囲気からして、受けたダメージはかなり深そうだ。


「パルーッ!」


 僕はこの光景に腹の底から声を上げた。パルは床に落ちたまま一向に起き上がれない。心配になって駆け寄ろうとした時、通信機から声が聞こえてきた。


「安心するんだ。あの程度で死にはしない」

「いや死ぬってそんな……。僕は博士が勝てるって言うから……」


 その後も通信機越しに揉めていると、モンスターの興味がその場にいる人間に移ったようだ。そう、それは僕なんだよね。大型モンスターが本気になれば、ただの人間なんてひとたまりもない。

 すぐにでもこの場から離れなきゃいけなかったんだけど、恐怖ですくんだ足は脳からの司令を素直に実行しようとはしてくれなかった。


「あ、あわわわわわ……」


 モンスターが近付いてきたので、僕は恐る恐るこの敵の顔を見る。初めてじっくりとしたその顔はとても怒りに満ちていた。

 この世の全てを憎むような形相を目の当たりにして、ますます僕は恐怖で動けなくなってしまう。


「ガウアッ!」


 次の瞬間、モンスターは振りかぶった右腕を一気に振り下ろしてきた。あんなのが直撃したら、僕の体は簡単に真っ二つになってしまうだろう。

 僕はしゃがみながらギュッと固くまぶたを閉じて、腕を顔の前に交差させる。


「ニャウアーッ!」


 もうだめだと覚悟を決めたその瞬間、倒れていたはずのパルが立ち上がったかと思うと、一瞬でモンスターに向かって突進する。本当にそれは光の速さだった。

 モンスターですらこの動きを正確に把握出来ず、パルの強烈な一撃をまともに受けてしまう。


「ウブオッ!」


 モンスターはパルの渾身の一撃を受けて、そのまま反対側の部屋の壁にふっとばされた。あの小さな体に一体どれだけのパワーを秘めていると言うのだろう。

 流石に疲れたのか、全力の一撃を放った後のパルは体全体で息をしている。どうかこれで戦闘終了してくれと、僕は本気で願った。


 壁にめり込んだモンスターはしばらく失神していたものの、わずか数秒で復活。自力で壁を壊してそのままパルの前に向かってくる。ダメージを負っている事は間違いないようだけど、まだ戦意は失われていないようだ。

 さっきみたいなやり取りがまだまだ続くと考えると、僕は少し気が遠くなる。


「キシャアァー!」

「ウゴオオオー!」


 対峙する2体はお互いに興奮状態で、またしても威嚇合戦が始まった。そんな状況を眺めている内に、僕は最初の命令以外は特に何もしていなかった事に気付く。

 なのでせめてここにいる意味を見出そうと、必死でパルの応援をした。


「パル、気合だーッ!」

「ウニャアアアーッ!」


 僕の応援が力になったのか、パルは全身の毛と言う毛を逆立てて、モンスターに向かって本気で威嚇をする。その気迫は対峙している大型モンスターすら怯ませるほどだった。

 やがて根負けしたのか、モンスターから勢いが消える。このにらめっこはどうやらパルの勝ちと言う事になったらしい。

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