第5話 パルの正体とその使命
「ああ、そうだ。あれらは穴を通ってやって来た、この世界にいるはずのない生き物だよ」
「でもあんなの初めて見ました。博士の話だともっとたくさん発見されていてもおかしくないんじゃ?」
「それはもう少し経緯を詳しく話さないといけないね。そう、次元に穴が空いたのはある実験中の事だった……。実験室に次々に現れた異世界の猛獣達はその場で処分された。危険性が分かっていたので対策が取られていたんだ」
「えぇ……」
現実的な武器で対処可能と言う博士の言葉に、僕の予想は覆された。てっきりそのモンスターに対抗するにはパルを戦わせるしか手段がないとか、そう言う展開だと思っていたからだ。
それもあって、僕は余計に自分まで呼ばれた意味が分からなくなる。
「最初は現代兵器で対処出来ていたんだ。アズマが次元に穴を開けると言っても、高出力で規定以上にレベルを上げない限りは安定した大きな穴は開かないはずだった」
「えっと……?」
「異世界の生き物が現れたら研究したくなるものだろう? やがて意図的に次元に穴を開ける研究が進められてしまったんだ。そうしている内に現代兵器の通用しない本物のモンスターが現れるようになってしまった」
博士によれば、未知の解明と言う目的で異世界の生き物の研究が進められてしまい、事態が悪化してしまったらしい。おお、話が段々核心に近付いてきたぞ。
博士は若干興奮しながら、また画像を切り替えた。
「僕はこうなる未来を予想して、そんなモンスターに対抗出来る生き物を急いで研究していたんだ。何百回と失敗して唯一成功したのがA251と言う訳さ」
「でも、こいつは傷だらけで俺の前に……」
「A251が成功例と確認された直後に研究所は襲われてしまった。幸い僕は他の仕事で別の場所にいたのだけれど、襲われた研究所は壊滅してしまったよ」
「そ、そんな……」
その言葉が信用出来るとしたら、パルはこことは違う研究所で生まれたと言う事になる。だからここに来ても特に嫌がらなかったのかも知れない。
それと、博士が新しい生き物を研究していたと言う事はつまり、動物実験を繰り返していたと考えるべきなのだろう。全く新しい生き物、それが異世界の生き物と何らかの関係がある事は容易に想像出来た。
僕は膝の上で丸くなるパルをなでて観察しながら、投げかけるべき質問を考える。
「何で研究所は襲われてしまったんですか? まさかパルが原因だとでも?」
「その可能性はある。モンスターには自分の敵になるものを排除する本能があるからね。どうやってA251の存在に気付いたのかは分からないけど」
「じゃあパルはそのモンスターと戦ったから、僕と会った時にあんなに傷だらけになっていた……?」
「ああ、そう考えて間違いないと思うよ」
博士は僕の想定を肯定する。僕の目の前に現れたモンスターはパルが一撃で倒していた。と言う事は、研究所を襲ったのはもっと手強い相手だったのだろう。
パルが僕の目の前に現れた経緯はそれで分かったけれど、まだまだ分からない事だらけだ。どうして僕に懐いたのか、どうして僕の腕を舐めただけで傷が治ったのか、スーツの人が言っていた繋がってしまったとはどう言う意味なのか――。
疑問が多すぎた僕は、次にする質問を吟味する。
「と言う訳で、君にはA251と共に異世界モンスターの退治をして欲しい」
「は? いや訳が分からないんですけど?」
「A251は君をマスターと認めた。もう君の言う事しか聞かないんだ」
「嫌です。何か危なそうだし、そんなモンスターとパルを戦わせたくない」
僕は安心して眠っているパルをなでて癒やされる。こんないたいけな生き物を、訳の分からないバケモノと戦わせるなんて出来るはずがない。普通にしていたらこの子は生後数ヶ月の子猫にしか見えないのだから。しかも僕に懐いてくれているし。
僕がパルの事に夢中になって博士を無視していると、突然ドンと机を叩く音がして焦って顔を上げた。
「君はあのモンスターの怖さを分かっていない!」
「えっ、いやそうかもですけど……」
博士はそう言うと背後のスクリーンに悲惨な写真を次々に表示し始めた。粉々に破壊された建物や焼け焦げた死体写真――見るに耐えないものも多い。この紛争地域の現場写真みたいな惨劇は全てそのモンスターが起こしたものらしい。
その時は現代兵器で対処しようとしたらしく、多数の丸焦げの死体と共に多くの武器や兵器の残骸も転がっている。
「この時は1個中隊の武器と人命を全て犠牲にして何とか問題を処理している。モンスター一体の暴走だけでこの有様なんだ」
「そんな危険なバケモノをパルに倒させるんですか!」
「A251にはその力がある。同じ異世界生物から作ったそいつなら出来るんだ!」
「そんな事言ったって……」
博士の言葉が確かなら、大きな被害を生み出さないようにするためにはパルを戦わせた方がいいのだろう。きっと戦って勝てるポテンシャルがあるからこそ、僕に対して何もかも包み隠さずに話して説得を続けているのだろうし。
事情が分かったとは言え、見た目子猫のパルを何かのゲームみたいに戦わせると言うのはやっぱり気が引けた。
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